Word.84 をワラヌ明日ヘ 〈4〉
『ううぅぅ…!!』
二人の中心で、二人の力がぶつかり合い、ぶつかり合ったその瞬間、二人の体に、大きな衝撃が走る。すでに、その力に耐え切れるような状態ではない。だが、譲るわけにはいかず、二人は必死に堪え、目の前の力へと、集中する。
「グ、くぅ…!」
必死に歯を食いしばり、銃を握る両手に、力を込め続けるアヒル。
「う、ううぅ…!」
永遠も、突き出した右手に力を込めながら、必死に、背中の翼を広げる。
「……っ」
視界が光に支配される中、永遠がそっと、目を細める。
―――死にたくないよ、お姉ちゃん…―――
あの日、始まった“永遠”。
―――もうお前を、一人にはしない…―――
―――やめて、遠久サン…!―――
―――あなたが望むのであれば、僕も、“明日”などいりません―――
少しずつ狂い始めた、“何か”。
―――芽衣子…!―――
―――明サァァァァン…!!―――
―――逝ってしまったんだね…桃雪…―――
もう戻らない、“すべて”。
「俺が、俺が終わらせる…」
過去の出来事を思い出し、永遠がそっと呟きを落として、言玉を持つ手を、さらに強く握り締める。
「この絶望を、この悲しみを…この、“永遠”を」
わずかに震える、永遠の声。細められたその瞳は、潤んでいるようにも見える。
「この、すべてを…!」
永遠の叫び声と共に、より一層、輝きを増す永遠の翼。
「終われ、終われ!終われぇぇぇぇ…!!」
何度も繰り返されるその言葉に、永遠の翼がまた大きく広がり、その翼から光が放たれ、前方でアヒルの力とぶつかり合っている白光と合流し、さらに、その勢いを増す。
「ううぅう…!」
勢いを増す永遠の力に、一気に押され始めるアヒル。構える銃の銃身の一部にヒビが入り、そのヒビから、砕けるようにして、銃の欠片が飛ぶ。銃を持つ両腕にも、次々と傷が入り、アヒルの表情が、苦しげに歪む。
「やっべぇなぁ、これっ」
徐々に体を、弾丸ごと、後ろへと押されていきながら、困ったような笑みを浮かべるアヒル。笑ってはいるが、その表情に余裕の色は、少しもない。額からは、赤い血と共に、汗が流れ落ちている。永遠の力は、言葉は重く、これを弾き返すほどの力は、今の傷ついたアヒルには、どこを探してもなかった。
「クソ…!」
悔しげに唇を噛み締め、少し顔を俯けるアヒル。
「……っ」
俯いたアヒルの視界に、また、生まれ育った町の景色が、飛び込んできた。言ノ葉の穏やかな町並みを見下ろし、アヒルがどこか、懐かしむように、目を細める。
―――いってらっしゃい、アーくん!―――
―――おはよう、ガァ!―――
―――まぁ~た、遅刻かぁ?朝比奈!―――
あの懐かしい町で、毎日のように、何げなく、交わされてきた言葉たち。
―――おかえり、アーくん―――
―――アーくんは俺の、自慢の弟だもん!―――
大切な、言葉たち。
―――また、明日!―――
明日、出会う日々を、約束する挨拶。
―――あなたが、朝比奈アヒル…?―――
―――僕等は、あなたの神附きだ―――
―――はぁ~!こんな俺が、転校してきちゃって、すみませぇ~ん!―――
―――お、おおおおおはよう、朝比奈くん!今日も絶好の、焼きそばパン日和だね!―――
明日、出会う日々を、約束した仲間たち。
「終わらせ、ない…」
アヒルの口から、零れ落ちる言葉。それは、アヒルが発しようとして、零れた言葉ではなかった。アヒルの胸に湧き上がった想いが、溢れ出るように、言葉となって、落とされたのだ。
「終わらせない…」
もう一度、その言葉を繰り返し、アヒルが傷ついた両手で、強く、銃を握り締める。
「“諦めない”…!」
アヒルの力強い言葉に呼応し、銃がまた強く輝きを放つ。銃が輝きを増すと、その光が、前方の弾丸へと伝わり、弾丸がその勢力を増して、押され始めていた永遠の光を、また強く押し返す。
「う、ううぅ…!」
押される光により、背中の翼も後方へと押しやられ、永遠が、苦しげに表情を歪ませる。
「俺が、俺が終わらせるんだ…!“言葉”を、“明日”を、“永遠”を…!」
押される自身を否定するように、必死に首を横に振り、自らを信じ込ませるように、何度も何度も、強く言葉を投げかける永遠。
「俺がっ…俺がぁぁぁ…!!」
永遠の命懸けの叫び声に、また、永遠の光の輝きが増す。
「ク…!」
またしても押し戻される弾丸に、腕に走る傷が増え、表情を苦痛で歪めるアヒル。だが、そこで踏ん張り、それ以上後退しないように、必死に堪える。互いに、一歩も譲らないぶつかり合い。必死で、周りの状況など、とても見えている様子ではない永遠に対し、アヒルは妙に落ち着いた、静かな表情を見せていた。
「お前がどんなに、それを望んだところで、それは、終わらない」
激しい攻防を続けたまま、アヒルが冷静に、永遠へと言葉を向ける。
「それは、決して終わらない!」
確信を持った瞳で、アヒルが力強く言い切る。
「だから、俺たちは行く」
遥か先を見据えたまっすぐな瞳で、アヒルがただ、永遠を見つめ、そして大きく、口を開く。
「“明日へ”…!!」
アヒルの力強い言葉と共に、また光を増したアヒルの弾丸が、一気に強大となり、ぶつかり合っていた永遠の白光を、呑み込んでいく。
「ああ…!」
呑み込まれていく自身の光に、大きく目を見開く永遠。だが、永遠が焦る間もなく、永遠の光を呑み込み、さらに大きな光となったアヒルの弾丸が、永遠へと迫って来る。
「あ…」
すぐそこへと迫る、もう永遠ではどうすることも出来ないほどに、大きな光の弾丸。抵抗する術もないことを悟り、永遠が力なく、目を細める。
「これが…“終わり”…」
ポツリと言葉を落とした永遠を、次の瞬間、アヒルの弾丸が一気に包み込んだ。
――――バァァァァァン!
「あ…!」
上空の空間のあった辺りで、下の地面を揺るがすほどの、大きな光の爆発が起こり、下方から見守っていた篭也が、思わず身を乗り出す。
「か、神ぃぃぃぃっ…!!」




