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あノ神ハキミ。  作者: はるかわちかぜ
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Word.68 うノ神ノ真実 〈3〉

 韻本部、上層部会談室。

「どういうつもりだ!?」

 広い部屋の中央には、年齢層高めの老人たちが、韻の黒い着物を纏った従者たちにより、床に座らされ、両手足を縄で縛られ、拘束されていた。老人たちの代表であろう、小柄の白髪の老人が、怒りを前面に押し出した表情で、勢いよく声をあげる。

「我々、上層部をこのような目に遭わせて、覚悟は出来ているのであろうな!?宇田川茜!」

 韻上層部の者らしきその老人の見上げる先で、静かな表情を見せているのは、アヒルたちを牢から救い出した、内部組織“謡”の女性、茜であった。

「私は、私が正しいと思う判断に、従っただけです」

「何だと…!?」

「“遠の神の力を使い、世界を自身の自由にしよう”などという考えを持つ者たちに、韻を任せてはおけません」

「うっ…!」

 茜の鋭い言葉に、老人は大きく表情をしかめ、黙り込む。

「茜様」

 従者に呼ばれ、茜が振り返る。

「言ノ葉山に行っていた安の神たちが、戻られました」

 従者のその言葉とほぼ同時に、会談室の大きな扉が開き、そこからアヒルを初めとする安団の皆や、ウズラたち宇団と恵、為介、そして和音が続々と、部屋の中へと入って来た。

「アヒル」

 集団の前の方を歩くアヒルを見つけ、茜が嬉しそうに笑みを零す。

「こ、言姫…!」

 アヒルに言葉を掛けようとする茜の声を遮り、茜に責められていた老人が、救いを求めるように、部屋へと現れた和音の名を呼ぶ。

「こ、これはどういうことだ!?お前は言ったじゃないか!お前の言う通りにさえしていれば、すべてがうまくいくと、そう…!」

 必死に叫ぶ老人の言葉にも、表情を崩さず、ただ落ち着き払った表情を見せた和音は、アヒルの横を通り過ぎ、茜のすぐ目の前へと立った。

「今、この時より、韻のすべての決定権を、謡へお渡しいたします」

 和音の凛とした声が、静かな部屋中に響き渡る。

「な、何を言っている!?勝手なことは許さんぞ!言ひ…!」

「処罰を」

 反論する老人の声を、和音が強く遮る。

「我々に処罰を、お願いいたします」

 そう言うと、和音は茜へ向け、深々と頭を下げた。頭を下げたまま、まったく顔を上げようとしない和音を見て、茜がそっと目を細める。

「拘束中の者たちを、特別収容施設へ」

『はい』

 茜の指示に従者たちが一斉に頷くと、従者たちは、嫌がったり、抵抗を見せる韻上層部の者たちを、力強く押し引きし、部屋の外へと連れていった。

「彼女も」

「はい」

 小さく付け足されたその指示に、茜のすぐ横に立っていた従者が頷くと、俯いていた和音の肩をそっと押し、上層部の者たちに引き続くようにして、和音を部屋の外へと連れていく。

「安の神」

 連れられていっていた和音が、アヒルの横で立ち止まる。和音の背を押していた従者も、そこで立ち止まり、和音を無理やり進めようとする素振りは見せなかった。

「謝って許されることではないと、理解しています。ですが、この言葉だけは、伝えさせて下さい」

 和音がまっすぐにアヒルを見つめた後、深々と頭を下げる。

「申し訳ありませんでした」

「言姫さん…」

 頭を下げる和音に、掛ける言葉も見つけられず、アヒルはただ目を細め、和音を見つめた。しばらくの時間が経つと、和音はゆっくりと顔を上げ、アヒルの後方に居る者たちにも一礼して、再び従者と共に、部屋の外へと歩き進めていった。

「わ、和音…!」

 連れて行かれる和音の姿に、篭也が追いかけようと、思わず身を乗り出す。

「待て」

 恵ががっしりと篭也の肩を掴み、篭也を止める。

「お前の気持ちもわからんでもないが、あいつのやったことは、そう簡単に許されることじゃない」

「先生…」

 諭すように言う恵に、そっと目を細める篭也。

「あいつもそれをわかっているからこそ、自ら処罰を願い出たんだ。これは、あいつのケジメだ。わかってやれ」

 恵のその言葉に言い返すこともなく、篭也はただ、深く俯いた。

「残った者たちは、遠の神の探索と、運ばれて来た者たちの手当ての続きを。これから、韻の指揮は私が取ります」

『は!』

 堂々と言い放った茜の言葉に強く頷くと、部屋に残っていた、謡の者だけではなく、本来、韻の者であった数十名の従者たちは、茜の指示に従い、一斉に部屋の外へと飛び出していった。

「さてと」

 従者がすべて、部屋の外へと出ると、茜が少し肩を落とし、額に手を当てる。

「ここまではいいとして、これから、どうしたものか…」

「ホントだねぇ」

 横から聞こえてくる暢気極まりない声に、茜が一瞬表情を止めて、ゆっくりと振り向く。

「ホント、どうするぅ~?茜ちゃ~ん」

「…………」

 茜へと馴れ馴れしく声を掛けたのは、戦いの場に立っていた時とはまるで違う、いつものように緩みきった笑みを浮かべたウズラであった。そんなウズラを見つめ、茜がしばらくの間、固まる。

「アヒル、大丈夫ですか?」

「はぁ!無視!?」

 何事もなかったかのようにアヒルの方を振り向き、声を掛ける茜に、ウズラが激しくショックを受ける。

「怪我は?」

「あ、ああ。スー兄に治してもらったから、もう全然」

 アヒルの身を心配する茜に、少し戸惑いつつ、答えるアヒル。

「ううぅ~、茜ちゃんが冷たいよぉ」

「さっきは、まるで別人みたいに頼り甲斐あったのに、やっぱりいつものアホ親父か…」

 床にしゃがみ込み、落ち込んでいる父の姿を横目に見て、アヒルが呆れたような顔つきとなる。

「ホント、戦いの時は別人だよねぇ~ボクもいっつも、“本当に同じ人?”って思っちゃうもぉ~ん」

「まぁ、為介さんもですけどね…」

 呆れかえるアヒルへと声を掛ける為介の横で、雅がひっそりと呟く。

「ってか」

 アヒルが思い出したように、茜の方を見る。

「親父の知り合いなのか?最初会った時から思ってたけど、なんで俺の名前知ってんだ?あんた」

「え?」

 アヒルの疑問視する瞳を受け、茜が戸惑うように目を丸くする。

「まぁ、そりゃ知ってるだろうねぇ~」

 茜の代わりに答えたのは、いつの間にか立ち上がったウズラであった。ウズラが歩を進め、茜のすぐ横へと並ぶ。

「だって、アーくんのお母さんだもぉ~ん!」

「へ…?」

 笑顔で茜を指差すウズラに、アヒルが一瞬、固まる。

「ええぇぇぇ!?」

 次の瞬間、目を見開き、大声で驚きあげるアヒル。

「いい反応…」

「ま、予想通りだけどなぁ」

 驚いているアヒルを見ながら、落ち着いた様子で言葉を交わすスズメとツバメ。どうやらこちらは、茜が母親であることを知っていたようである。

「か、かかかか母ちゃん!?」

「うん、そぉ~」

 激しく動揺するアヒルに、ウズラが暢気に頷きかける。

「だ、だって母ちゃんは、俺が物心つく前に、親父に愛想つかして出て行ったって…!」

「うん。出て行って、韻入って、内部組織作っちゃったんだよぉ~茜ちゃんはぁ」

「マ、マジ…?」

 茜を指差したまま、ごくごく自然に答えるウズラに、アヒルが唖然とした表情となる。父が父だけに、母が愛想をつかして出て行ったことに、特に疑問は持っていなかったが、こんな形で再会するとは、思ってもいかなった。

「父が旧世代“宇の神”で、母が韻内部の者とはな」

「よくよく考えてみると、凄い家系よねぇ。アヒるん」

 こちらも驚いた様子の篭也と、その横で感心するように微笑む囁。

「というか、さっきから…」

「んん~?」

 小さく落とされる茜の声に、ウズラが笑顔のまま、大きく首を傾げる。

「なぁにぃ?茜ちゃっ…」

「人、指差してんじゃねぇよぉ!ヒゲがぁ!」

「ぎゃあああ!」

「いいっ!?」

 問いかけようとしたウズラが、荒々しく叫びあげた茜に勢いよく殴られ、壁際まで吹き飛ばされていく。吹っ飛んでいく大きなウズラの体に、目玉が飛び出しそうなほどに驚くアヒル。

「う、ううぅ~痛いよぉ。茜ちゃ~ん」

「黙れ、ヒゲ。さぁ、話の続きをしましょうか。アヒル」

「え?あ、ああ…」

 床に倒れ込み、痛がるウズラに冷たい言葉を吐き捨てると、茜がすぐさま満面の笑みとなって、アヒルの方を振り向く。茜のあまりの変わりように、アヒルはただ呆然とする。

「ど、どうしよう…すっげぇ怖ぇ」

「逆らうなよぉ?ウチの母ちゃんは、ツバメの呪いより怖ぇからな」

「うん…あれには、僕の藁人形も効かない…」

 実の母に怯えるアヒルに、スズメとツバメが背後から、忠告するように声を掛ける。

「で?結局のところ、あの変態馬鹿マヌケ親父に愛想をつかして、出て行ったというのは本当なの…?」

「おい。人の親にちったぁ、気ぃ遣え」

 歯に衣着せぬ言葉で、茜へと問いかける囁に、アヒルが思わず顔をしかめる。

「まぁ、愛想つかしていたのは、もっと前からなんですけどね」

「酷いよぉ~茜ちゃ~ん」

 笑顔で答える茜に、遠くから、倒れたまま嘆くウズラ。

「変態馬鹿マヌケクソヒゲ親父は、ともかくとして」

「増えてるが…?」

 さらりと言う茜に、篭也も表情を歪める。

「四人のカワイイ息子たちを残していくことは、本当に心苦しかったのですが…」

「私が頼んだんだ」

 茜のすぐ横へと、出てくる恵。

「“和音と韻に不審な動きがあるから、韻を内部から見張ってほしい”ってな」

「韻の、内部…」

 説明した恵の言葉を繰り返し、篭也が少し考えるように俯く。

「そういえば、あなたは前、始忌シキの情報を得てきた時、韻内部にちょっとした知り合いがいると…」

「ああ。あれはこの、茜のことだ」

 顔を上げた篭也の言葉に、恵が大きく頷く。

「私やウズラじゃ面が割れてる上に、その時はすでに五十音界から追放食らってたからな。茜に頼むしか、なかったんだよ」

 恵が少し視線を落とし、ゆっくりと肩を落とす。

「事情があったとはいえ、幼いお前等から、母親を奪ってしまったこと、申し訳なく思う」

「恵が謝ることではありませんよ」

 アヒルたち兄弟に詫びる恵に対し、茜が優しく声を掛ける。

「あの時の、あなたの判断は間違っていなかった。それに」

 茜がゆっくりと、アヒルやスズメ、ツバメの方を見る。

「この子たちはこんなに、立派に育っているではありませんか」

 大きく成長した三人の息子の姿を瞳に映し、茜は満足げな笑みを浮かべた。

「それはもう、お父さんが男手一つで頑張って育てたからでぇ…!」

「うるさい、ヒゲ」

「いやああぁ!」

 やっと立ち上がり、再びやって来たウズラが、またしても茜の拳により、勢いよく殴り飛ばされる。

「きっと、カーくんがしっかりしててくれたからですねぇ」

「やっぱ怖いって…」

 すぐさま笑顔を向ける茜に、アヒルがどこかげっそりとした表情となって呟く。

「カモメさんは、知って…?」

「いえ。私からは何も話していきませんでした」

 眉をひそめ、問いかける篭也に、茜が少し表情を曇らせて答える。

「ですが、何となくは察していたと思います。人の心に、よく気のつく子でしたから」

 懐かしむように目を細める茜の横で、恵が哀しげに俯く。

「スー兄とツー兄は、知ってたのか?」

「ああ。五年前、五十音士になって、宇団に入った時に会った」

 振り返ったアヒルに、スズメがすぐに答える。

「内緒にしてて、ごめんね…アヒルくん…」

「別にいいよ。音士になる前の俺にじゃ、言うに言えなかったんだろうし」

 謝るツバメに、アヒルが笑みを向ける。阿修羅の一件もあったので、スズメとツバメがアヒルに言えず、苦しんでいたことは、アヒルも十分に理解していた。

「て、てか、そうだ。カー兄といえば俺、親父に聞かなきゃいけねぇことが、あったんだった!」

 思い出した様子で大きく手を叩き、アヒルが倒れ込んでいるウズラの方を振り向く。

「親父が旧世代の神だったってことの説明と、それとっ…」

 アヒルが少し躊躇うように、一瞬の間を置く。

「あの、“遠の神”の永遠って奴のこと」

『……っ』

 アヒルから永遠の名が出ると、ウズラや茜、そして恵たちが、一斉にその表情を曇らせる。途端に重くなる空気に、永遠という存在の大きさを、思い知らされるようであった。

「それに関しては、私たちも一から説明を聞きたいわね…」

 一歩前へと出た囁が、茜へと鋭い視線を向ける。

「アヒるんが居るから一応、この場には集まらせてもらったけれど、言ノ葉山でのことを知らないから、正直さっきからサッパリ状態なのよね…」

『うんうん』

 囁の後ろから、囁の言葉に大きく頷く保と七架。アヒルと篭也を言ノ葉山へ向かわすため、韻の追っ手と戦っていたため、遠の神復活などの情報を、まったく得ていないのであった。

「ええ。それは勿論、一から説明させていただきます」

 しっかりと頷き、茜が囁たちへと笑みを向ける。

「あなた方の、いえ、この世界中のすべての人々の言葉に、関わる問題ですから…」

「…………」

 茜のその言葉に、アヒルがそっと俯き、険しい表情を見せる。


―――“”…この世で唯一、すべての言葉を、終わらせることの出来る文字ですよ―――


「……っ」

 思い出される桃雪の言葉に、永遠の力に、込み上げる不安を閉じ込めるように、きつく拳を握り締めるアヒル。

「とりあえず、場所を移しましょうか」

「うん」

 茜が振り向き、声を掛けると、やっと立ち上がった様子のウズラが、真面目な表情を見せて頷く。

「長い話に、なりそうだからね…」

 そう言ってウズラは、そっと視線を落とした。


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