Word.6 二人目ノ神 〈1〉
「為の…」
篭也が知らせた事実を、為介を見上げながら、ただ茫然と呟くアヒル。
「神…?」
「アハハぁ~、正体がバレたところで、改めまして初めましてぇ~、“安の神”・朝比奈アヒルくんっ」
困惑しきった様子のアヒルへ、為介が陽気な笑顔を向ける。
「俺と同じ…神…?」
「うぅ~ん、正確に言うとぉ、“君と同じ”ではないんだけどねぇ~」
「へっ?」
少し首を捻る為介に、アヒルが目を丸くする。
「その男は、あなたと同じ五神の一人、“以の神”ではない。“以の神”はまた、別にいる」
「篭也」
話しているアヒルと為介のもとへ、篭也が歩み寄ってくる。
「“い”の旧字体に“ゐ”という字があるだろう?」
「はっ?」
「いや、いい。あることを今知れ」
勢いよく首を傾げるアヒルに、すぐさま理解を諦め、説明を省略する篭也。国語嫌いのアヒルに、旧字体の話をしても、伝わるはずがないと踏んだのであろう。
「その男は旧字体“ゐ”の力を持つ神。“為の神”と呼ばれ、今の“以の神”とは区別されている。わかるか?」
「まったく」
「…………」
大きく首を横に振るアヒルに、怒りが込み上げたのか、勢いよく眉を引きつる篭也。
「つまり彼は…“旧世代の神”、というわけね…」
「ああ」
「旧世代っ?」
篭也に続くようにして歩み寄ってきた囁の言葉に、頷く篭也。アヒルは聞きなれぬ言葉に、さらに首を傾げる。
「でも、なら何故…旧世代の神がこんなところに…?」
「ああ。僕も“為の神”は、数十年前に五十音士の世界から、姿を消したと聞いている」
「数十年前っ!?」
篭也の言葉に、思わず大きく目を見開くアヒル。
「っつーことはコイツ、若く見えるけど、結構なオッサンてことっ…?」
「アハハハァ~っ」
疑いの目を向けるアヒルに、ただ陽気に笑うだけの為介。
「ボクがここにいるのは、たまたまこの辺に住んでるからだよぉ~言ノ葉町って居心地良くってさぁ~」
笑みを浮かべたまま、二人の疑問に、為介があまり信用出来ない、軽い口調で答えていく。
「そしたら近くで、新しい神様が誕生したっていうじゃなぁい?」
「うぇっ?」
急に視線を向けられ、アヒルが思わず声を漏らす。
「だからちょっと挨拶をって思ってねぇ」
「挨拶、ね…」
「それとっ」
「それと…?」
言葉を付け加える為介に、篭也が眉をひそめ、顔を上げる。
「忠告に…」
「忠告?」
「最近、この辺りでの、忌の増加が報告されてる」
『……っ』
為介の言葉に、篭也と囁が、同時に表情を曇らせた。
「忌の…増加…?」
「うん。正しく言うと増発かなぁ?今までは問題なかった、些細な悪意ある言葉にまで、忌が憑くようになっちゃってるわけ」
「些細な…」
少し首を捻りながら、篭也が近くで倒れている、ツバメを襲った男たちを見る。スズメが向けた言葉を軽視するわけではないが、これ程大勢の人間に、一斉に忌が憑くというのも、確かに今まででは考えられない話であった。
「増発か…確かに思い当たる節はあるわね…」
篭也と同じことを考えたのか、囁が納得するように言葉を発した。
「他の五十音士たちも気付き始めてるよぉ~直に動き出すんじゃないかなぁ~」
「随分と詳しいんだな」
「情報集めが大好きなもんでねぇ~」
睨むように見る篭也に、動じもせずに笑顔を返す為介。
「んじゃあ忠告はしたからぁ~」
「へっ?」
軽く手を上げた為介が、あっさりとアヒルたちに背を向ける。
「挨拶も済んだし、眠いから、とっとと帰ろうかぁ~雅くぅ~んっ」
「嫌です」
「えっ!?ここって断る流れっ!?」
共にやって来た雅という青年に、一緒に帰ることを断られ、ショックを受けながら、為介は足早にその場を去っていく。
「お、おいっ…!待て!まだ話がっ…!」
「篭也」
「……っ」
為介たちを追って行こうとした篭也が、囁に呼び止められる。
「今は為の神より…この場を何とかしないと…」
「あっ…」
囁に言われ、篭也が冷静な表情となって、周囲を見回す。傷は治したが、まだ気を失ったままのツバメと想子に、忌に取り憑かれた後で倒れこんでいる男達。囁が言うように、この者たちをどうにかすることが、今は急がれることであった。
「そう、だな…」
歯切れ悪く頷きながら、為介たちの去っていった方角を振り返る篭也。もう二人の姿は見えず、どちらにしろ、追うことは不可能であった。
「……っ」
篭也がそっと目を細め、ツバメの横に座り込んだまま、まだ不安げにツバメを見ているアヒルを見る。
―――“当たれ”…“当たれ”…!―――
あれ程、忌に取り憑かれた人間を傷つけることを嫌がっていたというのに、何の躊躇いもなく、銃弾を撃ち続けたアヒル。
「神っ…」
「……っ」
篭也に呼ばれ、アヒルが顔を上げる。
「その…」
「お、俺っ、想子、家まで運んでくっから、お前ら悪りぃけど、ツー兄連れて、俺ん家戻っててくれっ」
「えっ…?」
篭也の言葉を遮るようにして立ち上がったアヒルが、地面に寝かせていた想子を背負い、急に大きな声を放つと、篭也は少し眉をひそめた。
「すぐ帰っから!」
「あっ…」
まるで逃げるように背を向けるアヒルに、篭也が思わず身を乗り出す。
「神っ…!」
「……っ」
強く呼ぶ篭也の声に、動かしていた足を止めるアヒル。
「今日のことは…十発十中、全部俺が悪いっ…」
「えっ…?」
「ごめんっ…」
「……っ」
そっと謝罪の言葉を落とすと、アヒルは想子を背負い、想子の家へと足早に歩き去っていった。その場に、アヒルを追うように伸ばされた手を、ゆっくりと下ろした篭也と、囁が残る。
「アヒるん…」
アヒルの去っていった方角を見つめ、そっとアヒルの名を呟く囁。
「やっぱりもっと国語のお勉強させないとね…使うところも間違ってる上に、十発十中って…」
「…………」
「ふぅっ…」
冗談めかして話す囁であったが、隣で厳しい表情を見せている篭也を見て、そっと肩を落とした。
「我が神は…どんな傷痕を抱えているのかしらね…」
「えっ…?」
囁の言葉に、篭也が眉をひそめて振り向く。
「前から少し…おかしいとは思ってたの…」
囁が篭也から目を逸らし、再びアヒルの歩き去っていった方を見つめる。
「彼の傷ついた者への配慮…言葉を大切にするその行動…それはあまりに強くて…まるで執着のようにも見えたわ…」
「執…着…」
その言葉を繰り返しながら、過去のアヒルの言動を思い出す篭也。
―――紺平は傷つけられただけだぞ!?どうして傷つけられなきゃならない!―――
―――誰にも受け止めてもらえなかったアイツの言葉は、アイツに返って、アイツ自身を傷つけた…―――
―――傷ついた奴を、平気で傷つけるような奴と、俺は一緒に戦えない…―――
確かにアヒルは、傷ついた者を傷つけまいとする思いは異常なほど強く、人の放つ言葉の重みを知り、そして知ろうとする人間であった。
「彼の抱いている傷痕がその執着を生んでいるのか…まぁとにかく、彼に何かがあることは確かでっ…」
「何を抱いていたとしても…」
「……っ」
遮るように放たれる篭也の声に、囁が言葉を止める。
「言葉にしないなら…何も伝わらないっ…」
「…………」
どこか寂しげな表情を見せる篭也に、囁がそっと目を細める。
「そうね…」
頷く囁の声が、静かな夜の闇に落とされた。
翌朝・朝比奈家。
「おっはよぉん!アーくぅ~ん!」
今日も全力で元気な朝比奈家の父が、満面の笑顔で、アヒルの部屋へと飛び込んでいく。
「喰らえ!ピーマン爆弾っ!って、あれれっ?」
「あっ?」
両手一杯にピーマンを抱えた父が部屋に飛び込むと、そこにはすでに眠りから覚め、制服姿に着替えて、用意万全といった様子のアヒルが立っていた。そんなアヒルの姿に、父が目を丸くする。
「おはよう」
「お、おはよぉ~。アーくん、今日は随分と早いねぇ~」
「まぁな」
少し戸惑った様子の父に答えながら、アヒルは机の上に置いてあった鞄を持ち、父の横を通り抜けて、階段を降りていく。
「さぁ、朝飯朝飯っ」
「んん~っ?」
足早に一階に降りていくアヒルを見ながら、父は大きく首を傾げた。
「悪かった!堪忍!ごめん!マジで許して!」
朝比奈家一階の居間では、スズメが深々と頭を下げ、合わせた両手を下げた頭よりも上にあげながら、隣に座るツバメへと、必死に謝っていた。
「恋盲腸の限定版ヒトミオリジナルクッションあげるから許して!」
「いらないよ…」
必死に言い放つスズメに、ツバメがどこか呆れたように呟く。
「そんなんじゃ、とても許せそうにないから…呪っていい…?」
「いやぁー!ヒトミオリジナルストラップもあげるから、それだけは勘弁してぇー!」
どこからともなく藁人形を取り出し、不気味な空気を醸し出すツバメに、スズメが今にも泣き出しそうに、さらに必死に懇願する。
「隣校の番長には後でちゃんと焼き入れてっ…あ、いやっ、後でちゃんと謝っとくからさぁ!」
「想子ちゃんにもちゃんと謝っておいてよ…?関係ないのに、巻き込んじゃったんだから…」
「わかったわかった!謝る!絶対、謝るから!」
顔を上げたスズメは、ツバメの言葉に何度も何度も頷いた。
「おはよう」
「あ、おはよう…アヒル君…」
そこへ二階からアヒルが降りて来ると、ツバメはスズメから視線を外し、アヒルの方を振り向いた。
「昨日は悪かったね…アヒル君…隣校の番長連中から助けてもらった上に、家に運んでもらっちゃって…」
「ああ、いや、別に…」
「あの番長をやるとは、さっすが俺の弟!アッハッハっ…!」
『…………』
「ごめんなさい」
得意げに笑いあげたスズメであったが、アヒルとツバメから同時に冷たい視線を投げかけられ、笑い声をすぐさま止めて、深々と謝った。
「おはよう…アヒるん…」
「ああ、おはよう。って、あれ?篭也は?」
相変わらず自然に食卓に並び、朝食を取っている囁に挨拶を返したアヒルが、いつもは囁の横で朝食を食べているはずの篭也の姿がないことに気付く。そういえば父がアヒルを起こしに来た時、いつも一緒に来るはずなのに、今日はいなかった。
「篭也は何か用事があるらしくて…学校も途中から行くそうよ…」
「ふぅ~ん…」
囁の答えに、アヒルは少し不思議そうにしながらも頷く。
「そういえば、アヒル君…」
「んあっ?」
ツバメに呼びかけられ、アヒルが再びツバメの方を見る。
「昨日、番長から助けてもらった時さ…アヒル君、変な銃みたいなもの持ってなかっ…」
「あっ!紺平だぁ!とっとと学校行くぞぉ!囁!」
「あれっ…?アヒル君…?」
ツバメが昨夜のことを聞こうとした途端、アヒルが勢いよく話題を逸らし、妙に大きな声を発しながら、囁とともに足早に家を出て行ってしまった。
「もう紺平の来る時間かぁ?とっとと洗濯終わらせねぇーとやべぇなぁっ」
居間の時計を見ながら、スズメが少し慌てたように立ち上がる。
「うぅ~ん…」
「あっ?どうかしたのか?」
「ううん…毎日、色々と研究し過ぎて…妄想が色々入り込んだ、変な夢見たみたい…」
「はっ?」
どこか納得しきれていない様子で首を捻るツバメのその言葉に、スズメがまったく理解出来ていない様子で顔をしかめた。
「つーかっ…」
少し眉をひそめ、居間から見える通用口を見つめるスズメ。
「アヒル、何かちょっと元気なかったよな…」
「……っ」
そっと呟くスズメに、ツバメが表情を曇らせた。
「ふぃ~!」
「金平糖なんて、まだ来ていないじゃない…」
「ツー兄が昨日のこと、聞いてきそうだったから、慌てて出て来たんだよっ!」
まだ閉まっている八百屋『あさひな』の前へと出る、アヒルと囁。周囲を見回し、紺平の姿を探す囁に、アヒルが勢いよく怒鳴りあげた。
「ああ…そういうこと…」
「色々あったし、ツー兄、ちゃんと忌のこととか夢って思ってくれっかなぁ~」
「まぁなるようになるわよ…」
「なるようになるってお前なぁっ…!もし、ツー兄が忌のこと、覚えてたらっ…!」
「イミって、何?」
「うげっ!」
いつの間にか、アヒルと囁の横に立ち、不思議そうに首を傾げ、アヒルたちの会話に口を挟む紺平。振り向き、紺平の姿を見たアヒルが、勢いよく顔を引きつる。
「い、いやぁ!昨日のテレビの話だよっ!」
「ふぅ~ん。ってか、珍しいね。ガァが家の前で待ってるなんて」
「今日はやたらと早く目が覚めてなぁ!」
紺平の言葉に、やたらと必死に答えるアヒル。忌のことをツバメが覚えていてもまずいが、紺平が思い出してもまずいのである。
「そういえば今日、神月君は?」
「用事があるから遅刻するらしいわ…」
「へぇ~」
「とっとと行くぞぉ」
「あ、うん」
珍しくアヒルが先陣を切り、三人は『あさひな』の前から、学校への道を歩き始めた。
「はぁっ…」
「……っ?」
三人の先頭を歩きながら、どこか遠くを見るような瞳で空を見上げ、小さな溜め息を落とすアヒルに、紺平が少し眉をひそめる。
「ねぇ、真田さん。ガァ、何かあったの?」
「えっ…?」
急な紺平の問いかけに、振り向いた囁が、少し目を丸くする。
「別に何もっ…」
「何か、元気ないよね」
「……っ」
忌や神のことを話すわけにもいかないので、笑みを浮かべ、適当に誤魔化そうとした囁であったが、紺平の何気ないその言葉に、浮かべたばかりの笑みを消した。
「元気…ない…?」
「うん。何となくだけど」
「…………」
聞き返した囁に紺平が頷くと、囁は先を行くアヒルの背を、まっすぐに見つめた。
「おぉ~い!朝比奈!」
「んあっ?」
『……っ?』
前方からアヒルの名を呼ぶ声が聞こえてきて、アヒルが空を見ていた顔を下ろし、足を止める。後ろを歩いていた囁と紺平も、それにつられて、その場に足を止めた。
「今日の今日こそ、コッテンパンのパンチパーマにしてやっぞぉ!こらぁ!」
「あ、また出た」
アヒルたちの行く道に立ち塞がったのは、アニキこと安二木守率いる、いつものヤンキー軍団であった。もう物珍しくもないので、紺平が冷めきった反応を示す。
「覚悟しやがれぇ!朝比奈ぁ!」
「…………」
「んあっ?」
気合い十分に構えたアニキであったが、ここでいつもならば、話すら聞かずにすぐさま飛んでくるはずのアヒルの拳がなく、警戒十分に構えていたアニキが、少し戸惑うように目を丸くする。
「朝比奈?」
「うん、やっぱりそうしよう」
「へっ?」
戸惑うようにアヒルを見たアニキが、一人で勝手に納得したように頷くアヒルに、さらに首を傾げる。
「安二木君」
「はっ?」
アニキの名を呼んだアヒルが、アニキの両肩に自分の両手を、それぞれ置く。
「今まで散々、殴ったり、蹴ったり、消えろって言ったり、カスって言ったり、ミジンコって言ったりして、悪かったっ」
「オレ、そこまで酷いこと、言われてたっけ…?」
アヒルの言葉に、小さな疑問を抱くアニキ。
「もう二度と酷いことは言わねぇ。これからは良き友でいよう」
「はっ?」
その思いがけない言葉に、大きく口を開いたまま、アニキが固まる。
「あ、朝比っ…」
「うん。それがいい。良き友、良きこと。うんうん」
「あっ…」
またしても一人で納得した様子で何度も頷いたアヒルが、アニキの肩を持っていた手を離し、アニキの横を通り過ぎて、何やら満足げに先へと進んでいく。
「はっ…?」
アヒルの背を見送り、大きく首を傾げるアニキ。
「何?あれっ」
「まぁアヒるんにも色々とあるのよ…」
引きつった表情を見せる紺平の横で、何やら意味深に呟く囁。恐らくは、スズメが隣校の番長に酷いことをしたせいでツバメと想子が襲われたことを受け、自分の日頃のアニキへの行いを反省したのであろう。
「あっ!囁ちゃ~ん!」
「んっ…?」
急に態度を変えたアヒルに、呆気に取られていたアニキが、囁の姿を見つけ、一気に笑顔となって、囁のもとへと歩み寄ってくる。
「どう!?オレと交換日記してみようって気になった!?」
「我が神の意志が私の意志だから…“消えろ”とは言わないわ…」
勢いよく問いかけてくるアニキに、囁が落ち着いた表情を向ける。
「“失せろ”」
「ぐはぁぁぁっ!」
『アニキィィっ!?』
囁の言葉に傷つき、その場に膝をつくアニキ。そんなアニキのもとへ、他の取り巻きたちが駆け寄っていく。
「あぁ~あっ…ある意味、“消えろ”より厳しいんじゃっ…」
「あいつが忌に取り憑かれても知らねぇーぞっ…」
「イミっ?」
「あっ!いや!何でもねぇ!」
思わず呟いてしまったアヒルが、首を傾げる紺平に、妙に上ずった声を返す。
「そういえばさぁ」
「あっ?」
「神月くんの用事って何だろうね」
「……っ」
紺平の言葉を聞き、アヒルが不意に眉をひそめる。
「確かに…あいつの用事って、何だ…?」
言ノ葉町五丁目。町の小さな何でも屋『いどばた』。
「ふんふふんふぅ~ん♪」
まだ戸の閉まった店の前で、陽気に鼻歌を歌いながら、箒を片手に店の前の掃き掃除をしているのは、今日も袴の為介であった。
「ふんふふんふぅ~んんっ?」
人の気配を感じた為介が、鼻歌を止め、掃いたゴミを見下ろしていた顔を、ゆっくりと上げた。
「すみませぇ~ん、お店は十時からでぇっ…」
「まさか本当に、こんなに近くに住んでいるとはな」
「ありゃっ」
顔を上げた為介が、少し驚いた顔を見せる。
「言ノ葉町の居心地がいいという言葉は、真実のようだ」
為介の前へと現れたのは、鋭い表情を見せた篭也であった。
「よぉく、ここがわかったねぇ~」
「言玉にあんたの匂いを“嗅ぎ当て”させた」
「アハハっ、犬みたいっ」
篭也の刺すような視線を受けながら、軽い笑みを浮かべた為介が、箒を掃く手を止め、まだ閉まっている店の戸を開ける。
「いらっしゃい。歓迎するよぉ?神月クンっ」
「……っ」
不敵に微笑む為介を見て、篭也はそっと目を細めた。




