Word.34 ゆガム世界 〈2〉
町の小さな何でも屋、『いどばた』。
「言玉が使えないぃ~?」
「ああ…」
店の奥の和室で、テーブルを囲み座り込むアヒルと為介。大きく聞き返す為介に、アヒルはどこか困ったような表情で頷いた。
「昨日から何回も解放しようとしてんだけど、全然反応しなくって…」
「うぅ~ん…」
為介が、アヒルから受け取った言玉を右手に持ち、あらゆる角度から真剣に見つめる。
「特に壊れてる感じもないけどなぁ~」
「少しの間、力が眠ってしまっているだけではありませんか」
「雅さん」
部屋の中へと雅が入って来て、テーブルの上へ、茶の入った湯呑みを差し出す。
「朝比奈君は、七声との戦いで相当の力を使ったとのことですし」
「……っ」
雅のその言葉に、アヒルが少し俯く。
―――何だというのだ…?あの力は…―――
―――クアアアアァァ!―――
銃から、その姿を変えた言玉。目覚めた、金色の鳥。圧倒的な強さを誇っていた弔さえも圧倒した、その力。それはアヒル自身さえ、疑問に思うことばかりであった。
「…………」
自身の力を思い返しながら、アヒルがどこか険しい表情を見せる。
「そう気にしなくても、しばらく休めば元に戻るのでは?」
「そんな単純なものだといいけどねぇ~」
「えっ…?」
意味深にそう言いながら茶を飲む為介に、雅が少し戸惑うように首を傾げる。
「でぇ?恵さんには言ったのぉ~?」
「いやっ、言おうと思ったら恵先生、今日休みでさ」
「休みぃ~?」
アヒルの言葉に、意外そうに声を漏らす為介。
「そう、まだ戻って来てないんだぁ」
「戻る?んだよ?恵先生、どっか行っ…」
―――バァァァン!
『……っ!』
アヒルが為介へと問いかけようとしたその時、店の外から激しい衝撃音のようなものが聞こえてきて、アヒルたち三人は、一斉に顔を上げた。
「何々~?昼間っからケンカ~?」
「ただのケンカで、あんなバカでけぇ音するかよ!」
「あっ、朝比奈君…!」
雅が止める間もなく、アヒルは為介の手の中の言玉を取り去り、外へと駆け出していった。
「ハァっ…!ハァっ…!」
『いどばた』のすぐ後方にある、何もない空き地を必死に駆ける、一人の少女、弓。大きく息を乱しており、傷ついた体の所々から、痛々しく赤い血が滴り落ちていた。
「シャハハハ!」
空き地に落ちる、大きな笑い声。
「いいぜぇ?もっと逃げろ!逃げろぉ!」
「……っ」
険しい表情で、弓が振り返り、顔を上げる。すると空き地の上空には、細身の色黒男が、ごく普通に空の上に浮かんでいた。男は逆立つ青髪も印象的だが、それよりもずっと印象的なのは、その真っ赤な瞳であった。
「逃げ回る獲物の方が、狩りはずっと面白れぇからなぁ!シャハハハ!」
「クっ…!」
高らかと笑いあげる男に、弓は唇を噛むと、短パンのポケットから素早く、宝石のような、金色の玉を取り出した。
「五十音第三十八音、“ゆ”…解放…!」
金色の光が放たれ、言玉が姿を変えていく。
「パオオォォン!」
「行くよ!弓象!」
言玉が変えたその姿は、金色に輝く大きな体に、長い鼻を天に届く程に長々と伸ばした、一頭の象であった。象の横に並び、弓が強く叫ぶ。
「んだよぉ?鬼ごっこはもう終わりかぁ?」
「ゆ…」
つまらなそうに言い放つ男に構うことなく、弓が大きく口を開いた。
「“揺らせ”っ…!」
「パオオオォォン!」
弓が言葉を放つと、それに応えるように、象がその場で強く足踏みをする。歩く巨体に、辺りの地面が、まるで地震のように、大きく揺れる。揺れる地面により、近くの電柱が倒れ、浮かんでいる男へと倒れていく。
「おおっとぉ」
倒れてくる電柱を、男が空中を悠々と移動し、あっさり避ける。
「へへっ、象狩りってのも面白そっ…うっ…!」
男が楽しげに微笑んでいたその時、下方から伸びてきた金色の鼻が、男の体を巻き取るようにして捕まえた。
「チっ…」
「これで終わりだ!」
少し顔を歪めた男へ、弓がさらに声をあげる。
「“歪めろ”!」
「パオオオォォン!」
弓の言葉が響き渡ると、象が激しく鳴きあげ、男を捕らえた鼻に力を込め、男の体を一気に締めあげる。
「ううぅっ…!」
象の鼻に締めあげられた男が、苦しげな声を漏らし、大きく目を見開く。
「やった…!」
「なぁ~んつってっ」
「えっ…?」
嬉しそうな笑顔を見せた弓であったが、鼻に巻きつかれたまま、余裕の笑みを浮かべる男に、笑顔を消し、戸惑いの表情を見せる。
「よっ」
「あっ…!」
男の体が黒い霧のようになって、象の鼻から抜け出し、空へと舞い上がる。舞い上がった霧は、すぐに男の体へと戻った。
「また、あの霧っ…」
「残念だったなぁ。五十音士っ」
「クっ…!」
弓へと右手を差し出す男に、弓の表情が引きつる。
「“破”!」
「ううぅっ…!」
男の右手から放たれる衝撃波に、弓は諦めるように、きつく瞳を閉じた。衝撃波が弓のいた辺りの地面を直撃し、爆風により砂が舞い上がる。
「シャハハハ!これで五十音士も、ボロボロのクソカスにぃっ…!ああんっ?」
笑いあげようとした男が、爆風の止んだ下方を見下ろし、そっと眉をひそめた。
「うう、うっ…」
大きく穴のあいた地面のすぐ横に膝を下ろし、苦しげな声を漏らす弓。傷だらけではあるが、衝撃波を喰らった様子はない。弓のすぐ傍に、いつの間にか象から姿を戻したのか、金色の言玉が力なく落ちた。
「避けたのか…?んっ?」
「おい!大丈夫か!?」
弓のすぐ横にしゃがみ込み、弓へと声を掛けたのは、アヒルであった。アヒルの姿を見つけ、男がさらに眉をひそめる。
「あいつ…」
アヒルを見つめ、男が何か考えるように、目を細める。
「大丈夫かよ!?お前!」
「だ…れ…?」
声を掛けるアヒルを、戸惑うように振り向く弓。
「ううぅ…うっ…」
「あっ…!おい!」
だがアヒルを認識することはなく、そのまま力なく瞳を閉じて、倒れ込む弓を、アヒルが慌てて受け止めた。アヒルが続けて声を掛けるが、弓は気を失ってしまったようで、アヒルの呼びかけに答えることはなかった。
「こいつ、一体っ…んっ…?」
気を失った弓を見下ろしながら、戸惑いの表情を見せるアヒル。そんなアヒルの視界に、弓のすぐ近くに落ちた、金色の言玉が入って来た。
「金色の、言玉…さっきの、象…」
先程までここに居た、金色の象を思い返し、落ちている言玉と見比べ、アヒルが考え込む表情を見せる。
―――クアアアァァ!―――
「あれって…」
「シャハハハ!」
「……っ」
考えを巡らせていたアヒルが、上空から聞こえてくる笑い声に、顔を上げる。
「お前!お前も臭うぜぇ?五十音士の臭いがなぁ!」
「やっぱ五十音士関連だよな」
笑う男に表情を曇らせながら、アヒルが素早く言玉を取り出す。
「五十音、第一音っ…“あ”、解放…!」
アヒルが高々と言玉を掲げ、勢いよく叫ぶ。
「……あれっ?」
まったく反応のない言玉に、目を丸くするアヒル。
「あ!やべ!そういえば俺、今、言玉解放出来ないんだった!」
「シャハハハ!狩らせてもらうぜぇ!五十音士!」
「うっ…!」
焦ったように叫ぶアヒルへ、男が右手を振り下ろす。
「“破”!」
「やべっ…!」
放たれる衝撃波に、アヒルの表情が歪む。
「“満ちれ”」
そこへ、横から大波が打ち寄せて、アヒルと弓へと向かって来ていた衝撃波を、吹き飛ばした。
「何っ…?」
「あっ」
男が眉をひそめ、アヒルが驚いた顔を見せる。
「言玉も使えないのに、あまり無理をしないで下さいね、朝比奈君」
「雅さん!」
その場に姿を見せたのは、青い言玉を右手に持った、雅であった。雅は眼鏡を上げ直しながら、アヒルへと注意するような声をかける。
「まぁ~た五十音士か。次から次へとウジャウジャ出てきやがんなぁっ」
雅の姿を確認しながら、男が少しうんざりとした表情を見せる。
「まぁいいやぁ!とにかく全員、狩ってっ…!」
「“凍てつけ”」
「なっ…!?うっ…!」
アヒルたちへ向け、再び右手を振り上げた男であったが、季節でもない吹雪が男へと吹き抜け、男の右腕を凍りつかせた。凍りつき、動かなくなった右手を見て、男が少し表情を引きつる。
「な、何だっ…!?」
「お店の前で、あんまり騒ぎ、起こさないでくれるぅ~?」
「……っ」
聞こえてくる声に、振り返る男。
「営業妨害だよぉ~?」
男へと笑顔を向けるのは、ゆったりと扇子で自分を扇いでいる為介であった。雅と同じように、為介も店の中から出てきたようである。
「また五十音士…しかも今の言葉は、神のっ…」
為介を見下ろし、男が警戒するように、そっと目を細める。
「どうします?為介さん」
「んん~、面倒事に巻き込まれるのは嫌なんだけどぉ、仕方ないから一応、捕まえとこうかぁ」
「わかりました」
為介の言葉に頷いた雅が、瞳を鋭くして、上空の男を見上げる。
「チっ…!」
「み…」
右腕を凍りつかせたまま、表情をしかめる男へと、雅が右手を向け、ゆっくりと口を開いた。
「“満ちっ…!」
「“壊”…」
「なっ…!」
雅が言葉を放とうとしたその時、別の声がその場に響いて、次の瞬間、雅の周辺の地面に、地割れのように大きくヒビが入った。
「うぅっ…!」
「雅さん!」
地割れで足元のバランスを崩し、その場に手をつく雅に、思わず身を乗り出すアヒル。
「雅くっ…」
「“破”…」
「……っ」
雅の助けに入ろうとした為介へと、上空にいる男とは別の方角から、先程と同じ衝撃波が飛んで来る。それに気付いた為介は、素早く振り返り、扇子を振り上げた。
「“諌めろ”…」
為介が言葉とともに扇子を振り下ろすと、為介へと向かって来ていた衝撃波が、降り注いだ水により、沈静化される。
「“い”の言葉…やっぱあの野郎、神かっ…」
戦いを見つめていた男が、為介の使った言葉を分析するように呟く。
「“砕”…」
「うおっ」
男のすぐ近くから声が聞こえてくると、男の右腕を封じていた氷が、高い音を立てて砕き割れた。
「萌芽!」
「何をチンタラやっている…?碧鎖…」
男を碧鎖と呼び、男のすぐ横へと姿を現したのは、雪のように真っ白な肌に、長い黒髪の、小柄の青年であった。長く伸びた前髪の間から覗くのは、やはり印象的な、真っ赤な瞳。
「だってあいつら、次から次へと湧いて出やがっからさぁ」
「言い訳はいい。他の連中は俺が引きつけておいてやる。お前はとっとと、あの女を狩れ」
「了解っ」
萌芽の言葉に、碧鎖が楽しげな笑顔で頷き、氷から解放された右腕を振り上げる。
「シャハハハ!狩るぜ!狩るぜぇ!」
「うっ…!」
上空から、勢いよく下降してくる碧鎖に、弓を支えるようにしてしゃがみ込んでいるアヒルが、険しい表情を見せる。
「朝比奈君っ…!」
「“破”…」
「あっ…!うああああ!」
碧鎖の迫るアヒルと弓の助けに入ろうとした雅であったが、アヒルたちに気を取られるあまり、萌芽の放った衝撃波を避けることが出来ず、直撃して、後方へと吹き飛ばされた。
「仕方ないねぇ~、よいしょっと」
吹き飛ばされた雅の方を少し見て、為介がどこか呆れた表情で扇子を振り上げる。
「い…」
「させない…」
「……っ」
言葉を発しようとした為介の前に、萌芽が立ち塞がり、為介がそっと眉をひそめる。
「雅さん!扇子野郎!」
「シャハハハ!」
「クっ…!」
雅と為介を気にかけていたアヒルだが、笑いながら向かってくる碧鎖に、険しい表情で、再び前方を見る。
「このっ…!“あ”、解放…!」
言玉を握り締め、もう一度、力強く叫ぶアヒル。だが言玉は、アヒルのその言葉にもまったく反応せず、光を発することもなかった。
「やっぱダメかっ…!」
「狩ってやんぜぇ!“砕”!」
「うっ…!」
右手を、尖った刃の切先のように変形させ、すぐ目の前まで飛び込んでくる碧鎖に、どうすることも出来ず、アヒルの表情が引きつった。
「“薙ぎ払え”…!」
「何っ…!?」
碧鎖がアヒルへと、鋭く尖った右手を振り下ろそうとした、まさにその時、碧鎖へと、横から赤色の一閃が飛び込んできた。
「クソっ…!ううぅ…!」
必死に上空へと飛び上がり、一閃を避けようとした碧鎖であったが、振り下ろそうとしていた右手の避難が遅れ、一閃により右腕が斬り裂かれる。斬り裂かれた碧鎖の腕から、赤い血が流れ落ちた。
「チっ…」
上空に浮かび上がった碧鎖が、右腕を押さえ、その表情を歪める。
「今のはっ…」
「朝比奈くん!」
「奈々瀬っ」
消えゆく一閃を戸惑うように見上げていたアヒルが、聞き覚えのある声に振り向く。空き地の入口から、アヒルのもとへと駆け寄って来るのは、真っ赤な薙刀を持った七架であった。
「大丈夫!?朝比奈くん!」
「奈々瀬…お前、何でここにっ…」
「バイトの帰りで近くを歩いてたら、大きな音がしたから来てみたの」
七架がアヒルのすぐ横まで駆け寄り、そっとしゃがみ込む。
「大丈夫?怪我は?」
「ああ、俺なら大丈夫だ。助かったよ、ありがとう」
「えっ!?そ、そんなっ…!」
不安げに問いかける七架に、アヒルが笑顔を向ける。アヒルに礼を言われ、一気にその頬を赤く染め上げる七架。
「私はただっ、その、自分の神様を守っただけっていうか、あ、でもやっぱり、朝比奈くんだからっていうのもっ…」
「奈々瀬、来てもらってすぐで悪りぃけど、こいつの手当て頼むっ」
「えっ?あ、うん」
七架のぶつぶつとした小さな主張を耳に入れた様子はなく、アヒルがあっさりと、支えていた弓を七架へと引き渡し、その場で立ち上がる。
「また五十音士か…」
アヒルから弓を預かる七架の方を振り向きながら、萌芽が少し眉をひそめる。
「これ程に五十音士がわんさかと…この町は一体っ…」
「“刈れ”」
「何っ…?」
七架に気を取られていた萌芽へと、先程、七架が放ったものと同じような、赤色の一閃が降り落ちてきた。
「グっ…!」
素早く上空へと飛び上がって、その一閃を避ける萌芽。
「萌芽っ…!」
「“叫べ”…」
「なっ…!?」
攻撃された萌芽の身を案じるように、名を呼んだ碧鎖であったが、その碧鎖の後方からも、大きな振動の塊が飛び込んできた。
「うおっ!」
碧鎖が必死に体を逸らし、何とかその塊を避ける。
「あら…避けられちゃった…」
「だ、誰だ!?」
響き渡る声に、碧鎖が勢いよく振り返る。
「アヒるんを傷つける気なら…私が容赦しないわよ…」
真っ赤な横笛を構え、上空にいる碧鎖へと鋭い視線を向けるのは、囁であった。
「囁っ」
「今日の真田さん、いつもより何か迫力満点だね」
空き地を入ってすぐのところに立っている囁を、アヒルとともに見つめ、何やら感心したような言葉を漏らす七架。
「また五十音士…」
囁を見下ろし、そっと目を細める萌芽。
「我が神に刃を向けようというのなら、僕たちが黙っていない」
「あっちも…」
萌芽がゆっくりと視線を流すと、囁から少し離れたところに、真っ赤な鎌を構えた篭也が立っていた。篭也の姿も確認し、萌芽がさらに表情を曇らせる。
「“我が神”だぁ?じゃあ何?あいつ、神かよっ」
「…………」
アヒルを見下ろし、碧鎖がどこか楽しげな笑みを浮かべる。そんな碧鎖と目を合わせ、厳しい表情を見せるアヒル。
「おっもしれぇ!じゃあいっちょ、神狩りとでも行っ…!」
「待て、碧鎖」
「……っ」
アヒルへと再び攻撃に行こうとした碧鎖が、飛び出す寸前で、萌芽に止められる。
「んだよ?萌芽」
「一旦、退くぞ」
「はぁっ?」
萌芽の思いがけない言葉に、碧鎖は大きく顔をしかめた。
「何言ってんだよ!第一、目的のあの女だって、まだっ…!」
「ここまで人数差があっては、さすがにこちらの分が悪い」
「けどっ…!」
「ここで俺たちがヤラれては、無意味の極みだ。そのくらい、わかるだろう?」
「チっ…」
冷静に言い放つ萌芽に、少し俯いた碧鎖が舌を鳴らす。
「十分に役目は果たした。行くぞ」
「わあったよっ」
『あっ…!』
黒い霧の中へと包まれていく二人に、下方にいる皆が、思わず身を乗り出す。
「待っ…!」
『……っ』
「あっ…」
篭也が振り上げた鎌を下ろさない内に、霧に包まれた二人はその場から姿を消し、残っていた霧も、風の中に掻き消されるようにして、なくなっていった。
「痛つつつ…」
「大丈夫ぅ~?雅くぅ~ん」
「あ、はい」
萌芽の衝撃波を喰らい、地面に倒れ込んでいた雅が、ゆっくりと起き上がる。そんな雅に歩み寄り、為介は扇子を扇ぎながら声を掛けた。
「追いますか?」
「追えないでしょ~消えたんだからっ」
「それも、そうですね…」
素っ気なく答える為介に、雅が少し肩を落とす。
「大丈夫…?アヒるん…」
「無事か?神」
「ああ、俺は全然、大丈夫だ」
歩み寄って来た篭也と囁に、アヒルが笑顔を見せる。
「俺よりも…」
アヒルがゆっくりと振り返り、治療をする七架の腕の中で、まだ気を失ったまま眠っている弓の方を見つめる。
「……ぃば…」
「えっ…?」
弓の口から小さく漏れる声に、体を支える七架が、少し首を傾げる。
「やい…ば…よろ…い…」
「あっ…」
小さな声とともに、弓の瞳から流れ落ちる滴に、七架がそっと表情を曇らせる。
「何だってんだ…?一体…」
弓を見つめながら、アヒルは戸惑うように呟いた。




