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あノ神ハキミ。  作者: はるかわちかぜ
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Word.25 こノ勇気 〈4〉

「はぁっ…はぁっ…」

 体の動きを封じられたまま、肩を揺れ動かすこともなく、ただ息だけを乱しながら、まっすぐに前を見据える檻也。

「クっ…」

 前を見つめる檻也の表情が、ゆっくりと曇っていく。

「“まれ”…」

 檻也の見つめる先には、檻也へと差し出していた右手を突き上げ、言葉で降り注ごうとしていた光を止めている轟の姿があった。余裕の笑みを見せる轟に、檻也がさらに顔をしかめる。

「こんなものですかぁ?神様のお力とやらはぁっ」

「チっ…」

 挑発する轟に、檻也が舌を鳴らす。

「まぁ、予想通りですかねぇっ、“とがれ”っ」

 空中で止まっていた白い光の粒が、轟の言葉を受け、その先を鋭く尖らせ、それぞれ刃のように形を変える。

「ではっ、お返ししますよぉ」

「うっ…!」

 その刃たちが、一斉に檻也へと向かっていく。

「うわあああああっ!」

「お、檻也くんっ…!」

 崩れ落ちる部屋とともに、響き渡る檻也の叫び声。その悲痛な声に、倒れたままの紺平が、思わず身を乗り出した。

「う、ううぅっ…」

 部屋が半壊し、庭へと放り出された檻也が、血だらけとなって、力なく地面に倒れ込む。

「“止まれ”の効果が消えましたかぁ。まぁいいでしょうっ、どの道、その傷では動けはしない」

「クっ…」

 倒れ込んだまま、檻也が顔だけを上げ、強い瞳で轟を睨みあげる。

「おっ…“おおえ”っ…!」

 檻也から放たれた白い光が、縦横に広がり、轟の四方を取り囲んで、轟を捕えようとする。

「……っ」

 包み込もうとする光を見つめ、そっと微笑む轟。

「“べ”っ」

「あっ…!」

 轟がその場で高々と跳躍し、捕えようとしていた檻也の光から逃れる。

「残念っ」

「うっ…!ううぅっ…!」

 すぐさま上空から降りてきた轟が、足で強く、倒れたままの檻也の背中を踏みつける。背中から走る痛みに、檻也はさらに顔を引きつった。

「いかがですぅ?人に踏みつけられる気分はぁ。於の神様っ」

「グっ…」

 轟の言葉に、檻也が唇を噛み締める。

「俺はっ…」

「んん~?」

「俺は…お前たちが、真に俺を神と認め、神附きになったわけではないことに気付いていたっ…」

「おやおや、そうでしたかぁ」

 そう言い放つ檻也に、轟が少し意外そうに頷く。

「だからっ…お前たちは決して、屋敷内には入れなかった…」

「そうでしたねぇ」

「俺は、例え殺されようとも、お前たちにアレの場所を言うつもりはないっ…」

 ボロボロにされながらも、檻也は覇気のある口調で言い放つ。

「だから、諦めるんだなっ…!」

「……っ」

 強気に叫ぶ檻也に、轟がそっと目を細める。

「そうですねぇ。確かに、あなたは我々を信用してはいなかったぁ」

 檻也の背中を踏みつけたまま、轟が上から声を落とす。

「我々との接触を必要最小限に留めぇ、我々を自分の領域には少しも近づけなかったぁ」

 静かな声を、辺りへと響かせる轟。

「だから我々にはぁ、あなたの大切なものの居場所など、皆目見当もつきませぇ~んっ」

「だから、とっとと諦めてっ…!」

「ですがぁっ」

「……っ」

 檻也の言葉を、轟が勢いよく遮る。

「我々にあなたの注意を向かせることこそがぁ、ワタクシたちの狙いっ」

「何っ…?」

 そっと言い切る轟に、檻也の表情が曇る。

「あなたはワタクシたちを警戒するあまりぃ、他への注意を緩めたのですぅ」

「他、だとっ…?」

「そう、だから君は、気付かなかった」

「……っ!」

 別方向から聞こえてくるその、どこか聞き覚えのある声に、檻也が大きく目を開ける。

「俺が、潜伏者であったことに…」

「とっ…」

 首を動かし、ゆっくりと振り向いた檻也が、驚きの表情を見せる。

「時定っ…」

 その場に現れたのは、檻也の世話役、時定であった。いつもの質素な甚平ではなく、どこか高級感のある黒い革の服を纏っている。格好が違うだけで、随分と雰囲気は違うように見えた。

「時、定…さん…?」

 庭の木の前で倒れたままの紺平も、先程まで一緒だった時定のその違う姿に、戸惑いの表情を見せる。

「ののの…」

「やぁ、久し振りだね。罵」

 嬉しそうに声を漏らす罵に、時定がそっと笑顔を向ける。

「君も」

「これはこれはぁ~時定サァ~ン」

 振り向く時定に、轟が大きな笑みを浮かべる。

「着替えてしまわれたのですねぇ、勿体ない。くたくたの甚平姿が、よくお似合いでしたのにぃっ」

「相変わらずだね。君の刺々しさには、眠気も覚めるよ」

「そんなにお誉めいただくと、照れてしまいますねぇっ」

 微笑みかける時定に、轟が明るい口調で答える。

「ご紹介しましょう、於の神」

 轟が檻也の背中の上から足を下ろし、現れた時定のすぐ横へと並ぶ。

「我が“七声”の神、とむらい様にございまぁ~す」

「とむ、らいっ…?」

 時定を紹介する轟に、檻也が大きく眉をひそめる。

「時定、お前っ…」

「弔様と、言いましたでしょう?そのように気安く、我が神を呼ぶのはご遠慮下さぁ~い、於の神っ」

「……っ」

 先程までは檻也の神附きであったはずの轟が、檻也ではなく、時定を神と崇めるその態度に、檻也は思わず顔をしかめた。

「構わないさ、轟。彼もまだ、この状況を受け入れきれて、いないだろうからね」

 そんな轟を宥めるように、時定が、弔が言い放つ。

「仕えていた身としては、詳しく説明してあげたい気もするけどねぇ、でも、時間がないんだ」

 弔がゆっくりと歩を進め、倒れている檻也の方へと歩み寄っていく。

「韻の人間に、ごろごろ来られても困るからねぇ。とっとと本題に入ろう」

「本題、だとっ…?」

 歩み寄って来る弔に、檻也が大きく顔を歪める。

「お前が出て来たところで同じだ。俺はお前たちに、アレの場所を話すつもりなどっ…!」

「君の世話役として、潜り込んで数年…」

 強く叫びあげようとした檻也の声を、弔がそっと遮る。

「ずっと君の傍で、ずっと君を見てきて、一つ、確信したことがあるよ」

 弔が檻也のすぐ前で、足を止める。

「君は自分以外、この世界の人間を、誰一人として信用していない」

 その場にしゃがみ込み、倒れたままの檻也と視線を近づける弔。

「君に決して失ってはいけない、とても大切なものがあるとしたら…君はきっと、こう考えるだろう」

 視線を近づけ、弔が口元を緩める。

「“自分で、肌身離さず、持っていよう”」

「クっ…!」

「……っ」

 ボロボロの体を引きずり、その場から何とか逃げようとする檻也へと、弔が素早く手を伸ばす。

「ううぅっ…!」

 弔が逃げようとした檻也の襟元に、かすかに覗いた銀色の鎖を、力強く千切り取った。千切れた鎖の先に、言玉と同じ大きさ程の、水晶のような美しい玉がついている。

「これが、“夢言石むげんせき”…」

 その場で立ち上がった弔が、その水晶を月明かりに照らすようにして見つめ、嬉しそうな笑みを零す。

「おおっ」

「のの、の…」

 弔が手にした石を見つめ、轟と罵も感嘆の声を漏らす。

「代々、於の神が受け継ぐ、すべての言葉を司る石…」

「グっ…」

 石を見つめる弔を見上げ、檻也が強く唇を噛む。

「それを、返せっ…!」

「おっと」

 その石へ向け、必死に手を伸ばす檻也に、弔がそっと目を細める。

「“コウ”」

「うっ…!」

 放たれた濃い藍色の光が、檻也の体を一瞬にして包み込む。

「うあっ…!」

「お、檻也くんっ…!?」

 弔へと手を伸ばそうとしていた檻也が、伸ばした手をそのままに、地面にまるで押し付けられるように、勢いよく倒れ込んだ。重々しく響く音に、紺平が目を見開く。

「な、何だっ…?体がっ…」

 再び身動きの取れなくなった自分の体を見つめ、檻也が戸惑いの表情を見せる。

「今の言葉は、一体っ…」

「さてと、じゃあ用事も済んだし、帰るとしようか。轟、罵」

「なっ…!ま、待てっ…!」

 退避しようと、檻也に背を向ける弔に、体の動かぬ檻也が、必死に声をあげる。

「それは…!夢言石だけは渡さないっ…!」

 いつの間にか、檻也のすぐ目の前へと転がり落ちた、檻也の白い言玉が、強い光を発する。

「“し潰せ”っ!」

 上空へと目一杯広がった白色の光が、檻也の前から立ち去ろうとしている弔のもとへと、勢いよく降下していく。

「ののっ…!」

「だぁ~い丈夫っ、問題ないよ。罵っ」

 飛び出して行こうとした罵を、轟が余裕の表情で止める。

「…………」

 弔がそっと足を止め、夢言石を持った右手を、そっと振り上げる。


―――パァァァン!


「なっ…!」

 弔が手を振り上げた瞬間、弔へと圧しつけられようとしていた光の塊が、空中でピタリと止まった。弔が止めたというよりは、弔の持つ夢言石が止めているように見えた。

「お、俺の言葉がっ…」

「そうだね。折角手に入れたんだし、この石の力を確かめるっていうのも悪くはない」

 唖然としている檻也の方を、弔が再び振り返る。

「君は知っているか?この石の力を」

「夢言石の、力っ…?」

「そう」

 眉をひそめる檻也に、弔が微笑みかける。

「それはね、“言葉の吸収”だよ」

「言葉の、吸収だとっ…?」

「五十音、第五の音…」

「……っ!」

 困惑の表情を見せていた檻也が、ゆっくりと放たれる弔の言葉に、大きく目を見開く。

「や、やめっ…!」

「“お”、封印っ」

「うぅっ…!」

 夢言石から放たれた青白い光が、長細くなって、檻也の口へと入り込んでいく。

「うぁっ…ぁ…」

 光がすべて、檻也の中へと吸い込まれると、檻也はただ、言葉にならない声を漏らした。

「あっ…あぁ…!うぅ…!」

「な、何…?檻也くんに一体、何が…」

 何かを言おうともがいている檻也の姿を、紺平が戸惑うように見つめる。

「素晴らしいっ」

 石の中に刻まれた“於”の文字を見つめ、満足げな笑みを浮かべる弔。

「か…か…せっ…」

「ん?」

 かすかに聞こえてくる声に、弔が顔を上げる。

「俺の言葉を…返せぇっ!!」

「……っ」

 必死に叫ぶ檻也を見て、弔がさらに楽しげに笑みを浮かべる。

「欲しいか?轟」

「んん~っ?」

 急に名を呼ばれ、轟が少し目を丸くする。

「ええぇ~、貰えるのでしたら、ぜひぃ~」

「いいだろう」

 笑顔で答える轟に、弔が夢言石を向ける。

「や、やめろっ…!それは俺のっ…!」

「“お”、解放」

 弔が言葉を発すると、石から再び青白い光が放たれ、その光が今度は一直線に、大きく開かれた轟の口の中へと注がれた。

「ううぅっ…!」

 その様子を、険しい表情で見つめる檻也。やがてすべての光が轟の中へと入り、轟がゆっくりと口を閉じる。

「どうだ?轟」

「さぁ?体感的には何もぉっ」

 問いかける弔に、轟は素っ気なく答える。

「か、返せっ…!俺の言葉を、返せっ…!」

「ん?」

 轟へ向け、必死に叫んでいる檻也の姿を見つめ、弔が何か思いついたような表情を見せる。

「そうだ。試してみろ、轟」

「なっ…!」

 檻也を指差し、楽しそうに言い放つ弔に、檻也が思わず目を見開く。

「それはいいですねぇ~。では早速っ」

 轟が一つ、咳払いをし、声の調子を整えた後、その右手を檻也へと向けた。

「“せ”っ」

「うっ…!うああああっ!」

 轟が言葉を放った途端、轟の右手から、強風のような、凄まじい圧が飛び出し、倒れ込んだままの檻也さえ、軽々と弾き飛ばした。檻也が崩れかけの自分の部屋の壁へと、背中を打ちつける。

「檻也くんっ…!」

「うぅ~ん、いい使い心地だぁっ」

 必死に身を乗り出す紺平のすぐ横で、轟が満足げな笑みを浮かべる。

「クっ…うぅっ…」

「どうかな?自らの言葉に、傷つけられる気分は」

「グっ…!」

 壁にもたれかかりながら、力なくしゃがみ込む檻也の元へと、弔が微笑みながら歩み寄って来る。目の前に立つ弔を、檻也が強く睨みあげた。

「言葉を…石を返っ…!」

「……っ」

「ううぅっ…!」

「檻也くんっ…!」

 弔が檻也の首を掴み上げ、檻也の普通の言葉さえ封じると、紺平はさらに必死に檻也の名を呼んだ。

「ううぅ…!うっ…!」

 首を掴んだまま、壁へと押しつけるようにして檻也の体を持ち上げ、強く檻也の首を握り締める弔。檻也は表情を歪め、苦しげな声を漏らした。

「たった一つの取り柄だった、言葉の力も失ってしまったね。於の神」

「クっ…!」

 首を絞めたまま微笑みかける弔を、檻也がかすかに開いた瞳で見つめる。

「屋敷の皆が言ってたよ。君なんて、於の神でさえなければ、誰も相手にしないと」

 冷たい笑みを浮かべた弔が、檻也を追い込む言葉を吐く。

「君など所詮、於の神でなければ、誰からも必要とされない存在」

「……っ!」

 その言葉に、檻也が大きく目を見開く。

「今の、言葉を失った、ただの人である君を、誰が必要としてくれるだろう?」

「クっ…」

「そう、誰も必要としない」

「……っ」

 止まることなく浴びせられる言葉に、檻也がそっと目を閉じ、堪えるように唇を噛み締め、必死に抵抗していた手や足の動きを止める。

「可哀想な於の神。たった一人の兄さえ蹴落として、神になったはずなのに」

 弔はまだ、言葉を止めない。

「屋敷を追い出された兄よりも、君は遥かに孤独で、遥かに不必要な存在だ」

「や、やめっ…」

「君の兄も家族も使用人たちも、皆が思っているよ」

 止めようとした檻也の声を、弔が力強く遮る。

「君など、いなくなればいいと」

「……っ!」

 残酷な言葉に、檻也が再び大きく目を見開く。

「あ…あぁっ…」

 ゆっくりと、力なく閉じられていく、檻也の両の瞳。

「うっ…うぅっ…!」

 檻也の閉じられた瞳から、ポロポロと零れ落ちる涙。

「檻也…くん…」

 涙を落とす檻也を、紺平が険しい表情で見つめる。

「やっぱり怖いなぁ、我が神は」

 轟がどこか感心するような笑みで、檻也と弔の様子を見つめる。

「ワタクシの棘より、遥かに心を突き刺す」

 そう呟き、轟は口角を吊り上げた。

「泣いているのか…?於の神…」

「うっ…!」

 檻也の涙の落ちる右手で、弔はさらに檻也の首を絞めつける。

「大丈夫。誰からも必要とされない君は、ここで俺が、殺してあげるよ」

「……っ」

「ああっ…!」

 そっと微笑む弔に、どこか諦めるように肩の力を抜く檻也。そんな檻也に、紺平はさらに身を乗り出す。

「誰か…誰かをっ…!」

 痛みの残る体を動かし、その場を駆け出して行こうとする紺平。

「のの…“び、ろ”…」

「うあっ…!」

 本邸の外へと駆けて行こうとした紺平を、罵の言葉を受け、伸びた庭の草が絡み取る。草に足を取られ、紺平はその場に勢いよく倒れ込んだ。

「そこでじっとしていてもらいましょうかぁ~、小泉サァ~ン」

「うっ…」

 振り向く轟に、顔を上げた紺平が眉をひそめる。

「そこで大人しく、あなたの神の最期をぉ~ああっ、まだ、あなたの神なわけではなかったですねぇっ」

「神っ…」

 轟の発したその言葉に、目を開く紺平。

「では、そこで大人しく、可哀想な於の神の最期でも、ご覧になってて下さぁ~い」

「神…ガァっ…」

 “神”と聞いて、紺平の脳裏に浮かんだのは、幼い頃からの一番の友、アヒルの姿であった。

「ガァっ…どうしよう…?このままじゃ、檻也くんがっ…」

 この場にいないアヒルへ、まるで問いかけるように言葉を呟く紺平。目の前で起こったあまりの事態に、紺平は平常な状態でいられなくなり始めていた。

「ガァっ…!」


―――言葉の力を知って、一人でも多くの人にそれを伝えていけたらって、そう思う―――


「……っ」

 強く目を閉じた紺平の頭の中に、先程のアヒルの言葉が響き渡る。


―――そうすれば、きっと、俺はもっと、言葉を大切に出来る気がするからっ…―――


「言葉の、力っ…」

 ゆっくりと瞳を開いた紺平が、アヒルの言葉を繰り返した。

「お別れだ、於の神」

「クっ…!」

 振り下ろされる弔の左手に、檻也が強く歯を食いしばる。

「……っ!」

 弔の手がまさに檻也の左胸を貫こうとしたその瞬間、紺平が大きく目を見開いた。


―――パァァァン!


「なっ…!?」

 大きな音を立てて放たれる巨大な光に、見守っていた轟が驚きの表情を見せる。

「弔様っ…!」

「んっ?」

 必死に叫ぶ轟の声に、檻也へと向けていた手を止め、振り返る弔。

「何っ…!?」

 弔が振り返ると、巨大な白い光の塊が、弔へと、物凄い速度で迫り来ていた。間近に迫る巨大な力に、さすがの弔も焦りの表情を見せる。

「クっ…!」

 すぐに檻也から手を離し、その場から跳び去る弔。

「うぅっ…」

 弔の手を逃れた檻也は、力なくその場にしゃがみ込むが、弔が避けたことにより、その巨大な光が、まっすぐに檻也へと迫り来ていた。

「ふぅっ…んんっ?」

 ホっと一つ、息をつきながら、光の迫る檻也を見ていた弔が、ふとその表情を曇らせる。物凄い速度で迫り来ていたはずのその光が、檻也の目の前で、ピタリとその動きを止めたのである。まるで意志を持っているような、その力に、弔は思わず眉をひそめる。

「何だ?この光はっ…あっ…!」

 弔が見つめていると、やがて巨大な光は徐々に小さくなっていき、空中に、小さな白い、宝石のような玉だけが残る。

「あれは…言玉っ…?」

 空中を舞う言玉が、ゆっくりと移動し、庭へと進んでいく。その言玉の動きを、目で追っていく弔。

「君はっ…」

「…………」

 言玉が戻っていった先に立つ人物に、弔が表情を曇らせる。

「五十音、第十の音…」

 戻って来た言玉へと、そっと伸ばされる手。

「“こ”、解放っ…!」

 言玉を握り締め、紺平は迷いのない瞳で、力強く叫んだ。




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