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第9話 エルとの休日


 部屋に戻ると先に帰っていたメッキーと目があった。

ちょっと前までなら、普通に声をかけることもできたと思う。でも今はエルが言っていた言葉が頭から離れない。

 俺が硬直し黙っているとメッキーの方から話しかけてきた。


「ダンジョンに参加したのね」


「まあな、生きるにはそれしか選択肢がなかったからな」


「とても見てられない。無様な姿だったわ」


「そりゃ、運動神経の良いお前からすれば無様に見えるかもしれないけど、あれが俺の精一杯なんだよ」

 

「別にあなたの運動神経のことを言ってるわけじゃないわ」


「じゃあ、なんのことだよ」


「大した力もないくせに、自分の身を犠牲にしてまで人を助けようとするなんてどうかしてるわ」


 レインメーカーにも同じことを言われた気がする。


「いいだろ別に、お前に俺の気持ちなんて一生わかんねぇよ」


 こんな殺人鬼に俺の気持ち絶対にわかるわけがない。それにこいつは肉親を……


「あなた、その甘さを捨てないとここじゃ生きていけないわよ」


「ほっといてくれ! さっきから何が言いたいんだよ。お前」


「他人に期待、信用しないことね。でなきゃいつかきっと痛い目見るわ。自分のことだけ考えればいい。最後に頼れるのは結局は自分だから……」


 最後のほうだけ若干語尾が弱く感じた。心なしか表情も寂しげに見える。


「そんなの言われなくてもわかってる……」


「そう」


 メッキ―は俺から視線を外すとイスから立ち上がりベッドに向かった。


「私もう寝るから、話しかけないで」


「別に話しかけるつもりはない」


 それにしても、こいつ寝るの早いな。

 時計を見るとまだ20時だった。

 寝るにはまだ早すぎるので、俺は今後のことを考えながら適当にぶらつき暇をつぶした後、寝床につくことにした。

 目を覚まし時計を見ると9時だった。


「まずい、寝すぎたな」


 エルとの約束の時間まで後1時間だ。

 顔を洗い寝癖を直そうとベッドから腰を上げたところ、口をあけ熟睡しているメッキーの姿が目にはいった。

 時々、「んッ」という声を出しながら毛布をギュッと握っている。

 相変らず寝ているときは無邪気な子供にしか見えない。

 騙されるな、こんなかわいい顔しているがこいつは家族に手をかけたんだ。


「てか、どんだけ寝てんだよ……」


 俺は身支度を整えた後、待ち合わせ場所であるホールに向かった。

 待ち合わせ時間より、20分近く早くついてしまった。

 なんとなく、モニターに視線を向けるとそこには、ジャックの姿が映っていた。

 ジャックの前に数十人の武装した囚人立っている。

 剣、斧、槍、ボウガン様々な武器を取りそろえた囚人たちに対し、ジャックの武器は腰に提げている一本の日本刀だけだった。


 あれがもしかしてバトルなのか?

 エルの話によればたしか、ジャックはバトルじゃ最強の実力者のはずだ。

 一対一ならまだしも、あの人数相手に勝てるなんてありえるのか? 

 そう思った瞬間だった。

 ものすごい速さでジャックが囚人たちの間を通過しただけに見えた。

 しかし、次の瞬間囚人達が次々と倒れ血の海が広がった。


 何だあれ? 一体何が起きたんだ!?

 囚人たちの身体に痛々しい裂傷があちこち刻まれてることから刀による攻撃だと予想がつく。

 しかし、俺には刀を使ってるようには全く見えなかった。

 だが、囚人達に背を向けているジャックの左手は腰に提げている刀の柄がしっかりと握られていた。

 やっぱり、刀は使ってたんだ!

 あの一瞬で、すべての敵を切り裂き納刀したってのか?

 だとしたら、本物の化け者だ。


「同じ人間とは思えないよね」


「おおっ! エルか、びっくりした」


 とんでもない光景を目の当たりにし茫然としていた俺はエルの接近にまったく気づかなかった。


「ごめんね、ちょっと遅れちゃった」


「そんなことない。俺が早く着きすぎただけだ」


「そっか、じゃあ行こっか!」


 俺とエルは昨日エンターテイメントエリアで遊ぶ約束をしていた。

 エルの話じゃ、映画、ゲームセンター、スポーツ、カラオケ、ダンスなどなんでもあるらしい。場所は昨日行った食堂の反対側の位置にある。


「ああ、そうだな」


 エルがニコッと笑い歩き出した。


「それにしても、さっきのジャックの試合すごかったな。俺には何が何だかまるで分らなかった」


「ジャックさんプロの殺し屋なんだって」


「えっ! そうなのか?」


「うん、私も人伝いに聞いただけだから、本当かどうかはわからないけど、裏の世界じゃ知らない人はいないみたい」


「おっかねぇな」


 初めて会った時はそんな怖い感じしなかったけどなぁ。むしろちょっと好印象なくらいだ。


「そういえばさ、ちょっと気になってたんだけど、ここって何か女の人多くない? 何か俺以外に男いない気がするんだけど」


 さっきからいろんな人とすれ違ってるが全員女だ。

 ここに入ってきたときからずっと疑問だった。犯罪者って女よりなんとなく男のほうが多いようなイメージある。


「ああそれはね、単純に女の子のほうが需要があるだけ。富豪ってちょっとおかしな人が多いみたいでね、女の子がひどい目にあったり、殺しあってる姿を見て興奮する人がいるみたいなの」


「救いようのない変態だな」


「でも、男の子がまったくいないわけでもないよ。灰斗くんがここに来る前に何人かいたんだけど、みんなジャックさんに殺されちゃったの」


「えっ、もしかして俺も殺されたりしないよな……」


「自分から喧嘩売らなければ大丈夫だと思うけど……」


 大丈夫と言ってはいるがエルの表情は少し自信なさげに見える。不安になるからそこはできれば断言してほしかった。


「その殺されちゃったやつってジャックに喧嘩吹っかけたりしたのか?」


「うん。最強だか何だか知らないが女に負けるはずがないってバトルを挑んだんだけど、みんな瞬殺だったよ」


「なるほど、立ち振る舞いには気をつけなきゃな……」


 今のところ、ジャックは俺のことそんなに悪く思っていないはずだ。ブラザーとか言ってたしな。

 エンターテイメントエリアに入ると、派手なBGMとともに派手な照明と色とりどりの装飾に包まれた光景が広がっていた。

 例えるならテレビで見たラスベガスのカジノみたいな感じだ。


「すげぇ広いな、一体どこまで続いてんだ?」


「う~ん。私もあんまり来たことないからよくわかんないなぁ。確かなのは丸一日使ってもまわり切れないってことだけだね」


「マジかよ、すげぇな」


 すれ違う囚人達の中でたまに私服を着ている人がちらほらいる。


「なぁエルみたいに、たまに囚人服じゃなくて普通の服着てる人見かけるけど、ここって服買えたりするの?」


「ううん。服はここにはなくて、取り寄せるの」


「そんなことできるのか?」


「うん。ここだとスマイルたくさん持ってる人は結構融通が利くの。スマイルさえあれば何でも取り寄せることができるの」


「へー、でも俺は命削ってまで服取り寄せようとは思はないな……」


「ここだと、服はおしゃれと言うより一種の力の証明みたいなものなの。高価な服を身に着けて、スマイルに余裕があるってことをみんなにアピールしてるの」


「なるほど、そんな意図があったのか。ってことはエルも同じような理由で?」


「私はただおしゃれがしたいだけ」


「そっか。会った時から気になってたんだけど、エル何でそんなスマイル貯まってるの?」


「私、運動神経はまったくないけどボードは得意なんだ」


「エル、頭よさそうだもんな」


「ううん、私頭はそんなに良くないと思うよ。ただ人の行動が読めるだけなの」


「何それ、超能力!?」


 エルは笑いながら違う違うと手を振り、


「う~ん何て言えばいいのかなぁ、私昔から人の癖がわかるっていうか、その人が何をしたら怒ったり、喜んだりするのか、何を望んで何をしてほしいのかが自然にわかっちゃうの」

 と答えた。


「凄まじいまでの洞察力だな」


「そう、それが言いたかったの! 自分で言うのもなんだけれど、たぶん私普通の人より洞察力が良いみたいなの」


「うらやましいねぇ、俺には何もないよ」


「そんなことないよ。灰斗くんには誰にも負けない良いところがあるよ」


「えっ、何のこと?」


 エルはフフッと笑ったとに、人差し指を口に当て、

「秘密」

 と答えた。


「何だそれ」


「それより、早く遊ぼうよ」


「ん、ああ」


 エルは運動が全くできないらしいので、俺たちはゲームセンターで遊んだり、マジックショーを見ることにした。

 久々に嫌なことを忘れて羽を伸ばすことができた気がする。

 本当にエルに会えてよかった。エルがいなければ俺はいつか壊れてしまっていたのかもしれない。


「エル、本当に今日はありがとうな」


「何、急にどうしたの?」


「いや、俺エルがいなかったら、どうなってたかわからないなって思っただけ。それより全部奢ってもらって本当に悪いな。大丈夫なのか?」


 俺のスマイルは3500しかない。もし自腹だったら今頃とっくに死んでいる。


「いいの! 私が好きでやったんだから。むしろ一緒に遊んでくれて私の方が感謝してるくらいだよ!」


「そっか、そう言ってくれるとなんだか少し気が楽になったよ」


「ねぇ、灰斗くんまだちょっと時間あるし、映画でも見に行かない?」


「え、でも……」


「スマイルのことなら気にしないで、私まだ全然余裕あるから。ねっ? お願い! 私友達が少ないからこうやって遊ぶことってあんまないの……」


 こんなに良い奴なのに何で友達が少ないんだろう?

 一瞬不思議に思ったが、ここにいる人達のことを考えて納得がいった。


「何から何まで悪いな」


「それじゃ、決まりね!」


 映画館に向かい適当に上映作品のタイトルを眺めていると、突然エルに肩を叩かれた。


「ねぇ、これ面白そうじゃない?」


 エルが指さしてる宣伝ポスターには「今日もピエロは笑う」と書かれていた。


「たしかに、じゃあこれにするか」


 特別見たいものもなかったし、ここはエルの意見を尊重しよう。それにスマイルを払うのはエルだしな。


「何か、想像以上にエグイ話だったな……」


「そう? 私はすごく面白かったと思うけど」


「エル可愛い顔して、案外ああいう話好きなのか……、何か意外だな」


 映画の内容はこうだった。

 主人公である少年は幼少のころからずっと親に虐待されていた。

 少年は親が望む子供を演じ切ることにより、しだいに親とうまく折り合いをつけるようになった。

 時を経て少年が成人したころに、両親は不摂生な生活が原因で病気になり倒れてしまう。

 病院を嫌う両親は自宅療養を希望し、主人公に面倒を見てほしいと頼んだ。

 主人公は両親の面倒をみることを笑顔で承諾した。

 しかし、主人公は両親の面倒を見るどころか、まともな食事を与えず、暴力をふるい続けた。

 両親は「親に対して何てひどいことをするんだ。この悪魔め!」と主人公を罵った。

 それに対し主人公は「僕はお父さんとお母さんがしたことをやっただけだよ? やっぱり恩は返さなくちゃね! それに僕の中に住む悪魔はお父さんとお母さんが心を込めて育ててくれたんじゃないか!」と不気味に笑いながら答えた。

 主人公は泣きながら苦しむ両親を見て狂ったように笑い暴力をふるい続けた。

 しだいに、主人公の行動はエスカレートし両親を拷問した挙句殺害してしまうという胸糞悪いストーリーだった。

 映画を観終わった俺たちはひとまず解散することになった。


「今日は、楽しかったね」


「うん、エルのおかげで久々に羽を伸ばすことができたよ」


「ねぇ、灰斗くん」


「ん、何?」


「後で、私の部屋に遊びに来ない?」


「えっ?」


「実は話したいことがあるの」


「何話したいことって?」


「ここだとちょっと言いにくいんだけど……」


 すると、エルはちょいちょいと手招きし口元に手を当てた。

 どうやら耳を貸せっていうことらしい。

 俺はエルの身長に合わせて姿勢を低くしエルに耳を傾けるとエルは、

「ここを脱出する方法があるの」

 とだけ言った。


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