第7話 レインメーカー
目を覚ますと、視界が白い天井に覆われていた。
俺はいつのまに眠ってたんだ?
体をゆっくりと動かすと、左肩がにぶく痛んだ。
「痛ッ」
左肩に手を当ててあの時のことを思い出した。
そうだ。あの時、俺は傘の子をかばって矢に当たってそのまま気を失ったんだ。
良かった……、死なずに済んで。
「それにしてもどこだここ?」
「ここは医務室だよ」
不意に抑揚のない淡々とした声が聞こえて、俺は驚いて声の聞こえた方へ顔を向けた。
そこにはイスにちょこんと腰掛ける傘の子がいた。
つまらなそうな顔をしながら右手に持ったバータイプの栄養機能食を小さな口に運びもごもごと口を動かしている。
「お前あの時の……、怪我はなかったか?」
「何故あの時、私を助けようとした?」
「えっ、何故って……、そりゃ危なかったからに決まってるだろ」
「自分の身を犠牲にしてまで私を助けたというのか?」
「そうだけど……」
「なるほど、君は相当変わり者のようだね。自己犠牲してまでも赤の他人を助けようとする精神とても合理的な判断とは言えない」
「何だよ。せっかく助けてやったのにそんな言い方ないだろ」
人の善意を何だと思ってやがる。
「事実を言ったまでだよ。それに君の手を借りるまでもなく私の身の安全は保障されていた」
「はぁ? どういう意味だよそれ?」
それにしてもこいつさっきから表情がピクリとも動かないし、淡々と喋ってるから感情が全く読めない。
「私のレインコートは特殊な素材でできていてね。あの程度の矢なら直撃しても大きな問題はないのだよ」
「マジかよ……、俺ただのやられぞんじゃねぇか。てかお前何でレインコート着て、傘さしてんの?」
「私は生まれつきアルビノという特殊な体質でね。メラニン色素の少ない私の肌は日に当たると炎症を起こしてしまうのだよ」
アルビノ? 肌と髪の色が白いのもそのせいなのか?
「つまり日よけってことか?」
傘の子は小さくコクンッと頷いた。
「でも、ここってたぶん地下なんだろ。日差し何て心配する必要ないと思うけど」
「一度身に着けた習慣と言うのはなかなか治らないものだ。それに私は雨が嫌いだ」
雨? なんの関係があるんだよ。
少し気になったが、これ以上聞いても納得の得られる答えが出そうにないのであきらめることにした。
「あっそういえば!」
俺は右腕についている腕輪を確認した。
腕輪の数字は今朝と変わらず、600と表示されていた。
「嘘だろ。気を失ったからクリアは取り消しってことなのか!?」
「安心したまえ、ゴールした時点で君の目的は達成されている」
「でも、見てくれ。スマイルが全く増えてないんだよ」
「それは君がチャージをしていないのが原因だよ」
「チャージ?」
俺が首をかしげると傘の子がベッドのすぐわきにあったテーブルを指さした。
テーブルの上には小さなカードが一枚置かれている。
「何これ?」
「今回の君のクリア報酬だよ」
「えと、どうすればいいのこれ?」
「腕輪に溝があるだろう。そこにカードの黒いラインが入った部分をスライドすればチャージが完了する」
「右からそれとも左から?」
「どっちでも問題はない」
傘の子に言われた通りカードを腕輪の溝に合わせてスライドする。
するとピッという音とともに腕輪の数字が3600と表示された。
「おお! 増えたありがとう!」
やった! これで何とか一か月以上生きることができる。
たった一か月だが寿命が延びることに俺は少し安心した。
「気にすることはなない」
心に余裕ができてためか急に空腹が襲ってきた。
「それにしても腹減ったな」
「なら食堂に行けばいい。ここを出て右に曲がってまっすぐ行けばホールに出る。ホールに入り左側が食堂だ」
「なるほど、でも飯食うのにスマイルが必要なんだよな……」
寿命を削ってまで食事を食べてるのは少し気が引けるな。いやでもいつかは食べなきゃ餓死するし……
俺が思い悩んでいると、傘の子がポケットから何かを取出し俺に差し出した。
バータイプの栄養機能食だ。きっとさっき食べていたものと同じだろう。
少し開封されているのが気になるが……
「これくれるのか?」
「かまわない。私の不注意による迷惑料だと思ってくれ」
「そっかありがとな」
俺は差し出されたそれをありがたく受け取り、その場で食らいついた。
ひさしぶりの食事だったためか、あっという間に平らげてしまった。
「そういえばお前何でこんなところにいるんだ? 見舞いってわけじゃなさそうだし……」
傘の子は右手の人差し指を小さな口で噛み2~3秒した後、
「特に理由はない。ただの気まぐれだ」
と答えた。
「そうか」
ずっとここにいてもしょうがない。とりあえずホールに向かうか。
俺はベッドから起き上がり部屋を出ようとした時、傘の子に声をかけられた。
「待て」
「ん?」
「君の名前を教えてくれないか」
「あー、そういえば自己紹介がまだだったな。俺は不知火灰斗だ。齢は――」
「17歳か」
俺が言い切る前に傘の子が俺の齢を当てた。
「何でわかった?」
「それぐらい見ればおおよその見当はつく」
「そういうものなのか? そういえばあんたの名前は?」
「……レインメーカーみんな私のことをそう呼ぶ。年は不知火灰斗より二つ下だ」
「レインメーカーね。ここの人ってずいぶん変わった名前の奴が多いよな。それじゃ俺はちょっと出かけることにするよ」
部屋を出るときレインメーカーがじーっと俺に視線を向けていた。
あいかわらず、その表情は何を考えてるのか全く読めなかった。
俺は部屋を出た後、ホールに向かった。