第5話 ボード、バトル、ダンジョン
「すいません。ちょっといいですか?」
「はい、ゲームの参加希望ですか?」
受付の若いお姉さんが丁寧に対応してくれた。
良かった。柄の悪い人が多いので内心ちゃんと対応してくれるか少し心配だった。
「あ、いえゲームの内容についてちょっと知りたいんですけど……」
「かしこまりました。参加希望のゲームはバトル、ボード、ダンジョンのどちらですか?」
「すいませんここに来たばかりで何もわからないです。ゲームの内容について一とおり簡単に教えてほしいんですけど……」
「かしこまりました。まずはバトルについて説明させていただきます。バトルはコロシアムと呼ばれる広大な円球闘技場で互いに全スマイルをかけて命が尽きるまで戦ってもらいます。基本的には一対一の決闘ですが、例外として複数で行う場合があります。後者の場合だと内容が少し複雑になりますので今回は説明を省かせていただきます。コロシアム内にはいたるところに武器が配置しており使用は自由です。また武器の持ち込みも自由です。バトルは参加するにあたって互いの同意が必要です」
バトルはやっぱりただの殺し合いだったか。これは論外だ。殺すのも殺されるのもごめんだ。
「次にボードについて説明させていただきます。ボードは運、頭脳、心理戦を駆使して行うゲームです。こちらもバトルと同様互いの同意が必要で基本的に一対一の決闘となります。」
なるほど、ボードはギャンブルみたいなものか、これなら俺でも参加できそうな気がする。バトルやダンジョンに比べると危険が少ない気がするけど……
「またゲームの参加にあたって互いに臓器を賭けてもらいます」
「はぁ!? 臓器!!」
「はい、参加するにあたって必須条件となります。勝者には賭けた臓器に応じた報酬が獲得され、敗者は賭けた臓器を失うことになります」
「なんだよ、それ。最悪死ぬ可能性もあるんじゃないか!」
「心臓をかけた場合は確実に死んでしまいますが、その他の臓器で死ぬことはあまりないです。たとえば、肝臓や肺をかけるにしても、全部摘出するわけでなく生命維持できるよう部分的に切除を行います。また臓器摘出は専門的な解剖知識を持った者が行うので大きな心配はありません」
狂ってやがる。こんなことに喜ぶ連中がいることを想像すると吐き気がした。
「また賭けた臓器によって獲得スマイルは大きく異なります。スマイルが高額なのは心臓や肝臓、肺などです。逆に安いのは眼球や腎臓、胆嚢、脾臓などになります。また互いの同意があればそれにプラスして手持ちスマイルをかけることも可能です」
あまりの残虐性、現実感のなさに頭がくらくらしてきた。俺はこんないかれた環境のなかで一生を過ごすのか……
「最後にダンジョンについて説明させていただきます。ダンジョンはゴールを目指して罠が仕掛けられたステージを進むただそれだけです。ステージの難易度によって獲得スマイルは大きく異なります。参加者数に制限はありません。ステージのクリア報酬の他にも1位から3位の方には追加でスマイルが貰えます。ちなみにいつでも参加可能なバトル、ボードと違いダンジョンはステージ制作、工事の都合で週一回となります。以上が主なゲームの大まかなルールとなります」
さっきメッキーが参加してたのは、やはりダンジョンか。あれはたしか難易度が最高ランクとか言ってたな。
一番簡単なやつなら俺にもできるのだろうか。
「ダンジョンで一番簡単なやつってありますか?」
「はい、今日のダンジョンで一番難易度が低いのはFとなります」
「それってやっぱりすごく危ないんですかね?」
「すいませんがステージの詳しい内容はお答えできません。最低ランクの場合でしたら優れた運動神経がなくてもクリアできる作りになっています。平均的な体力と冷静な判断力があればそう難しくないはずです」
「最低ランクで死んだりする人っているんですかね?」
「全くのゼロとは言いませんが、まれに命を落とす方もいます」
「そうですか……」
どうする?
どのみちどれかに参加しなければ俺は6日後スマイルがなくなり死ぬことになる。
危険は伴うがどれかに参加するしかない。
バトルは論外だ。となると残りはボードとダンジョンか。
ボードは最悪負けたとしても助かる可能性はある。ダンジョンならクリアできる可能性もあるがミスを犯せば命を落とすことになる。
そうすると、ボードで行くしかないのか。
でも正直頭脳心理戦には自信がない。どちらかと言えば運動神経の方が自信がある。
さてどうしたものか……
悩んでいると不意にモニターから泣き叫ぶような悲鳴が聞こえてきた。
一瞬モニターを見た俺は慌てて目をそらした。
「うっ」
衝撃の光景に急に吐き気が押し寄せてくる。
モニターには今まさに妙な器具で眼球を取り出されようとしている少女が映っていた。
俺は耳を塞ぎなんとか吐き気を堪えた。
無理だ。あんな拷問耐えれる気がしない。それに地獄のような苦痛を味わって死ぬ可能性も考えられる。
どうせ死ぬならサクッと死にたい。
ダンジョンだ。これしかない。それに運動神経なら少し自信がある。
「すいません。ダンジョンに参加します」
「難易度の選択はどうされますか?」
「一番簡単なやつでお願いします」
「かしこまりました。それでは登録手続きをしますので天使の輪を前に出してください」
「えっ? 天使の輪?」
「右手に装着されているリングのことです」
「ああ、これのことですか」
何が天使の輪だよ。ふざけた名前つけやがって!
俺は右手を受け付けの人に差し出した。
すると受付の人は俺の腕輪に何か器械を当てた。腕輪からピッという音が鳴る。
「はい手続きが完了しました。ここを通り抜けた先の一番左手がダンジョンフロアとなります。いくつか扉がありますがFと書かれた扉に入り指示があるまで待機していてください」
「はい」
受付を抜けると正面に三つの扉があった。
左の扉にはトラバサミの絵、真ん中には騎士の絵、右にはチェス盤の絵が描かれていた。おそらく左からダンジョン、バトル、ボードだろう。
俺はいちばん左のトラバサミが描かれた扉を入りしばらく歩くとFと書かれた扉を見つけた。
扉に入ると俺のほかに7人参加者がいた。
部屋に入った瞬間一瞬全員に視線を向けられたが、みんなすぐ視線を床に降ろしてしまった。
全員緊張しているためか重苦しい空気が彷徨っていた。
俺は心の準備を整えようと静かに待つことにした。
何分待ってもなかなか指示が出ない。不安を紛らわすように周りに視線を配ると、一人だけ囚人服ではなく目立つ格好をした少女がいた。
少女の目の色は赤く、不自然なくらい肌の色が白かった。髪の毛の色も肌に負けないくらい真っ白の長髪だった。
背丈は150センチくらい。童顔でかわいらしい顔立ちをしているが表情が乏しくどこか無愛想な感じがする。
それに何故か、室内にも関わらず、黒い傘をさし黒いレインコートを着ている。
こんな小さな子供も殺人鬼だっていうのかよ……
「大変お待たせしました。ステージF只今より開始します」
アナウンスが聞こえたと同時に大きなシャッターが開きステージが姿を現した。