第3話 残り6日
目を覚ますと何やら外が騒がしかった。
あれだけ目が冴えていたのに結局寝てしまったのか……、絶対寝れないと思っていたが自分が想像していた以上に体は正直だった。
ベッドから起き上がり左を向くと、対面の位置にあるベッドに腰掛けているメッキーと目があった。
メッキーは朝が弱いのか、虚ろな目でぼーっとしていた。
視界に入っているが俺をまったく認識してないように見える。
「お、おはよう」
とりあえず、朝の挨拶をしてみた。
メッキーは5秒ほどたっぷりぼけーっとした後、
「ん、ああ」
とだけ返事が返ってきた。
メッキーはゆっくりと立ち上がるとおぼつかない足取りで洗面所に向かい顔を洗っていた。
しばらくすると、初めて会った時と同じ力強さの宿った瞳のメッキーが戻ってきた。
「ここって朝食あったりするの?」
そういえば昨日から何も食べていない。こんな状況にも関わらず精神的に少し落ち着いてきたのか、お腹が空いてきた。
「食事がしたければ食堂にいけばいいわ。と言っても今のあなたの場合、最後の晩餐になってしまうかもしれないけど」
「それってどういう意味?」
「食事をするにも、遊ぶにもここではスマイルが必要だから、今のあなたの場合少ないスマイルを使い切って死ぬわ」
なんだよスマイルって? 笑顔ってはわけではないだろうし……
メッキーは俺の疑問を察したのか続けて説明をした。
「スマイルっていうはこの場所で使われる通貨のこと、ここである程度自由に暮らすにはスマイルが必要よ。今あなたの腕輪に表示されている数字が現在のスマイルよ」
なるほど俺の腕に表示されている数字はこの場所でしか使えない金みたいなものだったのか。
ふと腕輪を見るとある変化に気づいた。
「えっ! スマイルが減ってる」
昨日は確か700と表示されていたはずだ。しかし今腕輪には600と表示されている。
「当たり前よ。スマイルは使わなくても24時間おきに100ずつ減る仕組みになってるもの」
「マジかよ……、さっき死ぬとか言ってたけどスマイルがゼロになったらどうなるんだ?」
「スマイルがゼロになった瞬間、腕輪からあなたの血管に細い針が刺入して多量の塩化カリウムが投与される仕組みになってるわ」
「塩化カリウム?」
あまり聞きなれない単語に首をかしげていると、メッキーが口を開いた。
「詳しい機序まではわからないけど一定の量、塩化カリウムが血管内に入ると不整脈を起こして心臓が止まるわ」
「嘘だろ……、ってことはこのままじゃ俺は6日後に心臓が止まって死ぬってことか?」
「そうよ」
メッキーが淡々と言った。
「スマイルを増やす方法はないのか?」
「スマイルを稼ぐ方法はゲームに勝つ。ただそれだけよ」
「ゲームってまさか殺しあえってのか?」
「バトル、ボード、ダンジョン、スマイルを稼ぐ方法は3通りあるけど、殺し合いが嫌ならダンジョンで頑張っていくしかないわ」
「昨日も軍服の女が言ってたけど、ダンジョンってなんだ?」
「今日はちょうどダンジョンの日だし参加してみれば?」
「それって危ないのか?」
「人によるわね、命を落とす者もいれば、大けがですむ者もいるわ」
「他には方法はないのか……」
「人を殺したくないんでしょう? あなた見たところ知性も度胸もなさそうだし、あなたが唯一生き残れそうなのはダンジョンくらいだわ」
「人の命を何だと思ってやがる。そんな危険なゲームほいほいと参加できるわけないだろ」
「ボード、バトルは毎日参加可能だけれど、ダンジョンは週一回しかやってないの。今日のゲームを逃したら次は一週間後になるわ。このまま何もやらずに死ぬのを待つか。命を懸けて必死に抗うか、選ぶのはあなたの自由よ」
「そんなの参加する以外に選択肢がないじゃないか……」
「悪いけど、これ以上あなたとおしゃべりしているほど私は暇じゃないの」
そう言うとメッキーは部屋を出って行ってしまった。
「なんだよ。人がこんなに悩んでんのに……、なんて冷たいやつだ」
こうしてる間にも着々と寿命が近づいていることを考えると、いてもたってもいられず俺は部屋を出た。