第27話 排除対象
「本当だ。私がこの前気になって芽衣の後を追った時、現場を見てしまったんだ!」
「嘘よ。あの子にかぎってそんなことはありえないわ!」
「嘘じゃない。私は芽衣が人を殺すところをはっきりとこの目で見た」
「信じられないわ。あんな優しい子が人を殺すなんて……」
「私だって信じたくない。でもあの子の周りでは人が死ぬことがあまりにも多すぎる。きっとひとりじゃない。私たちが知らないだけで何人も手をかけているかもしれない」
「偶然じゃないの?」
「偶然なもんか! それに亡くなった人は芽衣と仲が悪い人ばかりだ。防犯カメラの映像を見ると芽衣はよく夜中に外出している。私が現場を見たのだって夜中の4時だった」
「うっ……、うっ……、そんな話信じたくないわ。あの子は本当に心優しい子なのよ」
夜中に目をさましリビングに向かうと、テーブルの真ん中に置かれた小さな照明器具の明かりが周囲を照らしていた。
そして、もう一人の自分の両親が何やら話をしていた。
身を隠し俺は会話に耳を傾けた。
どうやら、俺の犯行がばれてしまったらしい。
入念に排除したはずだが迂闊だった。
「このまま、芽衣を放っておけば大変なことになる」
父親が深刻そうな顔をしていた。
「どうする気なの? まさかあなた芽衣を警察に突きだすきなの?」
母親が震える声で父親を見つめていた。
「私達はこの街の中でも有名な家系だ。周りの人からの信頼も厚い。そんな家系の中に殺人鬼がいたらどうなる? もしこのことが世間にばれれば私たちはまともに暮らしていくことが困難になる。だからこの一見はプロの殺し屋に頼むことにした」
「あなた正気!? 自分が何言ってるかわかってるの!」
母親が立ち上がり、金切り声をあげた。
「おい、あまり大きな声を出すな! 今ので芽衣が起きたらどうする?」
「馬鹿なこと言わないで! あなたどうかしてるわ! 自分の娘を殺すだなんて何を考えてるの!?」
「私だって芽衣を殺したいわけじゃない! でもこのままじゃ取り返しのつかないことになる。それに私達だけじゃない、私達の親戚すべてに迷惑がかかる! それにこの事実が表に出ればアスカの未来にもかかわるんだぞ!」
「それぐらいわかってるわよ……、でもあなた少し考え直してお願い……」
「それは無理な話だ。それにその殺し屋は今日来ることになっている」
「そんな……」
母親が膝から崩れ落ち泣き崩れていた。
俺を殺す?
お前らも俺に牙をむけるのか?
ナンダソレ、俺の身体に危害が加わるってことか?
そんなのダメだ。
いつものサイレンは聞こえない。
命令はないがこいつらは確実に排除対象だ。
ハイジョスルシカナイ
俺は父親にゆっくりと近づいた。
俺の姿を見た両親が驚きの表情でこっちを見ている。
「芽衣!」
母親の叫ぶ声が聞こえた。
「芽衣! 今何時だと思っている。寝なさい! お前まさか今の話――」
俺は父親に近づくと腰に隠していたドスで心臓めがけて突き上げた。
「うっ、お前……」
ドスを引き抜くと大量の血液が俺の全身を赤く染め上げた。
父親は短い悲鳴をあげた後、ゆっくりと床に崩れ落ちた。
「いやああああああああああああああああああああああああああああッ!」
母親の悲鳴がなり響いた。
しまった。先に母親を始末するべきだったか。
これ以上、騒がれるわけにはいかない。
俺は瞬時に母親の前に飛びこみ、喉元を切り裂いた。
横たわった母親は悲痛な表情で口をパクパクと動かしていた。
さて、どうするか。
このままじゃ、もう一人の自分が捕まってしまう。
どうやったら証拠を隠滅できる?
そうだ、これからここに殺し屋が来るはずだ。
そいつを殺して罪をなすりつければいいんだ。
「おねぇちゃん?」
後ろから、声が聞こえた。きっともうひとりの自分の弟のアスカだ。
「なにがあったの?」
部屋に入ってきたアスカは惨劇を目の当たりしひどく取り乱している。
「パパ! ママ! どうしたの! ねぇ死んじゃやだよ!」
アスカが必死に両親の亡骸を揺すぶっていた。
アスカが俺の方に近づいてくる。
「ねぇ、おねぇちゃん! 何があったの!? パパとママは死んじゃったの?」
今度は激しく俺の身体を揺すってきた。
突然、アスカの動きが止まり、下を静かに見つめていた。
視線の先を追うと俺が握りしめていたドスを驚愕の表情で見つめていた。
「嘘だ……、もしかして、おねぇちゃんがパパとママを殺したの? ねぇなん――」
オマエモハイジョタイショウダ
ドスをアスカの小さな胸に突き立てると静かに倒れ動かなくなった。
これで、全員排除した。
まずは、防犯カメラの今の映像を消さなければ。
行動に映ろうとした瞬間、息を殺しながら近づく何者かの気配を感じた。
「おい、お前」
と後ろから声をかけられた。
ゆっくり後ろを振り向くとそこには、帽子をかぶり全身黒いスーツに身をまとった人物がいた。
間違いないこいつだ。
昔、俺が排除してきた奴らと同じにおいがする。
「なるほどあんたが、親父の言ってた殺し屋だな」