第26話 光を浴びる少女と切り離された闇
俺は誰なんだ?
何のために生み出された?
俺にいつ自我が与えられたのかはわからない。
生まれてきた理由もわからない。
俺が初めて目を覚ました時、目の前に三人のゴロツキがいた。
排除しろ! こいつらは危険だ! こいつらの牙はお前の命を脅かす!
激しい頭痛と共に頭の中からサイレンが鳴り響き目の前の対象を排除しろ! と強く命じてきた。
本能に従い目の前の敵を排除すると、俺の視界は暗くなり深い海の底に沈むように意識が薄れていった。
それから、何度か俺は呼び出された。
呼び出されると、決まってあのサイレンが鳴り響き、排除対象を処分するよう命じてくる。
目的が達成されると、俺はまた海の底で眠りについた。
何度も繰り返されるうちに、この身体に害を及ぼす危険性がある者を排除する。それが俺の唯一与えられた役割だと知った。
役割を果たすと俺はまた海の底に沈む。
暗く深い海の底で、たまに小さな光が見える時があった。
それを掴もうと必死に手を伸ばしたが見えない壁で遮られていて触れることは叶わなかった。
暗い海の底はいつも多量の断片的な感情が渦巻いていた。
暇つぶしにその感情の欠片を拾い集め、パズルを組み立てているとあることに気づいた。
この海の中にはもう一人、俺ではない何かが住んでいる。
パズルを完成させた時、俺はもう一人の自分の正体に気づいた。
それは、深い海の底にある小さな光だった。
どんなに手を伸ばしても掴むことができなかったあの光がもう一人の俺だったんだ。
おんなじ場所に住んでいて、手を伸ばせばすぐ届く距離にあるのに一度も触れることは叶わなかった。
もう一人の自分が窮地にいると、呼び出され対象となる者を排除し続けた。
しかし、ある日を境に呼び出されることがなくなった。
俺の役割はお終いか?
もし、そうならこのまま永遠に眠らせてくれ!
ここは、ひどく退屈だ。
やることと言えばパズルを組み立てることくらいしかない。
永遠に続く意識から気を紛らわすために俺は新しいピースをひとつひとつ組み立てた。
パズルが完成すると俺が呼び出されなくなった理由がわかった。
もう一人の自分は今、家族に囲まれて幸せらしい。
なるほど、俺はもう不要ってことか。
だったら、俺を消してほしい。
海の底は暗くて寒くて居心地が悪い。
それに時々、潮の流れと一緒に押し寄せてくる不安と恐怖がすごく怖いんだ。
表に出た時は簡単に解決できることも、海の底に沈んだ魔物はどんなに頑張っても消すことはできなかった。
いつになったら俺は解放されるんだ?
しばらくしたある日、俺はまた呼びたされた。
夜中の三時だった。
排除対象を探したが、俺以外誰もいなかった。
それもそのはず、ここはもう一人の自分の部屋だった。
俺はベッドから起き上がった。
もうひとりの自分はどうやら眠っていたらしい。
俺は何で呼び出されたのだろうか?
目的がなくやることがなかった俺は部屋の周りをうろうろした。
立派な部屋だ。広いし何でもある。
部屋を歩き回っていると、一枚の写真立てが目に入った。
そこには、もう一人の自分が幸せそうな顔で笑っていた。
そして、もう一人の自分を両親、弟がまるで幸せを囲むかのように立っている。
――突然、胸の奥が痛んだ
何だこの痛みは?
しばらくすると、頭の中にまたあのサイレンが鳴り響いた。
うるさくて、すごく頭が痛い。
痛みが限界を超えた時、気づけば俺はまた海の底に沈んでいた。
それから、毎日決まって夜中の3時~6時くらいの間だけ俺は呼び出された。
何もないのに何故俺を呼び出すんだ?
やることのない俺は屋敷内を物色したり、夜の街を散歩し時間が近づくとベットに戻った。
いつものように夜中目を覚ましたある日、突然頭に切り取られた一枚の写真が浮かんだ。
そして、また排除しろというサイレンが鳴り響いた。
俺はその人物を徹底的に調べ上げ足がつかないよう注意し対象を排除した。
それから、呼び出され頭の中に写真が浮かび上がった時は対象を排除し、何もない時は、もう一人の自分を守るための知識、技術を身に着けることに専念した。
俺はもう一人の自分を守るためだけに生まれてきたんだ。
ならいつか消えるその時まで目的を達成し続けるだけだ。