第24話 あの日の真実
モニターの中に映っているジャックの首を絞めていた芽衣が突然倒れた。
両者とも戦闘不能のため試合は中止となり、コロシアムに入ってきた4人の人たちが二人を担架に乗せ運んでいた。
芽衣が心配だ! 行かなきゃ!
どこに行けばいい? 医務室か?
俺は全速力で医務室へ向かった。
部屋がいくつもあり、誰がどこにいるかわからない。
どこだよ、ちくしょう!
部屋の周りを走り回っていると白衣を着ている男性が目に入った。
「すいません! 芽衣さんはここに来ていますか? もし、どこにいるか知ってたら教えてください!」
「ああ、芽衣さんならあそこの一番奥の部屋だ。12号室って書いてあるだろう」
白衣の男が指をさした方向を見ると12号と書かれた札が目に入った。
「ありがとうございます!」
12号室に入ると、白衣の男が何人かいた。「今処置中だから部屋を出てくれ」と言われた。俺は部屋の前でしばらく待つことにした。
30分もすると、白衣の男が部屋から出てきた。
「あの芽衣は大丈夫なんですか?」
俺が尋ねると白衣の男は、
「命に別状はない。極度の疲労と出血により一時的に気を失っただけだ。そのうちに目を覚ますさ」
と答えた。
俺が芽衣の部屋に入ろうとすると、
「芽衣さんの友達かな。心配する気持ちはわかるが病み上がりだからくれぐれも刺激しないように頼むよ」
白衣の男が忠告をしてきた。
「わかりました。ありがとうございます」
俺は白衣の男に頭を下げた後、部屋に入った。
芽衣はベッドで横になり、静かに寝息を立てていた。
左頬にはガーゼが当てられており、スタンドにつりさげられた輸液の管が芽衣のちょうど左手が来る位置に潜り込んでいた。
生きてる芽衣の姿を一目見て安心した俺はベッドのすぐ近くにあるイスに腰掛けた。
2時間以上たったが芽衣は目を覚ます気配はなかった。
静まり返った部屋に一定のリズムを刻む時計の音だけが聞こえた。
あの時の試合が脳裏に浮かぶ。
今まで見たこともないくらい怖い顔をした芽衣、あんなに気の良いジャックが容赦なく芽衣を痛めつけていたこと。
それに……
あの時の芽衣は一体何だったんだ?
あれだけ劣勢だったにも関わらず、いきなり目にも見えないほどの速さであっという間にジャックを追い詰めていた。
それにあんな気味の悪い表情一度も見たことない。
芽衣の姿をしていたが、まるで別人に見えた。
あれは本当に芽衣だったんだろうか?
物思いにふけていると、扉が開く音が聞こえた。
さっきの白衣の人かな?
俺は腰を上げ扉の方に近づこうとすると、ジャックの姿が目に入った。
ジャックはいたるところに包帯が巻かれ痛々しい姿をしていた。
俺はジャックの前に立ちはだかった。
「ブラザー、そんな怖い顔するなよ。別にメッキーを襲いに来たわけじゃない」
「ジャック……」
「……お前の彼女をいじめて悪かったよ。オレはどうしてもこいつと戦いたかったんだ。もう戦うつもりはないから安心してくれ」
「何か用があるのか?」
自分の口から出たとは思えないくらい敵意がこもっていたように思う。
「ああ、でもその前にちょっと座らせてくれ。正直立ってるのがやっとだ」
ジャックはフラフラとした足取りでイスに腰掛けた。
こんな満身創痍なのにも関わらず用って何だ?
俺もジャックのとなりに腰を下ろした。
「ブラザー、さっきの試合を見てどう思った?」
「二人の争う姿何て見たくなかったよ……」
「あれは本当に悪かった。もう二度としねぇよ……」
ジャックが珍しく弱弱しい声で言った。
「ブラザー、あの試合を見てメッキーが突然人が変わったように見えなかったか?」
「なんとなく……」
「おそらくだが、あいつの中にはもう一つの人格がある」
そう言ったジャックの顔はどこか確信に満ちているように見えた。
「芽衣の中にもう一つの人格が?」
芽衣と一緒にいる時、そんな感じはしなかったが、さっきの試合を見た後だとはっきり否定することはできなかった。
「ああ、これはちょっと昔の話になるが、オレはある人物にメッキーを殺すよう依頼を受けたんだ」
「誰だよ、それは?」
「メッキーの親父だ」
「はぁ!? そんなわけないだろ! 自分の娘を殺す親がどこにいるんだよ!」
「信じられねぇと思うが本当だ。オレだって最初は何かの間違いだと思った。それでオレはメッキーを殺すために夜中に屋敷に潜り込んだ」
ジャックはどこか遠くを見るような感じで話し続けた。
「そんでいざ屋敷に入ったらメッキーの家族が全員殺されてたよ」
「えっ?、何を言って……、芽衣の家族を殺したのはジャックだろ?」
「違う、オレじゃない。家族を殺したのはメッキー自身だ。と言っても殺したのはおそらくもう一つの人格のほうだろうがな」
「いきなり、そんなこと言われても信じられるかよ……」
「本当だ。決定的な証拠がある」
「何だよ。証拠って?」
「それは、後で見せる。それで、オレが屋敷に入った時、家族の死体が転がるすぐ近くに返り血で赤く染まったメッキーがいたんだ。そいつはオレに襲い掛かってきてな。オレは腕に自信はあったがまるで歯が立たなかった。オレが殺されると思った時メッキーが突然頭を抱えだして倒れたんだ。そんでまた起き上がった時、奴はお父さん、お母さんどこ? とまるで別人だった。おそらくそいつがお前のよく知ってるメッキーだ」
とても信じられない話だった。人間一人の中に人格が二つそんなことありえるのか?
しかも、そのもう一人の人格が家族を殺した?
何のために?
「芽衣の中に凶暴な人格が眠ってるってのか?」
「ああ、この目で見たんだまちがいねぇ。これはオレの直感だが手にかけたのは家族だけじゃない。おそらくほかにも何人か殺してるはずだ」
「もし、それが本当だとしたらどうやってそいつを止めることができるんだ?」
「さあな。そもそもどうやったらもう一人の人格が出現するのかもわかんねぇ。一つだけ考えれるとしたら死の窮地に追いやむことだ。あの時、オレとの戦いで追い詰められたメッキーが突然人が変わったからな」
「色々ありすぎてもう何が何だがわかんないよ」
「オレが話したかったのはそれだけだ。疑われたままってのは嫌だからな。そんじゃオレは帰るとするぜ。後、メッキーに謝っといてくれ。もう一人の人格に会うためとはいえ痛めつけてすまなかったと」
「本当にそう思うなら直接言ったらどうなんだよ」
ジャックがフフッと笑った。
「ブラザーの言うとおりだ。機会があったら謝っとくよ。おっとあぶねぇ忘れるところだったぜ」
するとジャックはさっきからずっと右手で持っていた何かを俺に手渡した。
それはDVDのケースのようなものだった。
「何これ?」
「オレはムラムラしてどうしょもなくなるとそればっか見てた。この部屋にあるパソコンで再生できるはずだ。メッキーが目を覚ましたら一緒に見ればいい」
「……いかがわしい内容じゃないよな?」
「何だブラザー? 溜まってんのか? 胸くらいなら遠慮なく触らしてやるぜ?」
ジャックは無言の俺を見て「なーんてな」と言ってDVDの内容を伝えた後、部屋を去っていった。