第22話 少女暗殺
4年前――
「まちがいねぇ、あの屋敷だ」
目的の屋敷に侵入する前に念のためターゲットの写真をもう一度確認しとくか。
写真には赤髪の女が映っている。
まだガキじゃねぇか。
色んな依頼うけてきたが、ターゲットが子供ってのはどうしても気が進まねぇんだよな。
それにしても、自分のガキを殺してほしいだなんてイカレた親がいるもんだ。
仕事だから仕方ねぇが、本来ならこの親をぶっ殺してぇくらいだぜ。
「さてと」
時計を確認すると夜中の4時だった。
町は死んだように静か、絶好の暗殺タイムだ。
屋敷に近づくにつれてあることに気づく。
血の匂い?
近いなどこだ?
風と方角からして……
「まさかな……」
オレ以外に誰か雇ってんのか?
それとも……、イレギュラーか?
間違いなくあの屋敷から匂ってる。
まぁ、実際に確かめりゃいいだけの話か。
邪魔者がいればついでに始末するまでだ。
追加報酬でもありゃやる気出んだが、そうはいかねぇよな。
オレは屋敷の裏口から入り、気配を殺しながら移動した。
リビングの方から匂うな。それにすげぇ血の量だ。
硝煙の匂いはしない。武器は刃物か?
誰だ? まさか先にターゲットを始末されたか。
抜き足で移動し呼吸を殺しながら影からリビングを覗くと依頼主とおそらくその妻らしき人物が倒れていた。
おいおいマジかよ。これじゃあターゲット始末しても意味ないじゃねぇか。
リビングに入ると、ターゲットが背中を向けていた。
今はこいつを殺す必要はないな……。いや待て、おかしい何故こいつ無事なんだ。
ターゲットに近づくとすぐ横にもうひとりガキが倒れていた。こいつの弟か?
「おい、お前」
ターゲットはゆっくりとこっちに振り返った。
右手にドスを持ったターゲットがオレを鋭い眼光で睨みつけてくる。
ターゲットは返り血で真っ赤に染まっていた。間違いねぇこいつらを殺したのはこの赤髪のガキだ。
「なるほどあんたが、親父の言ってた殺し屋だな」
赤髪のガキの口元が狂気に満ち溢れ歪む。
なんだこの殺気……、こいつヤバイ
「悪いな、お嬢ちゃん恨みはねぇが、死んでもらう」
オレは瞬時に奴の目の前に踏み込み抜刀した。
しかし、赤髪のガキの姿は消えていた。
馬鹿な消えやがった!?
「へぇ、早いんだなあんた、少し驚いた」
背後から声が聞こえた。
瞬時に振り向くと、赤髪のガキが楽しそうにニタニタと笑っていた。
オレが背後をとられるだと? そんな馬鹿なことあってたまるか!
思わず、苛立ち顎に力が入った。
「お前何もんだ?」
「あんた俺を殺すつもりで来たんだろ? 下調べもせずに来たのか?」
くそ、舐めやがって!
「そのつもりだったがな正直想定外だったぜ」
オレは左胸にしまっていた拳銃を引き抜き奴にむかって引き金を引いた。
しかし、奴は俺が引き金を引く前に銃口の先を見て最小限の動作で銃弾をかわした。
「おいおい、そんな玩具で俺を殺そうってか?」
何故当たらない
信じらんねぇ、二回目の攻撃で殺せなかったターゲット何て初めてだ。
「悪かったな、次は本気でお前の息の根を止めてやる」
オレは拳銃納め、もう一度刀を引き抜き奴めがけて切りかかった。
しかし、切れたのは後ろの家具だけだった。
また消えやがった。
だが、今確かに足音が聞こえたぜ。
そこか!
俺は後ろ斜めに飛び込み刀を振り払った。
チッかわされたか!
「さすがプロだな。さっきより俺の動きについて来れてるじゃないか。だが……」
やつの姿が消えたと同時に俺の腹にすさましい衝撃が走り吹き飛ばされた。
「ッは!」
くそ、呼吸が! それに力がはいらねぇ。
「遅い、それに剣さばきが荒く太刀筋も読みやすい」
強すぎる……、こんなやつ初めてだ。
ファミリー最強のオレが破れるだと?
赤髪のガキがドスを握りしめオレの方に近づいてくる。
「あんたは俺の排除対象だ。今楽にしてやる」
このまま殺されてたまるか!
オレは力を振り絞り、全力で地面をけり飛ばし奴をしっかり視界にとらえ抜刀切りした。
この感触は……
ダメだ浅かったか。
次の瞬間、背中に激痛が走った。
「ぐああああッ!」
まさか、このオレが背中を切られる日が来るなんて夢にも思わなかった。
オレは後ろにいる奴にガンを飛ばした。
赤髪のガキの頬に一筋の血が流れていた。
くそ、あんだけ全力出したのにかすり傷かよ……
「はぁん、なるほどな金髪に背中の鮫の刺青、あんたヴァーケンファミリーか。最強の殺し屋集団が聞いてあきれる」
ダメだ、こいつには勝てない。
オレより強い人間がいるなんて考えもしなかった。
こいつとはまたいつか殺りたいけど、それも無理か。
まぁ、でも自分より強い奴に殺されるなら本望だ。
「あああああああっ!」
突然、赤髪のガキのうめき声をあげ膝をついた。
頭を抱え苦しんでいるように見える。
何だ?
「こんな時にかぎって……、せめてあいつを排――」
すると、赤髪のガキは突然気を失った。
一体全体何がどうなってる?
倒れて数秒後、赤髪のガキはもう一度ゆっくりと起き上がった。
「何これ? お父さん、お母さんどこ?」
何だこいつ? さっきまでの禍々しい殺気をまったく感じない。どうなってる?
一体奴はどこに行った?