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第18話 メッキーとジャックは仲が悪い

 昨日の夜から何も食べていない。

 育ちざかりの身体に一日一食はあまりにも過酷だ。

 限界を感じた俺は寿命を削って食事をとることに決めた。


「これにするか」


 レジに向かい商品名を伝えると、右手の腕輪に器械を当てられピッという音が鳴るとスマイルが3300と表示された。

 ついに買ってしまった。

 ちょうど昼時のため客が多く、どこも満席だった。

 卵かけごはんを持ちながらうろうろしているとメッキーを発見した。

 メッキーのいる空間だけ、人気はなくポツンと一人で食事をしていた。

 俺はメッキーの対面に座った。


「ここいいか? 他はどこも空いてなくて」


「かまわないわ」


「サンキュー」


 俺はちらっとメッキーが何を食べてるのか見た。

 あれは! 1万スマイルの舌がとろける極上ステーキ!!!

 肉厚のステーキの切れ端からはたっぷり肉汁があふれている。

 香ばしく焼き上がった肉からわずかに漂うガーリックの香りが俺の鼻孔に侵入してくる。

 何てうまそうなんだ!


「あなた何て顔でこっち見てるのよ」


 メッキーがジトーッと俺に視線を向けてくる。


「な、なんでもない」


 余計なことを考えるな……、感情を殺せ! 

 同じ食事だ。


 あの肉だって卵かけごはんとなんら変わりないはずだ。

 あんなものを意識する必要はない。

 俺はただ目の前にある物を食べることだけに集中すればいい。

 そうだ、そうに違いない、そうとしか考えられない。


 それに食事何てただ生命活動を維持するために必要なだけだ。味覚なんてものは不要だ。最低限の栄養を摂取すれば目的は達成される。

 あれ? なんか俺いつのまにかレインメーカー思考になってる気がする。


「いただきます」


 寿命を削って食べた卵かけごはんは神の味がした。

 きっとあの肉に負け劣らない、むしろ遥かに超越しているんじゃないかとすら思える。

 味が少し薄いのが気になるが…… 


 一気に食べてしまうともったいないのでちょこちょこと時間をかけて食べることにした。

 それにしても味が薄い。

 このたれは健康面を考慮されて作られているのか?

 まったく余計な配慮を!


「あの、ジロジロ見られてすごく食べづらいのだけれど」


「えっ!」


「あなた、さっきからご飯食べながらずっと私の方見てるじゃない」


 そうなのか? そんなつもりは微塵もなかったのに。

 メッキーがすっと俺の目の前に舌がとろける極上ステーキを差し出した。


「分けてあげるわ」


「えっ! いいの!?」


「かまわないわ。そんな捨てられた子犬みたいな顔で見られたら喉を通る物も通らないわ」


 メッキー……

 何ていい奴なんだ。


「ありがとう、本当にありがとう。それじゃあ、遠慮なく頂きます」


 俺は肉汁あふれる分厚い一切れを箸で掴んだ。

 めちゃめちゃうまそう……

 口の中に入れた瞬間に脂から溶け出した肉汁があふれ、それがソースと抜群のハーモニー奏で俺の舌を刺激してこない……

 何だこれ? 全然味がないんだけど……

 匂いだけ?


「今度はどうしたの? 顔に生気が全く感じられないわよ」


「いやなんかさ……、これ味がないんだけど」


「あなた大丈夫?」


「いや、本当に味がないんだって」


「そんなわけないじゃない」


 そう言ってメッキーが一切れの肉を口に運んだ。


「ちゃんと味するわよ」


「あれー、おかしいなぁ?」


「おかしいのはどう考えてもあなたじゃない」


 何で味が――――

 ここで俺はある一つの可能性に至った。

 残り少ない卵かけごはんを口に運んでみた。

 俺の予想通り味はまったくしなかった。


 くそっやられた!

 よりによってなぜ!

 俺は運命を呪わずにはいられなかった。


 間違いない。あの時レインメーカーに貰ったアメが原因だ。

 それ以外に思い当たる理由は一つもない。


「ちょっと何卵かけごはん食べながら泣いてるのよ!? 気持ち悪いわ」


「うっ……、涙が出るほどおいしくって」


 強がらずにはいられなかった。

 そうでもしないと、俺の中にある大切な何か折れてしまいそうな気がした。


「よお、メッキー元気か?」


 食事を終え一休みしていたら、ジャックが目の前に現れた。

 メッキーはジャックをガン無視していた。


 仲悪いのかなこの二人?

 でも、ジャックはメッキーのこと古い仲って言ってたような気がする。


「無視とはひどいじゃねぇか、オレとお前の仲だろう?」


 メッキーは心底めんどくさそうな顔で、

「邪魔よ。あなたは何でいつも私にしつこく付きまとうのかしら?」

 と言った。


「辛辣だねぇ、なぁブラザー」


「えっ! ああうん」


 突然振られつい曖昧な返事になってしまった。


「メッキーもしかしてお前この男が好きなのか?」


 ジャックがメッキーに直球を投げる。


「そんなわけないでしょ」


 メッキーがホームランで打ち返す。


 いやそれぐらい、わかってるよ?

 でもさ、目の前で男気あふれた感じどうどうと言われると普通に傷つく。


「んーそうかぁ? メッキーが誰かと一緒にいるとこ何て見たことないぜ。ましてや一緒に飯食うなんてありえねぇぜ」


「この男が勝手にこの席を座っただけよ」


「そうなのか? ブラザー」


「え、うんまぁ」


「ふーん。じゃあそういうことにしといてやるぜ。そんなことよりメッキー、オレとバトルしようぜ!」


「嫌よ、めんどくさい」


「ちぇー、いつになったらデートに応じてくれるんだよ」


「一生ないわ」


「しつこい奴は嫌われるからな。ここは潔く引くとするか」


「あなた十分しつこいわよ」


「ん、そうか?」


 あれだけ拒絶されているにも関わらず、ジャックは全く落ち込む様子なく軽い調子だった。

 ジャックは「じゃあなまた会おうぜメッキー、ブラザー」と笑顔でどこかに行ってしまった。


「メッキーの知り合い?」


「その言い方やめて」


「え?」


「そのメッキーって言い方」


「あ、悪いなら何て――」


「私の名前は目木芽衣、芽衣でいいわ」


「わかったよ……、芽衣」


「……それで」


「え?」


「……あなたの名前は?」


 あれ、そう言えばまだ自己紹介してなかったっけ?


「ああ、えーと俺は不知火灰斗だ。齢は17」


「ふーん、灰斗ね。私と同い年だったのね」


「それで、さっきのことなんだけどさ」


「知り合いでもなんでもないわ。あの人は私がここに入ってきたときからしつこく付きまとうストーカーみたいなものよ」


「そうなの? でもジャックは芽衣と古い仲だって言ってたけど?」


「あんな奴と仲良くした覚えはないわ」


 そうなのか。

 でも確かにジャックはそう言ってたんだよなぁ。

 何だろう。ストーカーの性ってやつなのかな?


「灰斗はあの人とどういう関係なの? ずいぶん親しそうだったけど」


「いやそうでもない。ただ落し物を拾っただけだ。そしたら急に馴れ馴――懐いたんだ」


「ふーんそう」

 なんだか機嫌が悪そうだ。よほどジャックのことが嫌いなんだろう。


「ああ」


「私もう帰って寝るわ。さよならブラザー」


「また寝るの!? てかその呼び方辞めて!」


 俺の問いかけ空しく芽衣は去ってしまった。

 時間が経つのは驚くほど速く気がつけばもう18時を過ぎていた。


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