第15話 あの日の夜
私がこの屋敷に来たのは9歳の時だった。
どこかのお金持ちの家族が孤児だった私を見て引き取ってくれたらしい。
私は養子に入り、この家で暮らすことになった。父と母、私より2個下の弟の4人暮らしだ。
私にはここに来るまでの間の記憶がほとんどなかった。
全くないわけではなけど、ところどころ、記憶に穴があいて断片的にしか覚えていなかった。
心配した両親は精神科に私を連れて行った。
医者の話によると心が強い精神的なストレスから身を守るために嫌な記憶を切り離した。だからところどころ、記憶が欠落している部分があるのだろうと言っていた。
今のところ大きなストレスとなる要因はないということで、私はしばらく経過観察された後、すぐに普通の生活に戻ることができた。
生まれて初めての家族の愛情に触れた私は毎日が幸せだった。
両親は何も知らかった私に勉強を教えてくれた。おしゃれな服を買ってもらったり、おいしいご飯も食べさせてくれた。時には私を厳しくしかることもあったが、最後には必ず笑って「芽衣はできる子だからがんばりなさい」と頭を撫でてくれた。
弟とはとても仲が良く、片時も離れずいつも一緒だった。
毎日遊んだり、出かける時も一緒だった。
私はこの場所が大好きでいつもでもこんな時間が続けばいいなと思っていた。
そして、いつか大きくなったら必ず恩返しをしたいと思った。
でも、私の大切な家族は殺されてしまった。
あの忘れもしない13歳の夜に
一体何が起きたのだろう。
目が覚めた時、私はリビングの目の前にいた。
あれ? 私さっきまでベッドで寝てたはずなのに?
頭がすごく痛い。それに視界がぼんやりする。
ぼんやりする視界で自分の姿を見ると血だらけだった。
「何これ? お父さん、お母さんどこ?」
ゆっくりと立ち上がった私の目の前には血だらけのお父さんとお母さんの姿があった。
「お父さん、お母さん! ねぇ大丈夫! どうしたの、何があったの!」
いくら揺さぶっても、お父さんとお母さんは動かなかった。
「ねぇ、嘘死なないで、お願い!」
何で?
何でお母さんとお父さんが!
悪い夢なら覚めてほしい。
「何だこいつ? いきなりどういうことだこりゃ」
私は声のした方向を振り向くと、160センチくらいの人が立っていた。
全身黒いスーツに身を包み帽子を深くかぶっている。
暗闇でその姿は良く見えない。
すぐ横には血まみれの弟が横たわっていた。
「アスカ!」
私は弟に駆け寄った。
揺さぶっても反応はまったくない。
呼吸は完全に止まっていた。
「起きてアスカ、ねぇってば!」
私は謎の人物を睨みつけた。
「あなた誰、あなたが私の家族を殺したの?」
突然、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「参ったなちくしょう! とりあえずここはトンずらさせてもうか」
そう言って謎の人物は私に背中を向けて去って行った。
何故か謎の人物の背中は衣服ごと縦に大きく切り裂かれ血が滲み出ていた。
衣服の隙間からは月明かりに照らされた大きな鮫の刺青がこちらを睨みつけているように見えた。
背中からあふれる血液が鮫の牙を赤く染めているようで気味が悪い。
それを見た最後に私の意識は途切れた。
屋敷内に落ちていたナイフから私の指紋が見つかり、私は家族殺しの容疑者として捕まった。
それから数日後、私はハッピー&スマイルという場所に連れて行かれた。