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第14話 アスカ

 部屋に戻ったころには手足の間隔が戻り、自由に動かせるまで回復していた。


「そのさっきは助けてくれてありがとうな」


「気にしなくていいわ。私の気まぐれだから」


「あなたせっかく助かったのにひどく落ち込んでるように見えるわ」


「そりゃ、そうだろ。エル……、信じてたのに、何であんなことに」


「あの子、親しい人を何人も拷問して殺したって噂よ」


 嘘だろ、いまだに信じることができない。

あれはただの悪い夢だ。そう思えればどれだけ楽になるのだろうか。


「何で、教えてくれなかったんだよ」


「あの時のあなたに言って信じてくれたかしら?」


「それは……」


 絶対信じなかったと思う。


「まあいいわ」


「てか何で俺があそこにいるってわかったんだ?」


「たまたま通りかかったら、あなたの声が聞こえただけよ」


「そうか、てかお前さっき俺の方見てアスカって言ってたけど誰なんだそいつ?」


 メッキ―は少し気まずそうな顔をした後口を開いた。


「私の大切な弟の名前よ。ごめんなさいね、あなたにすごく似ているからついそう呼んでしまったわ」


 大切な弟?

 こいつは家族をみんな殺したんじゃないのか?


「その弟って――」


「今はもうこの世にいないわ」


「……えとその」


「あなたも私が家族を殺したと思ってる?」


 メッキーがまっすぐ俺を見ながら言った。心なしかその瞳にいつもの力強さが宿っていないように見える。


「いや……、俺はただ家族を全員殺したって話を聞いただけだ」


「……人なんて殺したことないわ。ましてや私の大切な家族を殺すわけないじゃない……」


 メッキーは悲しげな表情で俯いていた。


「あなたにこんなこと話してもしかたないわよね。私どうかしてたわ。今の話全部忘れて」


「正直、騙されすぎて俺には何が本当で何が嘘なのか全くわからない。でも……」


 メッキーは黙って俺を見つめている。


「俺はメッキーが家族を殺すようなやつに見えない」


「そう」


「話してくれないか」


「えっ?」


「ここに来るまでのこと」


「あなた正気? 私が話したところであなたに何の意味があるの? それに話したとしても全部デタラメかもしれないわよ」


「それでもいい。俺はただメッキーのことを知りたいだけなんだ」


「何でそこまでして私を知りたいと思うの?」


「それは……、自分でもよくわからない」


 心の奥底に眠るもやもやした気持ちの正体が自分でもよくわからない。

 でも、なぜか知らずにはいられなかった。


「はぁ? 何それ。私を馬鹿にしてるの」


「違う。うまく言葉にできないだけだ。その何ていうか……。信じたい……、きっとメッキーのことを信じたいんだと思う。今はそれしか言えない」


「あなたは何でそうやってなんでもかんでも信じようとするの? 私には理解できないわ。自分だけ信じれば今日みたいに痛い思いしなくてもすむのに……」


「わかってるよ。俺だってそれくらい。……でも信じないとつらいだろ。何もかも疑って生きていたら苦しいだろ。今の俺に話せる人間なんてほとんどいないんだ。頼むよ……。俺も自分のこと何でも話すからさ!」


「……わかったわ。あなたの呆れるぐらいのしつこさと甘さには負けたわ」


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