第12話 夜中の殺人
えーっと、エルの部屋はたしか2階の一番端側にある200号室だって言ってたな。
エルの部屋に行く途中、人溜まりを見つけた。
何だろうと思い少し覗いてみると、軍服を着た二人が大きな黒い布に包まれた何かを運んでいた。
床と壁一面には赤黒いシミのようなものが広がっている。
何だ?
俺は囚人たちの会話に耳を傾けてみた。
「これだけ被害者出てるにも関わらず、犯人はまだ見つからないのか」
「探す必要がないだけじゃん? 私たちが死んだところでここの経営者は別に困ることないだろ。代わりなんてどこからかすぐ来るしね」
「それもそうか。それにここじゃ殺人何て珍しいことじゃないもんな」
「一つだけ気になることがあるとしたら、あれだな」
「あれ?」
「何で夜中に殺人が多いんだろうな。別にここだったら人殺しても罰があるわけでもないし、ただの囚人たちの喧嘩ですまされるじゃん。なのに何でわざわざ夜中なんだろ?」
「さぁ、そいつの生活リズムがおかしいだけじゃないの」
「そうかぁ?」
ここじゃ殺人が当たり前なのかよ……
夜中に殺人が多いのか、夜は出歩かないように気をつけなきゃな。
俺はこの場を後にして、エルの部屋に向かった。
200号室の扉をノックすると「はーい、ちょっと待って」という言葉が聞こえて1分くらいした後に扉があいた。
「ごめんね。灰斗くん待たせちゃって! 灰斗くんが来るまでの間ちょっとお風呂入っててね。さっきちょうど髪を乾かしてたところなの」
「ああ、別に気にしなくていいよ」
エルの顔は少し火照っており、扉を開けた時にほのかにシャンプーの甘い香りが鼻孔をくすぐった。
「さっ入って入って!」
エルに促されるまま俺は部屋に入った。
入ってみると俺とメッキーが住んでいる部屋に比べて少し広かった。
部屋の壁はピンクを基調とした色彩に彩られている。また、ぬいぐるみや観葉植物、よくわからないいふわふわした飾り付けがあり、まさしく女の子って感じな部屋だ。
俺が住んでいる質素な部屋とは大違いだ。
「ベッド一つしかないけど、ここって一人部屋なのか?」
「うん、ある程度スマイルを支払えば部屋を変えてくれたり、模様替えも自由にできるの」
「へー」
「あっそうだ。灰斗くんココア飲む?」
「うん。じゃあお言葉に甘えて頂こうかな」
「そこで座って待ってて」
俺はエルが指さしたイスに腰かけた。
そういえば女の子の部屋って初めて入るな。何だか少し緊張する。
数分後、エルがココア二つを持って俺の対面の位置にあるイスに腰を掛けテーブルにココアをおいた。
「おまたせ」
「ありがとう」
俺はさっそくココアを口につけた。
温かい甘さが口の中にひろがる。
「うまいなこれ」
「でしょ。私の一番好きなやつなんだこれ」
ココアを飲みながら俺はついさっきの出来事をエルに話した。
「うーん。いくらここでもそんなに殺人事件は多くないよ。大抵は喧嘩してそのまま衝動的になって殺しちゃったって感じだから」
「さっき、ここじゃ夜中を狙った犯行が多いって耳にしたけど、それも喧嘩が原因なのかな?」
「う~んどうだろう? ただ……」
エルは少し言いよどんでる様子だった。
「ただ?」
「あのね、夜間を狙った殺人事件って実は4年前から多発しているの。それまでは私の知る限り一度もなかったもの」
「えっそうなの?」
「うん、それでね。4年前に入ってきた人ってたった二人なの」
「その二人って……」
「メッキーさんとジャックさん」
「つまり、その二人のどっちかが犯人の可能性が高いってことか……」
「うーん、どうだろ? 時期を考えるとその二人が一番怪しいかもしれない」
「俺ずっとメッキーの部屋で寝ていたけど、無事だったよ」
それに、メッキーはかなり早い時間から、朝までぐっすり眠っている。
そう考えると、ジャックが犯人か。だとしたら目的はなんだろう?
「そうなると、ジャックさんが犯人なのかな? でもちょっと気になることがあるんだよね」
「何、気になることって?」
「これは私の個人的な思い込みだからあまり気にしないで。あのね夜中に殺された人たちってメッキーさんと因縁がある人が多い気がするの」
「嘘だろ。てことはあいつが……、俺なんかあいつのそばにいるのが怖くなってきた」
「もし困ったら、いつでも私のとこに来て。寝る場所も確保するから」
「それは助かる。あっ! そういえばエルが昨日言ってた、ここから脱出する方法って何?」
エルは一瞬時計をチラッと見た後、席を離れ移動しベッドに腰掛けた。
「灰斗くんちょっとこっち来て」
茫然としてる俺を見てエルはちょいちょいと手招きをした。
「えっ、うん」
俺はエルの少し離れた位置に腰かけた。
すると、エルは俺に密着するくらい近づき耳元で、
「灰斗くん、上着を脱いで」
とささやいた。
「えっ、それってどういう……」
突然の出来事にパニックになっている俺を見つめてエルは、
「いいから」
と言って俺の上着を脱がそうとしてくる。
「ちょっと待って。いきなり……、その何ていうか心の準備ができてないというか……」
心臓の音が耳元まで聞こえるくらいドキドキするような錯覚がした。
それに緊張しすぎて、まるで手足が痺れたように力が入らない。
でも、それは気のせいではなかった。