第11話 どういう関係?
エルと別れすぐ近くの曲がり角に差し掛かった時、メッキーの姿が目に入った。
メッキーは一瞬だけ驚いた顔をした後、すぐに俺から視線を外した。
「こんなところでなにしてるんだお前?」
俺がそう尋ねると、
「娯楽施設って遊ぶ意外に何かすることあるのかしら?」
と答えた。
そう言い残し、メッキーはそそくさと俺の前から立ち去ってしまった。
「何か企んでるんじゃないだろうな?」
帰り道、ホールで見知った人物の姿を発見する。
黒い傘に黒いレインコート、白く長い髪の毛。
俺は後ろからそいつに近づきそいつの後頭部を軽くチョップした。
すると、レインメーカーがゆっくりと俺の方を振り向いた。
相変らずの無表情だ。
「何をする? 不知火灰斗」
「それはこっちのセリフだ。お前俺に毒盛りやがっただろ?」
「ああそのことか。良かったら参考までに感想を聞かせてくれないか。可能な限り詳細に頼むよ。今後の新たな発見のためにも」
「アホかお前! それが毒盛ったやつに対する態度か!? 初対面の奴に毒盛るとかどうかしてるよお前」
「私は他人から貰ったものを何の疑いもなく、口に入れる方がどうかしてると思うがね」
「いやだってお前がお詫びみたいな感じで言うから……」
「言語とは不完全なものだ。私が意図した情報が確実に不知火灰斗に伝わるとは限らない。仮に正確に伝わることができたとしても、不知火灰斗がその情報どう解釈するかによって大きく答えは変わってくる。コミュニケーションエラーというやつだな」
「屁理屈ばかりこねやがって」
「屁理屈ではない。合理的な判断に基づいた見解だよ」
「もういいよ、お前と話してると疲れる。お前ってあれかやっぱり毒殺しまくってここに来たのか?」
「お前ではない。私はレインメーカーだ」
別にどっちでもいいだろ。こいつの名前長くて呼びにくいんだよな。
「悪かったよ。ふうちゃん」
この名前で呼ぶと機嫌が悪くなる。エルは確かにそう言った。
これまで受けてきた仕打ちのせめてもの反撃だ。
するとレインメーカーは俺に一歩近づき俺の二の腕をつまんだ。
無表情な顔だがつまんだ指先にはかなり力が込められている。
「痛い、痛い! 何すんの? ちょっとやめ……」
てか、こいつ地味に力強いな。
「レインメーカーみんな私のことをそう呼ぶ」
「わかった、わかったよ。だからその手を放してくれレインメーカー」
そう呼ぶと、レインメーカーは指先の力をゆるめ俺を解放した。
「さっきの質問に対する回答だが、私に毒殺をしたという認識はない。人を殺そうと思ったことも一度もない」
「は、何だそれ?」
「私はただ薬物が人体にどのような影響を及ぼすか純粋に興味があるだけだ。実験の結果対象の生命活動がたまたま停止してしまっただけの話だ」
「人の命を何だと思ってやがる。モルモットじゃないんだぞ」
「なら聞くが、モルモットと人の違いはなんだ不知火灰斗? 人とモルモットの命に明確な違いがあるというのか? どちらも同じ命ではないか。もしそうだとしたら納得のいく理由を述べてくれないかね」
「はっ?、何ってそりゃ……、何ていうか道徳的な問題とかいろいろあるだろ?」
「曖昧な回答だな。不知火灰斗、人の命なんて大したものではないのだよ。そこらにいる小さな虫となんら変わりない。命は平等だ。人の命は尊重されるべきであるというのは人間の身勝手な解釈だ。すべては人間という愚かな生き物が自分を守るために生み出した幻想にすぎないのだよ」
「そこまで言うか? お前には感情というものはないのか?」
「私は生まれつき共感性が欠如しているのだよ」
「え?」
売り言葉に買い言葉のつもりだったが、思いもよらない言葉が返ってきた。
「快不快などの感情は生じるが、他人に対する共感性というものが私には存在しない」
「人の気持ちがわからないってことか?」
「端的に言えばそうなる」
俺は何とも言えない気持ちになった。
「それって、つらくないか。分かり合える友達がなかなかいないんじゃないのか?」
「友人など不要だ。私が生きるうえで全く支障はない」
「でも、エルとは友達なんだろ?」
レインメーカーは右手の人差し指を小さな口で噛み2~3秒した後、
「白咲エルは私の貴重な実験体だ」
と答えた。
「エルにも毒盛ってるのか!?」
「同意の上だから問題はない」
「何それどういう関係!?」
「私はこの後、調べたいことがるのでな、これ以上不知火灰斗と話している時間はない」
そう言ってレインメーカーはどこかに行ってしまった。
やっべ、そういえば俺もこんなところでゆっくり話してる場合じゃなかった。
約束の時間は18時だ。残り30分しかない。