第10話 胸に空いた穴
パパとママは機嫌が悪くなるといつも私にひどいことを言ったり、理由もなく殴ってきた。
爪を剥がされたり、ナイフで切られたりするとすごく痛くて涙が止まらなかった。
泣くともっと怒られちゃうから私は我慢した。
でも涙は止まらなかった。
きっと私が馬鹿で気が利かないせいだ。
私のせいでパパとママはこんなにイライラしてるんだ。
私がもっとしっかりすれば、パパとママはいつかきっと褒めてくれる。
ご飯だってお腹いっぱい食べさせてくれるに違いない。
そのためには、パパとママを喜ばせなきゃ。
パパとママが喜ぶよう私はいっぱい頑張った。
殴られたり、ひどいことを言われても泣かないように頑張った。こんなに頑張ってるのにどうして涙は止まらないの?
お腹が空いても我慢した。
パパとママが疲れてる時は、温かいコーヒーと食べ物を用意した。
でも、パパとママは私のことを「気味が悪い」と言ってもっといっぱいいじめるようになった。
どうして
どうして
どうして
何でなのかな?
パパとママは私のことが嫌いなの?
嫌いなのかな?
そうなのかな?
何でだろう?
ううん、違うそんなわけない。
パパとママは私のこと好きに決まってる。
私が馬鹿で役立たずだからパパとママは怒ってるだけだ。
絶対そうだ。
私はもっと頑張った。
パパとママが何をしたら怒るのか、何をしたら喜ぶのかいっぱい考えた。
パパとママのことを見ていっぱい考えるとだんだんわかるようになってきた。
殴ったり、怒られる数も少し減った。
でも、私のことは褒めてくれない。
もっと頑張らなきゃいけないのかな?
でも、頑張る必要はなくなった。
パパとママは死んじゃったから。
お巡りさんが来て、パパとママはお酒飲んで車乗ってたら、崖から落ちちゃったんだって。
すごく悲しかった。
涙が止まらない。
パパとママに会いたいよ。
もっと私を見てほしいよ。
パパとママが死んでから胸にぽっかり穴があいた気がする。
穴はいつまでたってもふさがらなかった。
苦しい。
すごく苦しい。
助けて
私はパパとママのしんせき? って人の家に住むことになった。
ご飯もちゃんと食べさせてくれるし、殴られたり、ひどいことも言われない。
でもあいた穴はふさがらない。
どうして?
もしかして治らないのかな?
小学校に入ると私には友達ができた。
すごく仲が良い友達で毎日いっぱい遊んだ。
友達と遊んだ時、私の投げたボールが間違って友達に当たちゃった。
友達はすごい泣いていた。
泣いてる友達をみて胸がへんな感じがした。
気になってもう一回ボールを当てたら友達はもっと泣いた。
また胸がへんな感じがした。
私はこの変な感じがすごく気になった。
今度は石をぶつけたり、棒で叩いてみた。
友達はものすごく泣いた。
そしてものすごく、胸が変な感じがした。
私は胸の穴が少し小さくなってるような気がした。
何だろうこれは?
私は友達に「嫌い」って言われた。
すごく悲しい
中学生になった、私は親しい人物に対し危害を加えると妙な昂揚感を生じることに気づいた。
この説明不能の感情を調べずにはいられなかった。
だから私は一番親しい友達ミカを家に誘った。
今は私一人しか住んでいないため、誰もいない。
まず最初に、ミカをベッドに寝かせ四肢を縛り付けた。
ミカは「何いきなりどうしたの?」と笑っていた。
しっかり縛り付けて動けないことを確認した後、念のため口をガムテープで縛った。
騒がれると少し面倒なことになるかもしれない。そう思った。
縛り付けたミカのお腹にナイフの刃先をすーっと滑らすと血がうっすらと滲んだ。
ミカは涙を浮かべながら、必死に顔を動かしている。
私はその姿を見てものすごく興奮していることに気づいた。
もっと試せばこの感情の正体がわかるかもしれない。
私はカミソリでミカの皮膚をはいだり、爪を剥がしてみた。
すると、ミカは激しく動き、苦悶の表情を浮かべ涙を流した。顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
体中、汗だらけで失禁もしている。
私がナイフをミカの顔に近づけると、すごくおびえた表情で涙を浮かべている。
テープで覆った口からは言葉にならない悲鳴が漏れている。
その姿がとても愛おしくて仕方がなかった。
繰り返しているうちにミカは動かなくなってしまった。
この時初めて、ミカがもうこの世にいないことに気づいた。
そして、もうひとつ気づいたことがあった。
幼いころからあった胸の穴がふさがってることに。
私は今まで感じたこともないような幸福感に包まれた。
そしてやっと今までずっともやもやしていた感情の正体に気がついた。
そうだ、これがきっと愛だ
やっぱり私はパパとママにすごく愛されていたんだ。
私がいじめだと思ってたのはパパとママの紛れもない愛情だったんだ。
まぬけな私は今までずっと気づくことができなかった。
やっぱりパパとママは最高だ。
私もパパとママみたいに大切な人にもっと愛をあげなきゃ!
数日もするとふさがった穴はまたあいてしまった。
穴をふさぐためにはもっと誰かに愛情をあげなきゃ!
愛情を注ぐのが10人を超えたころで私はハッピー&スマイルという場所に連れて行かれた。
最近なんだかよく昔のことを思い出す気がする。
久しぶりにいい子を見つけたからかな?
正直、一目見た時から可愛げのある子だと思っていた。
ふと時計を見ると17時だった。
約束の時間まで後、一時間。
楽しみで仕方がない。
あの子のおびえた表情、泣き叫ぶ声を想像するだけでものすごく興奮して全身が熱くなる。
いけない、いけないまた汚れちゃった。
あの子が来るまで時間があるし、お風呂入るついでに下着も全部取り替えちゃおう。