第1話 ハッピー&スマイル
鬱展開苦手な方はあまりお勧めできないです。
「離してくれ! 何なんだよ! どこに連れて行くきだ!」
「黙れ、凶悪犯が偉そうな口を聞くな」
黒い軍服に身を包んだ女に無理やり手を引っ張られ、俺は引きずられるように真っ直ぐな廊下を歩かされていた。女とは思えないほどの怪力に抵抗するすべなくどこかに連れて行かれる。
「違う! 俺は何もやってない! それにこの腕輪は何なんだよ!」
「やったかやってないだのそんなことはどうでもいい。あるのは貴様がここにいるという事実だけだ」
「なんだよそれ! こんな理不尽なことがあってたまるかよ!」
軍服の女は鼻で軽くフンッと笑った後に、
「この先、生きたければ精々強く抗うんだな」
と言った。
「どういう意味だよ?」
軍服の女は俺の問いに答えることなく、黙々と歩いて行った。
それでも、今おかれている理不尽な現状についてしつこく問い詰めたが、まるで反応がなく無言のままだった。
しばらく、歩かされると、軍服の女はある部屋の前で立ち止まった。
扉には「64」とだけ書かれている。
軍服の女が扉を開けた。
部屋に入ると軍服の女は乱暴に俺の腕を引っ張り正面に立たせた後、蹴りつけてきた。
「痛ッ!」
バランスを崩した俺は、その場で倒れ込んでしまう。
「メッキー、今はどこも部屋が空いてねぇんだ。悪いがしばらくこいつと一緒に住んでもらう。明日はちょうどダンジョンだ。それで何人か掃除できりゃ部屋が空くかもしれない。それまでの辛抱だ」
そう言い残すと軍服の女は部屋を出て行ってしまった。
俺は体勢を立て直し正面を向くと、そこにはメッキーと呼ばれていた赤髪の少女がいた。
メッキーはショートパンツにTシャツ一枚というラフな格好をしていた。
目が大きく、輪郭が丸くてかわいらしい顔立ちをしているが力強い目つきをしているためか少し気が強そうに見え る。
身長は160センチくらいでモデルのようなすらっとした体系をしている。
メッキーは俺と目が合うと、一瞬驚いたように大きく目を見開き、
「あす――」
と何かを言いかけた。
俺は言葉の続きを待ったが、メッキーは言いかけた何かを飲み込むように口を閉じた後、俺の方に冷たい視線を向けてくる。
「あなたは何人殺したの?」
「俺は誰も殺してなんかいない!」
メッキーは「そう」と興味なさげにつぶやいた。
「あなたが本当に人を殺したかどうかは知らないけど、たまに本当に無実の人間がくるわ。もしあなたがそうだったとしたら、それは災難ね」
「俺は本当に人なんか殺していない。それより一体どこなんだここは?」
「ハッピー&スマイル社会福祉事業施設よ。表向きはね」
「表向きは?」
「そう、裏の顔は富豪達の娯楽施設だもの」
「富豪達の娯楽施設? どういうことだよ?」
「殺人を犯した凶悪な犯罪者達を集めて残虐なゲームや殺し合いをさせたりするのよ」
「嘘だろ……」
そんなイカレ狂った世界あってたまるかよ。
「信じる信じないはあなたの自由よ。私はもう寝るから話しかけないで」
そう言ってメッキーはベッドの方に向かった。
「ちょっと待ってくれ。わかんないこと、聞きたいことがたくさんあるんだ。この腕輪は何なんだ。それにここに表示されている数字は何を意味している?」
右手にはめられた白い腕輪には700と数字が表示さていた。数字の下には横長の溝がある。
「それはあなたの命よ」
「それってどういう――」
言いかけたところで寝床についたメッキーが振り向いた。
「あまり、なれなれしく話しかけないで、あなたにすべてを丁寧に教える義理はないわ。私の睡眠の邪魔をしないで」
俺はメッキーの力強い視線に怯みこれ以上聞くことができなかった。
一体どうしてこんなことになってしまったんだろう。俺が何をしたっていうんだ……
メッキーの話が本当なら俺はこの施設にいる凶悪犯と殺し合いをすることになるのだろうか?
それにこの腕輪が俺の命に関係するって……
そういえばさっき、軍服の女がダンジョンだか掃除とかわけわかんない事を口走っていたな。
わからない、いくら考えても、あるのは先の見えない不安と絶望だけだった。
こんなわけもわからず死にたくない。
壁にかかっている時計を見ると22時を過ぎていた。
目が冴えて全く寝れそうにない。それにさっきの話じゃメッキーも凶悪犯ってことになる。
殺人鬼と二人っきりの部屋で大丈夫なのか?
寝てる間に殺されたりしないだろうか?
身の危険を感じ落ち着きがなくなった俺は、足音を殺してゆっくりとベッドで寝ているメッキーに近づき顔を覗き込んだ。
メッキーは子供のような無邪気な顔ですやすやと眠っていた。
「これでも凶悪犯なんだよな……」
どうみても悪い奴には見えなかった。もしかしてメッキーは俺と一緒で無実にもかかわらずここに連れてこられたんじゃないか?
不意にそんな考えが頭をよぎった。
俺も寝床についた後、今日の出来事を思い出していた。
あの時、いつまでも続くと思っていた平穏は唐突に崩れた。