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第2話:ログアウト不能

 



「なんでリアルと同じ顔になってるの…」


 清雅が、倉庫から引っ張り出してきた鏡を見つめ、夏葉は呆然としている。


「な、なんかのイベントだろ…?」


 そう言ってみたものの、清雅にも自信はなかった。


「公式サイトになんかでてるんじゃないか?」


 清雅がいつも通り、ゲームメニューを表示させるために、左手を軽く振った。いつもなら、これで場違いな電子音と共に、ゲームメニューが目の前に現れる。そこで公式サイトへアクセスしたり、アバター設定をしたり、一番重要なログアウト設定をしたりできる。はずだった。いつもならば。


「あれ?メニューがでない…」

「えっ?そんなことないでしょ。」


 夏葉もそう言いながら同じ動作をする。しかし、いつもの間の抜けた電子音はせず、画面も一向に表示されない。


「「なっ、なんで!?」」


 そのとき、店内に場違いな電子音が鳴り響いた。



 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ…



 突然のことに固まる二人。見れば、夏葉がテーブルに置いたままにしていた携帯端末が光を発している。


「な、夏葉、コールきてる。」

「えっ!あっ、うん…」


 一瞬フリーズしていた二人だったが、我に返った清雅の言葉で、夏葉が急いで携帯端末を手にとった。


「えっ、しずく!?」


 表示された相手の名前に、一瞬驚いた夏葉だったが、すぐに端末を操作する。


「清雅、ビデオコール使っていいよね?」


 そう言って、返事も待たずに端末をテーブルの上に夏葉が置く。すると、先程と同じようにテーブルの上にホロ画面が現れた。



 どこかの宿屋の部屋なのだろう。画面に映る飾り気のない質素な部屋には1人の少女がいた。彼女の姿は清雅も見覚えがあった。隣のクラスで夏葉のクラスメイトでもある、(おぼろ)しずくだ。夏葉の親友であり、おかげで清雅も何度かパーティーを組んだことがある。

 しかし、今画面に映るのは、何度か見た女侍スタイルの彼女のアバターではなく、学校でよく見る現実の姿だった。一応、服は袴姿だったが。

 そんな彼女は、こちらの姿を目にしたのだろう。驚いたように目を見張っていた。



「しずく!?なんで今日ログインしてるの!?」

『えっ…』


 夏葉の問いかけは予想外だったのだろう。しずくは驚いた表情のまま固まっている。


「今日は彼氏と一緒に彗星見に行くんだ、って先週張り切ってたじゃん!」

『あっ、うん…ちょっと色々あって、ね…』


 この状況で何の関係もない質問をあびせる夏葉に、頭を抱えるしかない清雅だった。






「地震の後、鏡を見たら顔が変わっていた。それで怖くなって、オンラインだった夏葉にコールをかけた、か。」


 夏葉を黙らせ、コールをかけてきた事情を聞いた清雅が、情報をまとめる。


「他に誰かにかけてないのか?」

『誰にもかけてないよ。てか今オンラインになってるフレンド、夏葉と清雅君だけだもん。私友達少ないし…』


 少し寂しそうにそう言って俯くしずくに、清雅は少し申し訳なさそうに縮こまる。


「清雅も誰かフレンドいないの?」


 夏葉に言われて、清雅も自分の端末を確認する。

 自分も今は、フレンドがかなり少ない。確認はすぐに終わった。


「俺のフレンドで今オンラインなのは、二人以外だとカズとリングさんだけだな。」


 二人に結果を報告すると、しずくが不思議そうな顔をして聞いてきた。


『清雅君ってトラ&アドじゃけっこう有名人、だよね…?オンラインのフレンド二人だけって少な過ぎない?』

「あー、しずく、清雅はね、思ったほどフレンドいないよ?たぶんしずくより少ないんじゃない?」

『えっ、でも去年まではヤマト第2騎士団の参謀だったし、第二次大陸戦争のときは英雄って呼ばれたんでしょ?』

「うーん、まぁそうなんだけど、そのへんにしといてあげて?」


 夏葉の言葉にしずくが清雅の方を見ると、清雅が嫌そうに目を反らした。


『あっ…えっと…私なんかまずいこと言っちゃった…?』


 急に不機嫌になった清雅を見て、何か地雷を踏んだのかとしずくが焦る。


「大丈夫よ。ほっとけばすぐに直るわ。」


 焦るしずくを夏葉がそう言って落ち着かせる。


「しずくは事情知らないんだから、清雅もあんまり怒んないであげて。

 それで、カズ君はわかるけど、リングさんって誰なの?」


 夏葉がまだ不機嫌な清雅にたずねる。


「俺をスカウトした第2騎士団元団長。」


 清雅が少しぶっきらぼうに答える。


「あー、あの団長さんってリングって名前なんだ。でもあの人って日本人だよね?プレイヤー登録って実名じゃないとダメじゃなかった?」

「あぁ、自分の名前が嫌いだから通称として普及させたいらしい。呼んでる人ほとんどいないけどな。」

「ふーん。そうなんだ。」


 夏葉と清雅がそんなことを話していると、しずくが恐る恐るたずねた。


『あの…リングさんがすごい人ってのはわかったけど、もう一人のカズって人は…?』

「あー、そういえばしずくはまだ会ったことないんだっけ?私と清雅の後輩の子。今は第2騎士団に入ってるはず。」

「この前の騒動のおかげで今度、第1への昇格試験受けるって言ってたぞ。」


 しずくに二人が説明する。



「じゃあとりあえず、俺のほうもコールかけてみるか?」


 清雅の言葉にしずくが首を振った。


『どっちにしろ、後3分で今日のオープン時間は終わりでしょ?システムトラブルだと思うし、全員ログアウトさせてから、運営からのお詫びとかあるんじゃない?』


 しずくの言葉に二人も時計を見上げる。


「あっ、もうこんな時間なんだ。じゃあログアウトの準備しちゃおうか。

 しずく。一旦切るね?戻ったらリアルで電話するよ。」

『うん、わかった。待ってるね。

 清雅君はどうする?』

「俺は戻ってカズやリングさんと少し話したら寝るよ。」

『そっか。じゃあ、おやすみなさい。週末またポーション買いに行くよ。』

「毎度どうも。それじゃおやすみなさい。」

「じゃあしずくまたあとでね。」


 夏葉が通話を切る。


「さて、じゃあ早く寝ないと。

 清雅?いつもの部屋使っていいよね?」

「あぁ、いいよ。」


 清雅が暖炉の火を魔法で消しながら答えると、夏葉は「じゃあ、おやすみ~」と言って、奥の階段をあがって行った。

 鍵閉めの魔法で、全ての棚を一瞬で戸締まりして、部屋の明かりを落とした清雅も、ランプ片手に急いで階段を上り、自室に入る。端末の時計は12時まであと1分だ。そのままベッドへ直行し横になる。これでログアウトの準備は終わりだ。清雅はそっと目を瞑りログアウト処理が始まるのを待つ。




 トラベル&アドベンチャーは、ログイン時間が制限されるタイプのゲームだ。全感覚カットオフ、さらにリアリティーを追及したグラフィックで膨大な通信量が必要となるゲームは、脳への負担も少なくない。そのため、政府の法令で、こういったゲームは、ログイン時間を1日最大6時間までと定められている。そして、トラベル&アドベンチャーは、この6時間にゲーム内での24時間を圧縮している。このため毎日、ゲーム内時間で夜中の0時ちょうどが区切りとなり、ログイン中のプレイヤーは自動ログアウトされることとなる。

 なお、このログイン可能時間は、プレイヤーごとに計測するのではなく、ゲームそのものが1日のうち6時間しかオープンしない、という仕組みになっている。この稼働時間は日替わりで、毎月1日に翌月の稼働時間が発表される仕組みだ。なんでも、サーバー負荷が大きかったり、運営への問い合わせ対応なんかを24時間するのは無理!ってことらしい。余談ではあるが、この他に、毎月31日は大規模アップデートとして、マップ拡張やAI更新、新魔法実装、各所修正などが行われるようになっている。そのためゲーム内は、1年が現実より7日短い。

 また、ログアウトの際は、ゲーム内で1分ほど自分の体に一切力が入らなくなる。そのため、立ったままログアウトすればその場に倒れる羽目になるし、椅子に座っててもバランスが悪ければ転げ落ちる。さらに、座ってテーブルに突っ伏したとしても、そのまま寝たと判定されて、次のログイン時は体が若干痺れる、という無駄な運営の拘りがあったりする。このため、ログアウトの際は、ベッドや寝袋で横になるのがベストとされている。

 ちなみに、このログアウト中の力の入らない体には、他人が触ることはできない。ハラスメント防止は大事なのだ。





 夏葉もログアウト準備を終えたのだろう。隣の部屋からは物音もしない。0時ちょうどまであと30秒ほど。だが、清雅は何か嫌な予感がしていた。それは目が覚めてからずっと感じていた、妙な現実感。

  そして、嫌な予感ほどよく当たる。



 ポーン、ポーン、ポーン、ポーン…



 階下から、0時ちょうどを告げる鐘の音が聞こえてくる。だが、普段は鐘の音と同時に始まるログアウト処理が始まる気配を見せない。


 おかしい…

 清雅は自身の腕を持ち上げてみる。何の抵抗もなく、腕は持ち上がった。まるで、それが当たり前のことであるかのように…

 そのまま15秒程待つが何も変わらない。無力感が襲ってくる気配も一向に感じない。

 どうしようもないので、とりあえず起き上がってみる。違和感は、ない。しかし、違和感がないというのが逆に、違和感を感じさせた。ゲーム内だったらいつもどこかで、必ず違和感を感じる。空気の流れ、布団の肌触り、風で家が軋む音。ゲームでの再現はどれも限界があり、現実世界と微妙に違う感覚に、プレイヤーはいつもどこかしら違和感を感じていた。


 そう、今、感じている全てがゲーム内の感覚ではない。まるで現実に戻ったかのような感覚だった。


 ベッドから降りて窓の側へ行く。敷かれた絨毯を踏む感覚が、やけにしっかり体に伝わってくる。

 窓のロックを外す。やけにロックが固い。いつもなら何の抵抗もなく開くのに。蝶番の擦れる音と共に窓が開く。

 外から吹き込んでくる雪交じりの風は、肌を刺すようにつめたく、そして新鮮だった。

 あまりのリアルさに怖くなって、急いで窓を閉める。バタンと思ったより大きな音がした。




 ガチャッ




 部屋の扉が突然開く。

 顔を向ければ、夏葉が怯えた顔でこちらを見ていた。




「清雅………どうなってるの…?………なんでログアウトが………」




 恐る恐るたずねてくる夏葉に、清雅も何と言えばよいのかわからなかった。





ということで第2話です。

ゲーム設定は小出しにしていくスタイル。


設定ページとか作ったほうがいいんかなこれ…?



次回は調子良ければ24日に投稿します~


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