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第九十二話 求める力

 イドンの街の新居では夕飯に向けての準備が始まろうとしていた時のこと。


ユウキ「カラル、あたしと勝負して!」


カラル「構わないけど、急にどうしたの?」


ルーミエ「え?いいの?じゃあ私も!」


カラル「もちろん。全力でいくから、怪我はさせないわ」


レイラ「変な言い回しね?どういうことなのか、ちょっと見学させてもらおっかな……」


ルーミエ「得物は木刀でいいかしら?」


カラル「真剣でもなんでもよくってよ。それに二人同時でも構わないわ」


ユウキ「ぐぬぬぬぬ……なんたる屈辱」


 準備を中断して、全員で庭に出る。


カラル「レイラは開始の合図をお願いね」


ルーミエ「カラルは武器を持たないの?」


カラル「ええ、必要ありませんわ」


レイラ「……それじゃみんな準備はいいわね!……始め!!」


 ユウキとルーミエは同時にカラルに突っ込んでいき、それぞれ頭部と胴体を目がけて切りつける。しかし切ったのはカラルの残像だった。


 カラルはすでにルーミエの後ろに立ち、ルーミエの豊満な胸を揉みながら、首筋を舐め上げる。


ルーミエ「あぁん……」


カラル「うふふ、柔らかくて、それに良い香りですわね」


ユウキ「スキあり」


 ルーミエに当たらないように木刀を振り下ろすが、空振りに終わる。ユウキの後ろに移動したカラルはルーミエと同じように胸を揉み、首を甘噛みする。勝負はほんの数秒で決してしまった。


ユウキ「うぅん…」


カラル「いかがかしら?」


ルーミエ「まるで歯が立たない……子供扱いされている感じね」


カラル「馬鹿にしているわけじゃないのよ、それくらいの戦闘能力の違いがあることを知ってもらいたかったの」


ユウキ「うん、全力だからこそ、あたしたちが怪我をしないのね……」


カラル「それじゃあ、もう一つおまけね」


 アイテムボックスから剣を出し、ルーミエに渡す。


カラル「ルーミエ、これは何製の剣かわかるかしら」


ルーミエ「ミスリルよね」


カラル「正解。じゃあ構えててね」


 カラルは魂宿剣こんしゅくけんを出し、青黒い鈍く光るその刃を、ルーミエの構えたミスリルの剣に横からゆっくりとあてると、抵抗なく剣に切り込みが入り、そのまますっぱりと切れてしまう。


「「「!!!!」」」


カラル「これがわらわの武器よ」


レイラ「何その切れ味!」


ルーミエ「ねえ、カラル。悪魔族ってみんなそんなに強いの?」


カラル「好んで修行すれば強くなるし、そのままでも充分に強いので修業をしない悪魔もいるわ」


ユウキ「前にアキトが言っていたけど、アキトよりも強いって本当なの?」


カラル「あらあら、どうしたの二人とも。急にわらわに興味持っちゃって?」


ユウキ「……さっきアキトがエソルタ島のことでどうしたいか、考えておいてって言ってたじゃない?それでルーミエとも話したんだけどね」


カラル「うんうん」


ルーミエ「私たちは王族だったけど、今更表立ってできる事なんてないと思うの。それで陰からでもあの島の人たちのことを支えたいと思った時に私たちに必要なものが”力”だったの……」


カラル「それは、アキト様が担当するから大丈夫なのでは?」


ユウキ「ううん、それじゃダメなの」


レイラ「頼ることも大事だけど、二人ができることを探したいんだよね」


ルーミエ「そうなの。ダンジョンを踏破して、稼いだお金で復興の支援をしたり」


ユウキ「金銭面だけじゃなくて、建物を建てたり、畑を耕したり、島に傭兵を派兵して警備してもらったり。そういうところでできる限りのことをしていきたいって思ったの」


カラル「それでわらわの強さについて興味を持ったのね。……さっきのアキト様より強いか?って質問だったわね。

 初めて決闘を申し込んだときに、一勝一敗の引き分けで終わったのだけれど、アキト様はわらわの方が強いと思われたみたいね。

 わらわにとってはアキト様の潜在能力の方が脅威だったわ。あれからそんなに経っていないけれどすでにアキト様はわらわでは太刀打ちできない程、強くなられましたよ」


レイラ「普段はぼーっとしているけど、戦闘のことになると別人のようね」


カラル「アキト様に出会えてつがいとして契約できたことはとても幸運だったわ」


ルーミエ「悪魔族でいう結婚?みたいなものなのかしら?つがいになることで何かいいことがあるの?」


カラル「そうよ。一番のメリットは”強さ”共有できることかな……」


ユウキ「え!?何それ?どちらかが強くなったら、もう一人も強くなれるの?」


カラル「簡単に言えばそうなるわね」


ユウキ「いいなぁ、あたしもアキトと”強さ”を共有したい!」


ルーミエ「私も!!」


カラル「話の流れでいえばそうなるわよね。レイラは?」


レイラ「そうね、アキトやみんながいないときに自分の身を自分で守れるだけの強さはほしいかな。でもこの体では修行なんか当然無理だし……」


カラル「……できなくは無いのよ。ただ儀式みたいなのがあってね。もちろんアキト様の協力は不可欠なんだけれど……。戻ってきたら頼んでみようか?」


ユウキ・ルーミエ「「おねがいします!!」」


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