第九十話 あっちの世界で見たものは
キンガーニのはるか上空より、街を占拠していた魔人二体をはじめ、モンスターをすべて倒した。
風呂に入りながら、街を奪い返す——我ながらまったくでたらめな力を得たものだな。体をタオルでふき、服を着た。先に着替えを終えて、女子高生くらいの体型からいつものグラマラスなスタイルに戻ったカラルが俺の労をねぎらってくれた。
「お疲れ様でした。これからどうなさるおつもりですか?」
そうだな……脅威となるものはもうない。すべてを倒してしまおう。
「まずは捕虜になっていたキンガーニの人たちを開放する」
極私的絶対王国でホール集められていた人たちを観察する。
特に手足を拘束されていないので、人々は協力し合いながら恐る恐るホールの外の様子をうかがい、安全を確認しつつ街の中へと活動範囲を広げているようだった。
ふいにカラルが俺の手を握ってつぶやいた。
「あら、皆さんすでに自由に動きだしているようね」
「極私的絶対王国は展開するときにくっついていないと魔法を共有できないって言ってなかったっけ?」
「そのように思っていたのですが、情報を読み取るだけなら、後からでも触れるだけで共有できるようなの」
細かい仕様だな。その場合ダンジョンコアは生成できないということだそうだ。
「自由に動き回れる元気もあるようだし、勝手に食糧調達してもらおうか……じゃあメッセージだけ伝えよう」
極私的絶対王国で音声だけを街に届けることにする。
『……聞け、キンガーニに住む者たちよ!』
動き回っていた人たちの動きが止まり、俺の声に耳を傾ける。
『この街は解放された』そう伝えると歓声が上がった。
『しかし喜ぶのはまだ早い、これからエソルタ島全土を占拠しているモンスターをすべて排除する予定だがまだ時間はかかる』
喜びも束の間、静まり返る。
『それまでの間、協力し合い、この状況を生き延びることをお前たちの課題とする。以上!』
俺による天の声で人々は混乱しながらも解放されたことを実感し、安堵しているようだ。街の中から使えそうなものを集め、リーダーやそれぞれの役割を決めているようだ。
その様子を俺たちは戦術管制のパネルを見ながら、昼飯を食べた。
「なかなかに良い状況ね」とカラルが呟いた。
続いて、地脈エネルギーを魔人の世界に送っている魔法陣を閉じておこうか。
カラルと手を繋ぎ極私的絶対王国を展開。範囲を広げ魔法陣を展開している場所まで伸ばす。そこには魔人はおらず、空間魔法士が十名と、モンスターが百体ほどうろうろしていた。
これなら、”絶命”を命じるだけでここは片付きそうだな。
「じゃあ、倒してしまうから回収よろしく」
「かしこまりました」
数分で魔法陣付近のモンスターを絶滅させた。
魔人を倒す方法に目処もついたし、異世界へ地脈の力を供給していた魔法陣を閉じることができた。ほっとしたのか力が抜けてきた。
「いったんイドンに戻ってみんなと合流するか……」
「はい」
通信指輪でレイラに呼びかける。
「レイラ、聞こえる?」
「……どうしたの?アキト」
「これからイドンに戻る」
「うん。新居で待っているね」
転移魔法陣を展開する。行先は初めて魔人に遭遇した世界のデネパを経由してそこからイドンに戻る。
入る前に低速のクロックアップを発動して、転移魔法陣に入っていく。前回デネパに来たときは魔人に強襲されたときの教訓だ。
ずずっと進むと赤黒い大地はいつもどおりだ。見渡す限り何もない荒野。魔人の待ち伏せもなく、くぐり抜けた転移魔法陣を閉じる。続いてイドンへの転移魔法陣を展開する。
あとは魔法陣を通って帰るだけなのだが、ふと気になったので広範囲への領域を展開してみた。付近一帯には魔人の存在はなく、モンスターがちらほらといる程度だった。それを上空も十キロに延ばしてみる。
おお、マジか……。
ここから三十キロ先の地上から三キロ上空に空に浮いた島が存在している。カラルが俺に触れる。……同じ映像が見えたのだろう。
「すごいわ、空に浮かぶなんて……」
「そうだな、もっともっと強くなれたらあの島にもいけるかもしれないな」
「ええ……いつかいこうね、アキト様!」と、いつになく力強くアピールしてきた。
ここで遭遇した魔人はあそこから来ていたのかな。そう思いながら転移魔法陣を抜けイドンの街に戻った。




