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第七十七話 魅了

 俺の手を引くクレア、ホールの扉から廊下に出ると、ゾーンことゾンヌフ組と俺たちは別々の部屋に案内される。扉を閉めて、俺とクレアは二人きりになってしまった。


 こうなってしまうとやることは一つなんだが、まったく俺はその気がなくなってしまった。確かに仮面舞踏会の雰囲気はとても楽しいし、先ほどのテーブルでの会話なんかも刺激的であったが、かといってこの場を何もせずに立ち去ってしまうことはありえない……。


 カラルの言葉が脳裏をよぎるとともに、仮面を作ってくれたことや宝具ストレージのアイテムを紹介してくれたことを思い出す。


……幻惑のイヤリングだ。効果は相手に念じた幻惑を見せること。教えてもらった時はどうやってつかうか少し考えた結果、相手を魅了する時に使うものばかりだと思っていたが使うなら、今でしょ!


 部屋に入ってから数秒だったが、すぐにイヤリングを付ける。クレアはその行動に対して別段と不思議に思っていないようだ。俺の手を引きよせ、自ら体を押し付けてキスをしてきた。仮面がぶつかるがお構いなしだった。


 イヤリングに魔力を注入する。イメージするのはもちろんアレを楽しむ2人だ。


 イメージ!イメージするんだ俺……。


 唇を離すとクレアは遠くを見ていてボーとして幻術にかかっている状態だった。ベッドに寝かせて、とりあえずその綺麗な肢体を眺め、前戯の愛撫をするイメージを流し込む。少し体をよじらせて、気持ちよさそうな声を漏らすクレア。


 俺はソファに座り、横になっているクレアにイメージを流し続けることおよそ四十分……。びくびくっとしたあと、ぐったりとした感じで大変満足してもらえたような様子だった。終始服を着たままだったが、事細かに仮面の付け直しや、服を着なおしているところまでイメージを流し込んでおいた。


 ふと我に返る。一体何をやってるんだろうか……。


そろって部屋をでたが、クレアはこのまま帰るようで「いずれまたどこかで……」と言って帰っていった。


 ふぅ……と一息ついたところで、後ろから声がかかった。


「よう!色男うまくいったか?」


 ゾンヌフが手洗いから出てきたところだった。


「ま、まぁな、そっちはどうだった?」


「俺の方は美人だったがあっちがはずれだったかな、ルゴーの方が当たりだったらいいんだけどな。さて、このあと奴も戻ってくるはずだ、会場に戻ろうぜ」


「まだ、同じことを続けるのか?」

 

「いや、あとは終了まで雰囲気を楽しむだけだ」


 二人で会場に戻るが、先ほどのスペースではなく、狭めのソファスペースが用意された。


 ここに来て二時間ほどだが目まぐるしく変化する環境にただただ流され続けた俺だった。まあこういうことも人生一回くらいは経験しておいて損はないな。


「なかなか楽しかった、いい経験させてもらったよ」


「そうかそれはよかった。俺もこれでお役御免だ。もっともこの後ルゴーとの反省会もあるのだが、一緒に来るか?」


 顔を近づけて俺は小声で伝える。


「いいや、皇帝なんだろ遠慮しておくよ」


「ははっ、だろうな……」


 俺はどうしてこんなことをするのか不思議に思って素直に聞いてみた。皇帝ならば女性なんかは選び放題なのに……。


「ジーン、世の中そんなに甘くないんだよ……・」


 世継ぎ問題などを考慮して、いろいろとお見合いが組まれているが、めぼしい良い相手もいない中、いろいろつまみ食いするわけにもいかないそうだ。


「今日のあの女の子は仕込みなのか?」


「いや、ここにきて捕まえた娘たちだ。お前のくれたこの仮面のおかげで、選びたい放題だったぞ」


「役に立て何よりだよ」


 そんな俺たちに後ろから声がかかる。


「なんだお前ら、男二人でやけに楽しげじゃないか」


「ルゴー、ご帰還お待ちしておりました」


「うん、良かったぞ」


「それは何よりでございます」


「まあまあ、ここにいる間は楽にしてくれ」


 緊張している俺は何を問いかけていいのか思案していたが、そんな中二人は今日の反省会を始めた、あれだけ完璧なことの運びだったにもかかわらず、反省することがあるのか?どこまでお遊びを極めるつもりだよ。大丈夫か!?この国は?


 そんなやり取りを温かく見守りつつ、シャンパンを飲んでいた俺だったのだが、入口の扉がを普通に開かれ、それが何故か若干スローモーション映像のように遅くに感じる。


 そして俺はそのドアの向こうに視線がくぎ付けになってしまった。


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