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第七十六話 戸惑い

 静だがアップテンポな曲調。会場内は二百人以上いる人の熱気……。踊りながら密着する仮面の男女。仮面舞踏会とはいうものの踊っているのはごく少数だ。大勢はお酒をのみ、つまみを口に運びながら談笑している。


 昼間だというのにカーテンが閉め切られて、間接照明で室内は妖しい雰囲気に包まれる。


 俺はキョロキョロしながら、人の波の中を進む。すれ違う人全てがこちらを見ているかのように感じる……。完全に熱気にあてられてしまったようでグラスの飲み物を一気に飲み干す。


 そんな俺に声を掛ける女性が現れた。


 フレアスカートはひざ上で短めで足がすらりと長く、チューブトップは胸の部分を隠し、肩とおへそは丸出しの大胆なファッションの女性が立ちはだかる。


「ごきげんよう」


「ああ、どうも……。楽しんでる?」


 何を話せばいいんだろうか?


「……ふふふ、まだ、なんとも……お一人?」


 俺の肩に手を回してくる。


「そうだよ」


 栗色のつやつやしたロングの髪の毛、日によく焼けていて小麦色の健康的な肌、仮面の奥からのぞく瞳は深い青色だ。仮面をしているとみんな美人に見えるから不思議なものだな……。


 どうしようか……。ゾンヌフの居場所もわからないし、この娘と話をしてしばらく時間をつぶすか……。


「その服とても魅力的だね」とりあえず服を褒める。


「ありがとう。ねぇ、どこかに座って話さない?」


 彼女は俺の手を引いて、空いているソファへ誘う。積極的な娘だなぁ。


 歩いていくとふいに柱の陰から声がかかる。


「よう、ジーン探したぜ、来ないかと思ったぞ!」


「ゾン……」名前を呼ぼうとしたら止められた。


「ゾーンだよ!」


 偽名ね。そうだった。宰相だってばれちゃまずいよな。2人の女の子の手を繋ぎ、どこかに連れて行こうとしているのか?


「お知り合い?」


 俺の手を引いている女性が聞いてくる。


「ああ、今日誘ってくれたゾーンだ」


 女性は軽く会釈をする。


「初めまして……」


「初めましてお嬢さん。ジーンよ、麗しいお方を連れているな。さあこっちへ来てくれ。紹介したい奴もいるんだ」


 よかった。なんとか合流できた。ゾンヌフ。いやここではゾーンか……。彼を先頭にフロアの端にあるソファ席に向かう。


 そこには一人の仮面の男がいて身なりが明らかに豪華だ。あれが皇帝か……一国の頂点がいるって思うとちょっと緊張しちゃうな。


仮面の下の素顔がわからないが、こんな時のための分析能力だ。


◇ ◇ ◇

エルゴード レベル23 魔法使い 180センチ  体重 80キログラム 28歳 カガモン帝国皇帝

◇ ◇ ◇


 皇帝も宰相と同様に若い!そして肩あたりに浮かぶ文字が”楽”、”欲”、”快”と表示されていて、とても楽しんでいるようだ。


「よう、ルゴー待たせたな」


 あ、やっぱりそんな感じで名前を誤魔化すんだ。三人がけのソファにゾンヌフは横に連れてきた女の子二人を皇帝の両側に座らせ、もう一つのソファに俺を誘ってくれた娘の両脇に俺とゾンヌフが座った。


「それじゃあ、自己紹介と行こうか……俺は……」


 そういってゾンヌフは仮の名前だけを名乗った。皇帝の右隣の女の子はマリー、皇帝はルゴーと、皇帝の左隣の女の子カスミ、俺の隣の女の子はクレアと名乗り、最後に俺の仮の名前、ジーンを名乗った。


 紹介中にもゾンヌフは手を上げ、ウェイトレスを呼び、飲み物を手配する。さすがにこの席は特別扱いなのだろう。俺の名を名乗った後にちょうど飲み物が運ばれてくる。


「それでは今日の出会いに乾杯!!」


 ゾンヌフがそういって男女合わせて六名がグラスを上げる。


「「「「「乾杯!」」」」」


みんなでグラスを合わせる。


 どんな話をするのかと思ったら、それはすさまじいゾンヌフのアシストで皇帝であるルゴーを盛り上げる話を連発する。その間にも俺とクレアにも気を配り、さらに場を盛り上げる。


 完全にここは彼の支配下だ。


 女性たちも楽しそうに笑っている。分析能力で見ても”楽”、”愉快”、”興味”と浮かんでいて心底楽しんでいる様子だ。ゾンヌフが輝いて見える……。”魅力”+10の仮面の威力なのか?いや……これが奴の力量なのだろう。


 三十分ほど経過した頃、女性たちによるボディタッチも増えてきて皇帝もご満悦だ。


 皇帝がカスミに抱きついた。「キャー」とか言っているけど、あれはまんざらでもないのか?嫌がっていない……す……すごいよゾンヌフさん!


 なんという話術なのか?場の雰囲気を完全に楽しい方向から、少しエロ方面に向かっている。


 これがカガモン帝国トップによるお遊びの真の力なのか……。


 どうやら、皇帝はカスミが気に入ったようで、ボディタッチが太ももや胸に何度も行われている。ゾンヌフはマリーを相手にしはじめていて、俺はクレアと少し前から手をにぎにぎしている。三対三のチーム戦から個人戦に切り替わった。


 皇帝がカスミと手を繋ぎ二人して立ち上がりこのフロアから出ていく。女性に見えないところでゾンヌフと皇帝との間でハンドサインが交換された。


 なんだよ、あいつら……かっこいいじゃねぇか。


 この後あの二人はどうなっちゃうの?と思うほど俺は子供でもない。アレを楽しむための部屋が向こうには用意されているのだろう。


 俺もそういうことになるのか?クレアの仮面の奥の目がトローンとしているようにも思える。こんなに簡単に落とせてしまうなんて思わなかった。こ……これはいけてしまうのか?いや別に俺はそんなにアレをしたくないぞ……。


 あぁ!ゾンヌフもマリーと席を立った。同時にクレアが俺の手を引いている。


 それを嫌がるのも男としてどうなんだろうか……。二組のカップルはフロアをでると係りの者に空き部屋にそれぞれ分かれて案内をされた。


俺の脳裏に「オイタもほどほどにね……」と、昨日のカラルの言葉がよぎった。

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