第六話 街に戻るまで
エスタの街を囲む外壁が見えてきた。楽しかった彼女たちとの会話もここまでだ。少し残念な気持ちになる。
ユウキが俺の今後のことを尋ねる。
さて、どう答えたものか……。 冒険者は冒険する意味を自分で決める——。神父はそう言っていたよな。
この世界で自由に生きていけるのであれば、俺はこの世界をもっと楽しみたい。冒険者は命がけで大変なことも多いが、チートスキルを駆使して自由に生きることはとても楽しいことだろう。
毎日が冒険で、困っている人たちを助けたり、おいしいものを食べたり、きれいな景色を見て見て過ごしたいし、もちろん彼女たちのような、かわいい子たちとも仲良くなりたい。
「……俺は一度、死んでしまってから記憶が曖昧で、自分が何者かがわかっていない。それに冒険者として何か目的を持っていたのかもしれないが、今は全く思い出せないんだ」
とりあえず今は自分が何者かが分かっていない、蘇り後の混乱している冒険者の振りをするしかなかった。
ハーピーとの戦闘のあと、ずっと黙っていたルーミエが口を開いた。
「仲間はいないの?」
「いない……と思う」
「そうなのね。……いろいろと試すようなことをして、悪かったわね。もし、あなたがよかったらだけど、私たちの仲間になってくれないかしら?」
思いがけない言葉に戸惑うが、こんなに素敵な女の子たちの仲間になる話を断る理由はないので素直に受け入れる。
「……ありがとう。お言葉に甘えてそうさせてもらうよ。よろしく」
そう伝えるとルーミエは笑顔で喜んでくれた。
「あたしたちは、竜の鱗亭に宿をとっているんだよ、アキトはどうしているの?」
いきなり一緒の宿で共同生活を開始する必要もないだろう。
「今日は教会でお世話になる予定だ」
「そっか、じゃあまた明日だね。朝にギルドで待ち合わせをしよう」
「わかった。また明日な」
そう言って俺たちは別れた。
□
教会に向かって歩く足取りは軽やかだ。
かわいい女の子たちの仲間に加えてもらった。いきなり夕食を一緒にするのもがっつきすぎだろう。ゆっくり仲良くなっていければ、それでいい。そんなことを考えながら歩いていると、晩御飯を知らせる鐘がなったので教会に急ぐ。
着くと食事が始まっていて、食堂の方が賑やかな雰囲気となっていた。入り口で銀貨五枚を支払う。宿泊するための簡単な説明を聞いて番号の書いてある部屋の鍵とトレイを受け取り、スープ、パン、肉と野菜の炒め物が順にのせられていく。
空いている席に着き周りを見渡す。男女合わせて十五人ほどが食事をとっていた。みんな教会で今日復活した人ばかりなのだろう。食べながら、近くの冒険者たちの話に耳を傾ける。
「エスタ北部にある地下迷宮四階の隠し宝物庫でレイスに囲まれちゃってさぁ……。だいたいあいつらはさぁ——」
「私は魔境の入り口あたりでワイバーンの大群に遭遇して消し炭だよ」
「俺もだ。ドラゴンブレスの一発で盾なんか一瞬でふっとんじまって、教会に戻ったときは素っ裸で大恥かいたよ」
これには笑って、食べているものを吹き出しそうになった。
聖堂の祭壇の上に素っ裸で復活したのを想像してみる。確かにそれは恥ずかしい。ドラゴンブレスは要注意だな……。
みんな様々な場所で殺された話で盛り上がっている。何度か復活できるから気軽でいいな。
復活する場所は縁のある教会だって門番のおっちゃんが言っていたな。パーティー内では死に別れた時を想定して、仲間との落ち合う場所を決めておくそうで、俺を除く者は準備を整えて、合流に向けて旅立つそうだ。
この世界には魔境やダンジョンが数多く存在し、冒険者たちは一獲千金を目指して挑戦している。みんな表情もいきいきして楽しそうだな。
死んでしまうと手に持っていた武器や、身につけている接触面積の小さい物は落としてしまう可能性が高いそうだ。失った武器のことを憂いている者や、ある時の冒険譚を話す者がそれぞれの思いを語る。教会なので酒は提供されていないが、みんなテンションが高い。
なんだろう、この光景。どこかでみたことあるな。
既視感……。あぁ、そうか、RPGやネットゲームを友達と一緒にプレーしたり、話し合ったりして、楽しさを共有するあの感覚だ。
みんな間違いなくこの世界を楽しんでいる。ひょっとして前世は俺と同じで地球から来ているのかな?
「この世界に来る前は何をしてた?」と、俺は誰に聞くでもなく 問いかけてみた。
みんなはこの街に来る前のこと勘違いしたようで、すぐに違う話題に切り替わってしまった。うーん、俺のような転生者はいないのかな……。
食堂での冒険自慢大会もお開きとなり、中庭でさらに語り合う者たちもいたが、俺は部屋に戻って休むことにした。
ベッドで横になり、充実した異世界の記念すべき初日を振り返り、風呂に入りたいなぁと思いながら、眠りについた。