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第五十七話 始まりの物語

~~ ルーミエ視点 ~~


 故郷を追われ、自身に問い続ける……。


 いったい私たちが何をしたのというのだろうか?国を失うほどの罰を受けるようなことをしてしまったのだろうか?広大な大地を持つ国が魔族によって亡びるとは一体どういうことなのか?なぜ異世界からの襲撃はあるのか?


 いくら考えてもその答えはわからない……。


 そして私は母が残した最後の言葉。「あなただけでも幸せになりなさい」という、その言葉の意味をいつも考えるようになった……。


 海を渡り、臣下の者たちとも別れ、ユウキと二人きりになってしまった。


 親交のある近隣の国にお世話になることも考えたが、その国にエソルタ島のことを伝えて、海を渡って戦地に向かうことで多大な損害を与えてしまうのは目に見えている。ギルド間での通信で戦況は伝わっているはずなので、今更私たち二人が表立って増援を求めても無駄な被害がでることは目に見えている。


 それにそこまでの気力は残っていなかった。


 これからどうやって生きていけばいいのか迷っていた私たちは、神託をくれた遠夜見とおよみの巫女を訪ね、これからのことを相談しようとユウキに話すと賛成してくれた。


 そして冒険者として生計を立てつつ、遠い道のりを半年以上かけてスデン王国のカムラドネにやってきた。


 不自然なくらい背の高い塔を見上げながら、街に入り巫女の屋敷に向かった。


 屋敷の入り口で護衛の人に経緯を説明して、屋敷の中に通してもらった。案内してくれたのは見習いだったノイリさんだった。


 通された応接室で待っていた遠夜見とおよみの巫女と呼ばれる女性はとても若く、女性からみてもとても美しかった。


 巫女と呼ばれる職業は長年の修業が必要とされるものだと思い込んでいたが、実際はそうではないらしい。巫女は優しく微笑んで、私たちに挨拶をした。


「初めまして、ルーミエさん、ユウキさん。遠夜見とおよみの巫女のレイラです。遠いところよく来てくれたね」


「初めまして、巫女様。それに唐突にお邪魔して申し訳ないです。私たちは……」


 私たちの自己紹介とカノユール王国の襲撃から島を出るまでの話を温かい眼差しで、頷きながら聞いていた。


「カノユール王国もイメノア王国も防げなかったのは聞いていたけれど、そういう経緯だったのね……」


 私は力なく頷く。そして私たち二人が何を目的に生きていけば良いのかを相談する。


「……話はわかったよ。これからどうやって生きていくか迷っているのね。アドバイスできればいいのだけれど、私は神託以外のことでは全く役には立てないかもしれないな。それに実は私も生きるって何だろうって考えているところなの……」


「でも、巫女様のお仕事が……」


「”遠夜見とおよみの巫女は運命で決まる”ってね。知ってた?遠夜見の巫女は修業を必要としない珍しい巫女なんだよ」


「そうなんですね」と、答えたあとに運命って一体何なのかしらと考える?


「未来に起こる厄災の状況が頭の中に浮かび上がってくるの。それに自分自身の死についてもわかってしまう、本当に残酷な職業だよね……。先代が四歳の私を次の巫女として神託を通して見つけたのよ。そのあと先代は寿命で亡くなり、私は七歳で巫女となった。そして今も神託を受けて、次の巫女となるノイリを見つけたわ」


 一瞬、私はそのつながりを理解することができなかった。


「それはつまり——」


「うん、そんなに長くは生きることができないってことだよ。原因はね、街の外に大きな塔が立っていたのを見たでしょ」


「ええ、あれは一体?」


「カムラドネの悪魔の塔だよ。……あの塔は双子の悪魔が巫女の能力を奪う権利を賭けて作り始めたの。双子の悪魔は地上と地下とに分かれて、冒険者を呼び寄せ、その魂を吸い取りながら、塔を大きくしていっているのよ。そしてどちらかが百層に到達すると、能力を奪いに来て私は死んでしまうわ……」


 そんな運命があるのだろうか。まだ若いのに死を宣告されてしまうなんてどれほど辛いことなのだろう……。


「双子の悪魔を倒す方法はないのですか?」


「いろんな国の兵隊さんが来て挑んでいるんだけど。途中で死んじゃって逆に塔を大きくしてしまって、私のために戦ってもらっているのだけれど、ちょっと困ってるんだよね。……どれだけ強い傭兵、冒険者でも無理じゃないかな。まだ攻略の糸口はつかめてないようなの……」


「それでは、死を待つ以外に方法はないのですか?……私は運命に抗いたい。故郷は運命に定められたまま滅び、私は何もできなかったけれど、巫女様にはそんな思いをしてほしくない。

 どこか遠くへ逃げるとか、何か方法がきっとあるはず。私に何かできることはありませんか?」


 故郷のことを重ね合わせて胸が熱くなってしまった。


 巫女は穏やかな表情で語りだす。


「ありがとう、優しいんだねルーミエさん……。この絶望的な状況でも逃れられる方法はあると思っているのよ。

 今日ここにルーミエさんとユウキさんが来てくれたのも運命なのかしら……、これはノイリにもまだ言っていないことなんだけれど——」


 そう言って、巫女は立ち上がり机の引き出しから一冊の本を持ってきた。


「この神託は昨日の夜に告げられたものよ」


 栞を挟んだページを開いて読む。


「”東の果てに降り立つ彼のもの。あらゆる厄災を振り払い、異質な力をもって悪を打ち破るものなり”……もう少し続きがあるけれど、意味は分かるかな?」


「はい、あらゆる厄災を払いのける人が、東の果てに降り立つ……ということでしょうか?」


「うん、この神託はこれまでのとは全然違うの。もしかしたらあらゆる厄災に私のことも含まれているのかもしれないって思えるの!」


 巫女の表情が明るくなる。


「それでね、初対面の人に頼む事じゃないのかもしれないのだけれど……。探してきてくれないかな……その人」


 唐突に話が展開して、私たちは混乱したが、それでも冒険者として生きていこうと決めていたし、この巫女の役に立ちたいと思って即答した。


「巫女様のお役に立つのであれば探しに行きましょう」


「ん?……えぇええ!即答?大丈夫?全然情報ないよ?どうしてどうして?」


「ふふっ、頼まれたのは巫女様のほうですよ。なのにその驚き方……あははっ……おかしっ」


 私たちはしばらく笑いあった……。巫女は涙をこらえながら笑顔で何度もありがとう、ありがとう。と繰り返した。


 弟子のノイリさんも同行して探すこととなり、屋敷の庭やダンジョンで訓練を繰り返し、準備を始める。


 元々剣技は得意な私だったけれど、ユウキも運動神経もよくて、めきめきと強くなっていった。ノイリさんも短期間だが氷魔法の精度を上げていった。


 別に何かを倒しに行くわけではないし、ある程度の強さがあれば大丈夫だろうということで、私たちは東の果て、エスタに向けて出発した。


そして紆余曲折を経て、見事に”彼の者”を見つけ出し。無事巫女の命を救うことができた。


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