第五十四話 効能
ある日、部屋の窓から外を見るとルーミエと、ユウキとレイラが剣術の訓練をしていた。レイラは俺と一緒に行動するには戦うことが必要だとでも考えているのだろうか……。
もちろん嫁が強いことに越したことはないが、何かいいきっかけがあれば無理にそんなことしなくてもいいよって伝えたいと思っている。今はまだ本人もやる気があるので今はまだ様子見かな。
自身のレベルとステータスを確認する。魔人を倒したことでレベルもかなり上がった。
◇ ◇ ◇
Lv575 HP5750/MP5750
強さ:1000 守り:1100 器用さ:800 賢さ:420 魔法耐性:700 魔法威力:1000 ボーナス:1730
◇ ◇ ◇
これまでの戦闘などでステータスの中であまり恩恵を感じていないのが”賢さ”だ。機能としては圧縮火炎球や箱魔法を作る早さに影響しているということは分かっているのだが、発現については420の数値でも十分に早い。なんらかしらの変化を期待して、ボーナスポイントを全部”賢さ”に振ってみる。
Lv575 HP5750/MP5750
強さ:1000、守り:1100、器用さ:800、賢さ:2150 魔法耐性:700、魔法威力:1000 ボーナス:0
指輪の付与能力
魔法威力+10、強さ+10
あまり体感できる変化はないな。”賢さ”を極端に大きくすることで何か小さな変化も見つけられるかと思い振ってみたのだが……。
箱魔法発動……トスン。
ベットの上に落としてみる。発現速度はそんなに変わらないな。次に十個一気に作り出すと、これまたタイムラグなしに同時に発現した。もしかして並列処理に強くなっているのかな?
圧縮火炎球もおそらく同じように発現させることができるかもしれない。
続いて領域……発動。以前よりくっきりはっきり感じることができている感じがする。庭に意識を向け、訓練中の三人を見ると、それぞれ頭や肩に漢字がのっかっている。
???
レイラには「焦」、「疲」、ルーミエには「活」、ユウキには「快」……。
???
心理的、身体的状況を漢字で表記……ですか?
部屋のドアがノックされ、俺が「どうぞ」と答えると勢いよく開き、カラルが飛び込んできた。
「アキト様、今晩どうする?」
じっと見つめる……「活」「淫」「慕」という三つの文字が……うん、わかりやすい。そしてカラルにこう答える。
「ミニで黒ニーハイソックス!人族十代後半!ヤンチャ系で!!」
「かしこまり~」
って何だこの会話は!
”賢さ”数値を上げ下げして試してみたところ2000で発動するようだ。面白いからこのままで行こう。この能力に名前を付けるとしたら、”状態漢字表示”または”状態可視化”……そんなところだろう。
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街中でこのスキルで人間観察しよう。うちのメイドさんに昼ご飯はいらないことを伝えて外に出た。
まずはギルドに入り、男女のカウンター受付を見る。二人とも漢字がのっかっている「忙」「疲」「空腹」
あ、熟語発見!他にもクエストボードを見ている冒険者を見ると、「欲」「活」が表示される。なるほど、なるほど……。
女の子のカウンターが開いたので、情報だけをもらうために記録石を出す。
「情報だけくれるかな」
「はいはーい、どうぞー」
「疑」「疲」とさっきと表示が変わった。
目つき怪しかったのかな?カラルにも思っていることがよく顔に出てるって言われたしな……。疑われているが対応はいたって普通だった。若干の居心地の悪さを感じたのでギルドを出る。
続いて屋台街へ向う。サラダ、焼き飯、から揚げ、炭酸ジュースを購入して空いている席に着く。
これまでいくつかの街を回って感じたことは調味料や食材などの品ぞろえは前世と同じくらいに存在している。恐らくこちらの世界でそろわないものは無い。
名前は違えども、塩、砂糖、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、醤油、七味唐辛子、メジャーなものは存在しているので、自分で試行錯誤して作らなくてもいいのがありがたい。これだけ住んでいる人がいて商売してるんだ。それぞれが切磋琢磨、試行錯誤をしている証拠だ。
おかげで前世の乏しい料理知識をひけらかしてドヤ顔で「うまいだろ」的なエピソードは発生する予定も必要も全くない。ただ流通は良くないため、どの街でも同じものを食べられるわけではない。各地域でとれる食材が違い、その街に行かないと食べられないものは多いが、アイテムボックス機能をフルに活用して、大量購入することにしている。
流通が良くないからと言って、悪いことばかりではない。それぞれの街で固有の文化や風習の違いがあって面白いし、商人たちは遠方でしか手に入らない珍しいものを持ってきて、富を得ようとして必死なのが良い。それこそ中世のヨーロッパで胡椒一粒が金、銀と等しく扱われたことと同じような現象が起きている。
もぐもぐと食事をしながら、辺りを見渡す。
楽しそうに話をしている手振りが大きい男性の飲み物が、肘に当たって倒れそうになったときだった……。あっ、倒れる。と思って見ていたら、動きがとても遅く感じられた。
倒れるコップはゆっくりと傾いていく。ようやく中身がこぼれ始め、まったりと液体が跳ねる。
絶対的な時間の進みが遅いのではなく、俺の認識、思考の相対的な処理速度が上がっているのか?
これも”賢さ”の恩恵なのか?……集中を解くと、いつもの時間の流れに戻ったが、面白いので何度も試してみた。これは……”クロック・アップ”だな。
あまり得られる恩恵が少ないと思っていた”賢さ”だったが、試してみることで、これからの戦い方のバリエーションが広がる、”クロック・アップ”や人の状態可視化能力を手に入れることができた。
もっと試したい。
ぶつぶつ言いながら、飯を食っているとダークエルフに擬態したカラルがこちらに向かって歩いてくる。遠目にもいい女っぷりオーラが感じられる。
周囲の男どもには「犯」「欲」「繁」と何やら怪しげな漢字がポンポン浮き上がってきて面白い。女性からは「妬」「憧」「羨」や中には「怒」が浮き上がっている人もいた。
俺の向かいに座ると視線が集中するが気にしない。
「お出かけするなら一言いってよ」
「いいじゃないか、俺は自由に生きるんだよ。これうまいから食べる?」
「ええ、いただくわ」
カラルと一緒に飯を食べる。
褐色のすべすべした肌、かっこいいプロポーション、大きな瞳にスッと高い鼻、唇は少し薄いが表情もいつも微笑んでいる。その見た目の上品さとは裏腹に夜は積極的に迫ってきてくれる。
……目が合う。
「アキト様、お顔に出てますよ」
いつものように鼻の下を伸ばしきっていたようだ。
「夜が楽しみだなって。ふふっ、わらわも夜が待ち遠しいですわ」




