第五話 帰り道
街に戻る道中、遠くからか剣を打ち合う音が聞こえてくる。
他の冒険者が戦っているのだろう。どんな風に戦うのか見てみたいと思い、音がする方へ向かい、そっと木の陰から覗いてみる。
装備から推測すると剣士が二人、魔法使いが一人の三人とも女性のパーティーだ。
オークを一体を倒して、残りはゴブリン二体とオーク四体に囲まれている状況だけど、ピンチってことじゃないよね?
まるで不良に絡まれている女の子を助けようか、怖いからそのまま帰ろうかと悩んでいる感覚に近いものがある。
魔法使いの発した氷の矢がオークたちに向かっていく。しかし氷の矢の速度は遅く、よけられたり、こん棒で薙ぎ払われてしまった。その間に戦士二人がゴブリンを一体ずつ倒す。
続いて防具が赤い戦士がオークへ突進する。動きが直線過ぎて、こん棒での薙ぎ払い攻撃が当ると思った瞬間、姿が消えてオークの攻撃が空振り、そのオークの背中から血しぶきがあがる。防具が青い剣士がいつの間にか後ろに回り、背中を攻撃していた。
しかし体格のいいオークは切られたことをものともせず、振り向き青い剣士に攻撃をするも、バックステップで難なくかわされる。すると今度は赤い剣士がその背後に現れ数撃たたき込むと、オークにとってもかなりのダメージ負うとそのあとすぐに倒された。
初めて見るほかの冒険者の戦闘を目の当たりにして「おぉ…」と、思わず声を出してしまう。
視界から消えるほどの移動速度と二人の剣士のコンビネーション攻撃で、残りオーク三体を難なく片付けてしまう。
「千五百モコ、ゲット!」と、嬉しそうに青い剣士が報酬を報告している。
「あ、あの、ごめんなさい。魔法攻撃がいつも当たらなくて……」
申し訳なさそうに魔法使いの女の子が謝っている。
「ノイリ、気にしないでいいのよ」
赤い戦士が慰めるように言う。
「そうだよ。あたしたち仲間なんだから遠慮なんてしなくていいよ。いざとなったらルーミエの剣技でバンバン倒しちゃうし、大きいから盾にもなってくれるから大丈夫だよ!」
「ユウキ、あなたねぇ、そんなに身長差ないでしょ!」
和気藹々とした雰囲気で中が良さそうなことがうかがえる。魔法使いがノイリ、赤い戦士がルーミエ、青い戦士がユウキって名前なのか……。ん?今の俺ってストーカーっぽいな。
「それはさておき、そこのあなたいつまでコソコソとしているの?隠れていると盗賊とみなして攻撃するわよ」
覗いていたのがばれていた。
「そんなつもりは――」と、木の陰から出た瞬間、目の前に剣を突きつけられる。ルーミエが一瞬で間合いを詰めてきたのだ。これはかわせないな……。
「まった、まった。攻撃の意思はないよ。この通りだ」
俺は両手を上げて降参のポーズをとる。
「私たちの跡をつけたのかしら?」
「いいや、たまたま通りがかっただけだ」
「追い剥ぎ狙いかしら?私たちこの辺のモンスターでは倒されはしないわ」
「そのようだな……。けど追い剥ぎだなんて、そんなことも考えもしなかった。どんな風に戦うのか興味があって見ていただけだよ」
「怪しいなぁ~、女の子だけのパーティだからって跡つけてたんじゃないの~?」
ユウキが、自分の手を体に巻き付けて悶えるようなそぶりしながら、俺のことを怪しんでいる。
「これから街に戻るところだったんだよ」
ルーミエが剣を俺に突きつけたままで、問いかける。
「見たところ戦士職よね?一人で何を倒していたの?」
身なりは戦士だが、まだ魔法しか使っていない。
「牛、オーク、蜂とかだよ」
「ふ~ん、一人でねぇ……。まぁ私たちも街に帰るところですし、信用したわけじゃないのであなたが先頭を歩いてください。途中に出たモンスターはお任せして危うくなったら加勢するわ、それでいいかしら?」
「わかったから、その剣をおろしてくれないかな……」
俺を先頭に街に向かって歩き出したが、ただ黙って歩いて戻るのも味気ない。せっかくなのでいろいろ探ってみる。
「俺は今日エスタに来たんだが、お前たちはこの辺は詳しいのか?」
「まあまあ詳しいかな」と、ユウキが答える。
「この辺りはどんなモンスターが出るんだ」
「さっきのゴブリン、オークやハーピー、大型昆虫や夜になるとスケルトンが出るかなー。……あ!前方からハーピーがやってくるよ、さあさあ任せたよ。お兄さん」
「はいはい、任されましたよ」
前方からハーピー四体がかなりの飛行速度でこちらに向かっている。一体ずつ倒していたら近接戦闘になってしまうが、剣での戦闘は慣れていないので今のところ避けたい。
サッカーボール大の火の玉を四つ同時に生成する。それを圧縮し高温に変化させた圧縮火炎球に変化させる。
「あなた、戦士じゃなかったの?」
ルーミエは魔法を使うとは思っていなかったようで驚いている。
ルーミエの問いには答えず、俺は圧縮火炎球を先行してくる二体にめがけて、できるだけ高速で飛ばす。ハーピーも避けようと回避行動をしたが、方向を微調整して、着弾させた。
攻撃が当たった二体のハーピーは、飛行速度そのままに地面に落ち転がっていくと残る二体は危険と判断し、逃げるために左右に分かれたが、もう遅い。用意していた圧縮火炎球を飛ばし、追いかけるように後ろから着弾させる。
「すごいね!お兄さん」と、ユウキが感嘆の声を上げた。
「お兄さんじゃなくてアキトと呼んでくれ」
さっきは話しかけようともしなかった魔法使いのノイリが話しかける。
「アキトさん、私はノイリといいます。今の魔法、すごいですね。ファイアーボール四つをあんなに速く、木々の間をあんなに正確に制御されるなんて……」
俺の魔法の威力や精度は、おとなしそうな彼女が興味を持つほどすごい物なのか……。
よく見ると三人ともかわいいらしい顔立ちをしている。ノイリとユウキの二人に挟まれながら、楽しい雰囲気になってきた。
今日の討伐の成果を聞かれ、オークのことや大毒蜂を数えきれないくらい倒したことを話した。他にも色々なことを聞かれてそれに答える。
ただ、ルーミエだけが、話しかけにくそうに俺のことを見ていた。