第四十六話 カラルとの対戦
銀貨を親指ではじき、二回戦を開始する。コインが地面に着いたところで、同じように攻めてくるかと思ったが、カラルは剣をかまえて詠唱を開始している。
持っている剣の刀身はレイピアのように細く青黒い、金属ではないように見える。目を凝らし分析能力を発動させる。
◇ ◇ ◇
魂宿剣 素材:魔力、精気
◇ ◇ ◇
なにそれ!かっこいい。切れ味を知りたい。
俺はアイテムボックスからアダマンタイト製の剣を取り出し、黒剣を収納した。
詠唱中だがお構いなしに切りかかる。カラルは反応して剣で受けるように少しだけ動かした。力いっぱいで切り付けるが、こちらの剣がバターのように溶かされ二つに切れてしまった。
アダマンタイト製の剣だぞ!すごい切れ味?……いや溶け味なのか。追撃を試みようとしたが、魂宿剣の先を軽くを動かして切る動作を入れてきた。
そんな動作がどうなるとも思わなかったが、軽く動かした分だけの斬撃が飛んできているのでバックステップでかわす。今度は切っ先をゆっくり大きく動かして斬撃を十数個に飛ばしてくる。数が多くてかわせない。強化箱魔法展開……。斬撃の初撃を受ける。
バリッ!という音と共に強化箱魔法は砕けてしまった。斬撃の方はまだこちらに向かっている。
極私的絶対王国……発動。初撃の斬撃が範囲内に入ったところで、消滅させるイメージを実行すると消せることはできたが、MPを200近く消費した。全部を消すは無理だ。
極私的絶対王国を広げ、全ての斬撃のベクトルを下に向ける。これなら少量のMPで対処できる。
ズドドドド!!と、地面に連続してぶつかり、地響きが起こり、土煙が舞う。カラルの状況を極私的絶対王国で感じ取るとまだ詠唱を続けている。
土煙が晴れる頃にカラルの詠唱が終わり、剣とは逆の手に光り輝く盾を持っている。
刹那、第六感が正面には立ってはいけないことを告げる。俺は反射的に横にジャンプ——カシャンと、音がしたのと同時に右半身の肩から先と右の太ももから下が消えて無くなった。
!!!
あまりの痛みに声なんて出せなかった。ヤバいこいつ俺を殺す気だ。
「あら、照準がずれましたわ。これから楽にして差し上げます」
噴き出す鮮血、痛みで意識が遠のく。だが継続治癒魔法の効力が発揮され、瞬時にもりもりと生えてくる右腕と足……。痛みも一瞬で引いた。
なんだよ俺の体のこの回復ぶりは……。
「なんですか、その回復力は……」と、俺と同じ突っ込みをカラルも入れていた。
「アキト様は吸血鬼真祖?」
「参った。それと吸血鬼真祖じゃないよ」
俺は両手を上げて降参のポーズを取った。
なんという破壊力だ。先に死亡できないことは伝えておくべきだったな……。まともに喰らったら、おそらく再生はできなかっただろう。
その場に座り込んだ後、仰向けになって寝転がる。カラルが歩み寄り、アイテムボックスから二人掛けのソファをだした。俺をお姫様だっこのように持ち上げる。
俺は抵抗することもなく、なすがままだ。とにかく体がだるい。俺をソファに寝かせ、頭を持ち上げて座り太ももの上にのせる。俺は足を伸ばした。
何もない荒野にソファを置き、二人の男女がくつろいでいる。なんとも前世ではありえない状態だが、これはこれでいいものだ。太ももの感触も柔らかく、お胸も俺の頬にほどよく当たっている。
カラルは俺の顔を撫でている。
「強いな、カラル」
「アキト様もこの世の者とも思えない魔法ね。……もう一回戦で決着つける?」
「いや引き分けでいいよ……というか、俺の死亡可能残数は分かっていなくてね。死にたくないんだ」
「それは怖い思いをさせたわね。……賭けはどうする?」
「お互いの望みをかなえることでいいんじゃないかな」
「仰せのままに、それではわらわからの望みから——」
カラルは俺に口づけをする。……長い長い大人の口づけだ。
「他に女がいても構わないの。わらわの番いになって……」
”番い”の言葉の意味が分からず聞き返す。
「それは結婚みたいなものか?」
「人族でいう夫婦になるの。でももう少し重くて、命の共有をすることになるけどいい?」
「カラルが死ねば、俺も死ぬ。俺が死ねばカラルも死ぬのか?」
「そう、わらわに命を預けてくれる?」
見つめあう……。吸い込まれそうなきれいな瞳だ。さっきの戦闘が嘘のようだ。戦力としては申し分はなく、俺より絶対強い。命の共有となると俺の寿命も延びるのだろうか……。
「命を預けるか……。それに答えるには俺の質問の答えを聞いてからになるな、どうしてそこまで俺にこだわるんだ?」
「わらわは何者にも脅かされずに生きていくために強さを求めた結果、今の力を手に入れたわ。悪魔族は修練すればするほど、強くなれる。だけど一人ぼっちで生きていくのは寂しすぎる。
同属の男どもは怠け者が多いから子孫を残す相手としてはわらわは見れなかったの。あとは人族か人族の血を引いている竜人や獣人などが候補になるけど強い者は数多くなかったわ……。
過去に二人候補がいたけど、わらわが悪魔族と知ると別れを切り出されたの」
「どうして?」
「奥さんが自分よりも強い相手だと、怖いんじゃないかな?悪魔族っていうのもあるしね……」
「強くなって何者にも脅かされずに生きて子孫を残したい。ということか」
「そ、シンプルでしょ」
「悪魔族の寿命は二千年って言っていたけど、俺の寿命は長くても八十歳くらいで一緒にいる時間は短いと思うけど……」
「それは大丈夫よ、命の共有をするから千二百歳くらいまで生きられるんじゃないかな?」
そう言って、カラルは微笑んだ。




