第四十五話 カラルと……
王都からカムラドネに戻って数日たった昼下がり、冒険者ラッテの物語を幼児向けから徐々に対象年齢上げて読破しているさなか、通信指輪からカラルの明るい声が聞こえてきた。
「アキト様、こちらの準備が整いましたので、お迎えをお願いねぇ」
「わかった、これから迎えに行くから王都の森で待っていてくれ」
俺たちの通信指輪は四つになり、通信を行うと四つ全てに声が届くようになっている。そのままレイラに呼びかけて迎えに行くことを伝えた。
部屋では異世界転移魔法陣を展開できないので、屋敷の庭から箱魔法で飛び立ち、近くの森へ着陸する。いくら身内とはいえ、異世界転移魔法陣を執事やメイドさんに見せるわけにはいかない。
異世界転移魔法でカムラドネからネデパへ移動したのちシュウゼルゥトに移動して王都の森に到着する。
実は今回カラルに二つ確認したいことがある。一つ目はこれまで敬遠して聞けなかった、俺の仲間になることについて、真の目的が何なのかを確認しなければならないと思っている。
あれだけの強さや、財力、知力、美貌を兼ね備えていると、大抵のことはできてしまうはずなのに、わざわざ俺に近寄らなければならない理由はあるのだろうか?もしくは俺の杞憂で単にモテ期なのか。
確認項目の二つ目はカラルの強さだ。カラルのレベルは495、俺のレベルは294とかなりの開きがある。どのくらいの戦力なのか体験してみたい。
王都の中にある森に着陸する。通信指輪で呼びかけるとすでに森に到着しているようだ。領域を展開して、範囲を広げていく……。三百メートル先にカラルの存在を確認できた。
歩いて向かう。カラルもこちらに向かって歩いてくるのを感じる。
「よう、待たせたな!」
「はい、お待ちしておりました」
彼女との距離は数メートル、俺は立ち止まったが、彼女は歩みをやめず進んでくると思った瞬間、消えたと思ったら、俺の懐に飛び込んでハグをしている。優しくむっちりとした感触と甘い香りが全身を包む。
「ふう、お久しぶりでございます。くんくんくん……落ち着くぅ~。でも人払いの結界をしていましたのに的確にわらわに向かってこられたのわさすがですわね」
さらにすりすりと頬ずりされる。
「香水変えたのか?」
「あら、よくぞお気づきで、ですが正確にはボディオイルをアキト様の好きな清楚可憐系の甘く、さわやかな香りに変えたの!」
「どれどれ、すんすん……確かにこの香りは好きだな」
抱き合ってのスキンシップをしながら、やはり強いなと思った。カラルの今の動きは目では追えなかった。
俺も腕を腰に回し、カラルの耳元で囁く。
「カラル、二つ頼みがある」
「あら、なんでしょうか?まさか、こんなところで?……いえいえ拒む理由はありませんよ。お望みであれば準備するね」と、何やら別のことに勘違いをしていたが落ち着いて訂正する。
「いや、そうじゃないんだ。俺と全力で戦ってくれないか?」
残念そうに聞き返してくる。
「全く逆でしたわね、どうしてですか?」
「純粋にどのくらい戦力に違いがあるのか知りたいんだ」
「わかりました。もう一つは何でしょうか?」
「俺の仲間になることにこだわる理由を教えてほしい」
「あら、わらわは純粋にお強いアキト様に憧れているだけなのに……。
どうしてもとおっしゃるなら、賭けをいたしましょう。アキト様の望まれる全力勝負に応じさせていただきます。その勝負にアキト様が勝てばその理由をお伝えします。わらわは勝てば、望みを一つ叶えてくださいますか?」
「俺に可能な事であれば、叶えてあげるよ」
もちろん負ける気はない。全力で勝負をする。
「人が多いこの地域では戦闘できませんね。ここから南下したところに荒野がございますので、そちらに参りましょう」
□
カラルの指示に従い、箱魔法で荒野に移動する。戦いの準備を行う。
まずはステータスの確認。
◇ ◇ ◇
Lv294 HP2940/MP2940
強さ:1100 守り:1000 器用さ:500 賢さ:400 魔法耐性:400 魔法威力:540
ボーナス:0
◇ ◇ ◇
極私的絶対王国……発動。継続治癒魔法……発動。あとは黒剣を持っておく。
カラルを見ると、ダークエルフの擬態は解いている。ドレス姿から軽装備に変更しているが、黒づくめのミニスカートにブーツとニーハイソックス、上着も大胆なカットが入ったジャケットで守っているのか露出しているのかわからない装備だ。だが実に色っぽい。
剣は刀身はわからないが金色の細い鞘に納められたレイピアのような一振りが背負われている。
「準備はいいか?」
カラルとの距離およそ十メートル。すでにそこは極私的絶対王国の範囲内だ。お互いに鞘から剣を抜き出し構える。
「……ええ、いつでもどうぞ」
「このコインが地面についたら開始だ」
俺は銀貨を親指ではじきだした。
コインが地面に着くのと同時にカラルが消える、
「動くな」
極私的絶対王国で命じ動きを止める。
「ぐっ……」
カラルが押し殺した声を出し、美しい顔が台無しなほど必死の形相で足掻いている。あとは剣を振り下ろすだけの近距離まで近づいていた。
「があああぁっっっっ!!」
カラルのダンジョン内で経験したことだが、極私的絶対王国は絶対に効力を発動するのだが相手の強さに応じてMPの消費量が変わる。カラルが抵抗していることでMPをかなりの勢いで消費している。このままではもって一分くらいだ。
頬に手を添え、黒剣を喉元に持って行くとカラルは抵抗を止めた。まずは一本と言うことで、いったん距離を取る。
MPが2940から1038になっていた。短時間でMPを消費すると頭痛が起こる。
強さステータスのおかげで毎分1100回復するので痛む頭を押さえながら準備と称して二分待ってもらいMPを全回復させる。
「カラル……もう一度だ」
「ええ」
カラル自身の納得が行かなかったのだろう。二回戦の提案を受け入れる。




