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第四十三話 謁見の儀

 謁見当日の朝。昨日の夜遅くまでの影響でみんな朝はフルーツジュースや果物だけで軽めに済ませる。


 カラルは夜のうちに帰ったようだ。


 今日の王への謁見にはルーミエとユウキはお留守番で、レイラとノイリと俺の三人で城に向かう。


 城門の門番に先日使者からもらった書面を見せると中に通される。俺たち以外にも客人は多く来ているようだ。月に一度行われる王への謁見の儀には、報告する事がある人や表彰される人などを集めて行う場なのだ。


 およそ百人近くが城内のホールに集められ、俺たち三人も指定位置に並ばされる。


 ところどころに部隊長が控え、警備も大変厳重警戒にされていて、みんな見るからに屈強な戦士ばかりだ。


 分析能力で細かく見てみると…。

魔法騎士部隊、総隊長と第三、六、七、十二、十七魔法騎士部隊の隊長と副部隊長の九名。狩猟部隊、総隊長はじめ第一、五、八、十四狩猟部隊の隊長と副部隊長の九名。

近衛部隊……と、眺めているうちに、王への謁見の儀が始まった。


 列に並んでいる人に対して順番に声を掛けていく王。王の周りには側近が五名、王妃にも側近四名付いている。それぞれ護衛が二名、あとは王への謁見する者の紹介をする人のようだ。一人当たり一分程度だろうか、王と王妃が順番に声を掛けていく。中には勲章らしきものを授かっている人もいる。


 俺たちの順番が回ってきて、レイラが王に挨拶をする。


「陛下、お久しぶりでございます。遠夜見とおよみの巫女のレイラでございます。この度は、新たな巫女の世襲のためご挨拶に参りました」


「久しいな、巫女よ。十数年ぶりになるか……」


「はい。当時私は七歳でございました」


「ああ、覚えておるぞ、この場に大人に混じってかわいらしい少女がいたことを——そうか綺麗になられたな……」


「もったいないお言葉でございます」


「小さき身には辛い役目だったと思うが、これまでよく頑張ってくれた。礼を言う。……次の巫女はそなたか?」


 ノイリに視線を移す。


「はい、ノイリと申します」


遠夜見とおよみの巫女は我が王国のみならず、世界の宝でもある。先日のナリヤの件についても聞いておるぞ。正確な情報把握ができているようだな……。ノイリよ、よろしく頼むぞ」


「かしこまりました」


 俺は二人の後方に控えていたが、少し王が気にしたようだが側近が関係ないことを伝えると次の人に声を掛けた。


 続いて王妃がレイラに声を掛ける。


「レイラさんは今後どうされるのかしら?」


「はい、家庭に入ろうかと思います」


「まあ、おめでたいことね……お相手は後ろの男性かしら?」


 俺に視線が集まる。


「初めまして、アキトと申します」


「美しいお嫁さんを貰ったわね。しっかり守ってあげるのよ」


「はい」


「そしてこちらが新たな巫女なのね。ノイリさん、よろしくお願いしますね。困ったことがあったらいつでもおっしゃってくださいね」


「ありがとうございます」


 カラルのお陰で普通に終わった。心配する事なんて何もなかった。約二時間ほどだろうか、ホールにいた人すべてに挨拶を終え、王と王妃は引き上げていった。


 そして近衛兵隊長より元来た道で順番に帰るように指示をされる。


 順番待ちをしていると黒服の執事のような男が近づいてきて、声を掛けてきた。


「お初にお目にかかります。私、ホラン公爵様の執事をしておるものでございます。このあと公爵様よりお話ししたいことがございますので、この場でしばらくお待ちいただけますでしょうか」


 公爵からの誘いは断れないのだろう。


「わかりました」と、レイラは答える。大ホールには執事と何故か魔法騎士部隊と狩猟部隊の総隊長が残っている。


 しばらくするとホラン公爵が現れた。


「そなたが前・遠夜見とおよみの巫女であるか?」


「はい、ホラン公爵閣下、初めましてレイラでございます」


「お噂通りかなり美しいな。残っていただいたのは、そなたに縁談を申し込みたいとおもってな。なに、相手は私ではなく、我が甥にあたる男だ。どうしても遠夜見とおよみの巫女と結婚をしたいといっておるのだがどうだ?」


「左様でございますか……実はわたくしは既に婚約をしている身でございますので、そのお話をお受けすることはできません」


「婚約という事であれば、まだ結婚してないということではないか?一生裕福に暮らせるのだぞ、考え直してはくれまいか?元巫女というのも危険が付きまとう身であろう。その身柄を生涯安全に守ってやることもできるぞ」


「ご心配には及びません、我が夫になる者に守ってもらいますゆえ」と、言って俺に腕組みをする。


「おお、そなたが相手なのか。貧弱そうだな……」


 貧弱そうなのは余計な一言だ。


 近くにいた、狩猟部隊総隊長が声を掛けてきた。


「ホラン公爵閣下。そいつを見かけで判断して、痛い目を見た奴が我が部隊におります」


 俺のことを知っているのか。


「ほう、まことか?そやつが弱かっただけではないのか?」


「まだまだ甘いところはありますが、部隊長を務めるものであります」


 カムラドネで会った。ゴーウィンだな……。いちいち上にチクってんじゃねーよ。いや違うか、わざわざ負けたことを報告はしない。となると隊員からチクられたんだろう。


「ほぉ、お前のところの部隊長が負けを認めたのか、面白いな……」と、魔法騎士部隊総隊長も口を出してきた。


 ホラン公爵は諦める気はないようだ。


「レイラ殿よ、どうだろうか儂に一度チャンスをくれんか?」


「チャンスと言うのは一体?」


 ホラン公爵はこちらにだけ聞こえるように小さくつぶやく。


「簡単な話じゃ、儂の用意する兵とその男で手合わせをするだけだ。さすれば先日のナリヤの件などは伏せておくことも考えなくはないぞ……」


 カラルの報告は最初から王には届いておらず、ここで情報が止まっていたのか。そして秘密をばらされたくなければ戦えというのだろう。雑な話の持って行き方だな。


 レイラは危険なことをさせたくないと抵抗する。


「そんな、わざわざ危険な目に遭わすことはできません」


「そこをなんとか……」と、食い下がる。


 まあ、この状況はかえって好都合だ。対決を断っても別の手段で襲ってくるのだろうし、強さを見せつけて黙らせてやる……。


「ホラン公爵様、一度きりであればお相手させていただきます。私が勝ちましたら、今後は一切こちらには手を出さないことをお約束ください」


「おお、相手をしてくれるか、うむ、約束しよう!報酬は……金貨千枚でどうだ?」


「それで結構です。そのお相手はどちらに?」


「この城の訓練場だ」


「それとできるだけ人払いをお願いしたい」


「わかった」


「見届け人は我々二人が請け合おう」


魔法騎士部隊総隊長が胸を叩く。



「レイラ、ノイリ心配するな。なにも問題ないよ」


 不安そうな二人に声を掛ける。そして訓練場で待っている男を凝視し、分析能力発動させる。


◇ ◇ ◇

ドノグレイバン:レベル154 竜人族

230cm 180kg

25歳 冒険者 死亡可能残数3回

◇ ◇ ◇


「ドノグレイバン殿か……。王都でも10指に入る強者だな」と、狩猟部隊総隊長がつぶやく。


 そうか……だが全く相手にならないだろう。さくっと片付けてしまおう。


 ホラン公爵は、今回の対戦で俺を殺す気でいるのは間違いない。邪魔者を消してレイラを手に入れようという魂胆なのだろう。それに後日、暗殺者を仕向けて死亡可能回数が無くなるまで殺しにくるはずだ。


 ちなみに俺の死亡可能回数はわかっていない。鏡越しでの分析では俺自身への分析はできない。ゆえに死ぬことは絶対に許されない。


 さて、準備を始めよう。極私的絶対王国マイキングダム発動。継続治癒魔法発動。


 初めて店で買った黒剣を出し、ゆっくりと構える。


 魔法騎士部隊総隊長が片手を上げて開始を宣言する。


「はじめ!!」


 同時に相手は飛び上がる。十五mくらいは飛んでいるぞ。浮遊魔法も使っているのかな?


 口が光っていると思ったら、細いブレスがこちらに向かって撃ち放たれた。ドラゴンの血が流れているだけあってブレスは攻撃力が高いのだろうが、軌道は読めるししっかり見えたのでさっと避ける。


 ブレスは地面に当たり、土が爆ぜるのも計算されていたのだろうか、土煙で視界が悪くなるが、極私的絶対王国マイキングダムでしっかりと相手の動きを感じている。


 ドノグレイバンは落下しながら、剣を振り下ろしている。攻撃が単純すぎる。ジャンプしちゃだめだろう。


 でも水平にブレスを吐いて、俺に当たらなかったら城壁に穴をあけることになるし、しょうがないのか……。だとしたら、戦略ミスだな。ブレスで倒せるほど俺は弱くないよ。あ、でも相手の強さもわからないのに戦略ミスは無いか。


 などと、余計なことを考えながら、着地点に向かう。恨むなら雇い主を恨むんだな。


 俺にとって重力落下は遅すぎる!


 ルーミエの剣技を真似てみる。右から左への水平方向に両方の足首を切り飛ばす。そのままさらに垂直方向に右上方に回転しながら腕を目一杯のばし、両腕を切り飛ばす。体への無茶な負担や物理法則の壁は”強さ”の数値設定で軽く超えられるからこその剣技。


 見る者にとっては同時に両足首と両腕が切り落とされたように見えるはずだ。走り抜けた後に両足、両腕を切られたドノグレイバンが地面に叩きつけられる。


「勝負あり!」


 黒剣をアイテムボックスに納めて、呆然としているホラン公爵に近づく。


「私も全力で戦わなければならなかったので、お許しください」


「……あ…ああ、約束の金だ……」


 金貨千枚を受け取る。


 のたうつドノグレイバン、辺り一面、血と土とが混ざり合っていく。すっ飛んでくる、治癒魔法士。騒然とする中レイラとノイリに帰ろうと促した。



 城の出口に向かう途中レイラがつぶやく。


「アキト、本当に強すぎるね……」


「まあ、俺の本気はこんなもんじゃないけどな」


「かわいそうだったね、彼」


「ああ、相手が悪かった。向こうも殺す気で来ているからあれくらいしないとだめだな」


 レイラの頭にぽんぽんと手を置く。


「大丈夫。少ししたら元通りに治療してやるよ」


「そんなこともできるの?」


「できるよ。ノイリには前話したっけ」


「ええ、オークの腕を再生させた話。衝撃でした」


「それを遠くからでも治療できるようになったんだよ」


 城を出るとカラル、ルーミエ、ユウキが立っていた。


「よう、カラル。いろいろ手を尽くしてくれたんだろうけど、成果はよくわからなかった。最初の報告やレポートは王には届いてなかったと思うよ」


「左様でしたか……」


 城の中で起こったことを三人に話す。


 カラルはため息交じりに答えた。


「ホラン公爵は魔法研の最高責任者ですので、そのようなことになったのですね。アキト様のやりすぎなほどの勝利は、中途半端に勝ちを得るよりも効果的だったと思います。おそらく二度と手をだしてこないでしょう」


「ドノグレイバンはこの後どこへ行くんだ?」


「かなりの重傷を負っていますので、おそらくは城の中で高位の治療術士を呼んで治療すると思います」


「そうか」


 俺は両手を空に伸ばし、大きく伸びをした。


「さーて飯食いに行こうか。……そうだ、カラルも宿に来いよ、それに仕事もやめちまえ」


「いいのですか?」


「いいよ、カラルさん歓迎するよ」


「あと仲間内での遠慮は禁止な。いつものようにしてくれよ。俺はお前の話をもっと聞きたい」


「わかったわ。ありがとう、アキト様、皆さん」


 ”様”はとらないんだね。


 着々と女の子が俺の周りに増えてきたな。


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