第四十一話 記録石(キロクセキ)システム
カラルは語る——
「今からおよそ百二十年前くらいの話です。王都北部のダンジョンの運営も安定してきたのですが、どうしても訪れる冒険者だけでなく、世の中すべての冒険者の強さを知りたいという欲求を抑えることができなかったのです。強さを測る仕組みを作ろうと思い、ダンジョン運営を他の者に任せて、魔法研に錬金術師として就職しました。
いくつかの開発、研究の成果が認められて、それまでに温めていた地脈を使った記録石システムの提案したところ採用され、およそ五年で実用化しました」
バリバリの開発者じゃないか!そりゃ知識も豊富だよな。
「じゃあこの通信指輪も?」と、言ってレイラが通信指輪を見せる。
「ええ、わらわが作りました。これは個人用として限定二百個しか作っておりませんので大変貴重なものですよ、わらわは三つ持っています」
ダンジョン管理人への連絡用とその予備で使っているそうだ。
「日々の記録石システムの討伐情報を見ることができるようになったのですが、なかなかわらわの求めるような人族の男性は見つけることができませんでした。悪魔族の寿命は約二千年ですが、一度死んでしまえば、人族の加護をもった者とは違ってそこで終わってしまいます。
一度きりの人生を最高のパートナーと結ばれたいじゃないですか!」
カラルが語る口調が熱くなってきて、皆うんうんと同調している。寿命二千歳か……。
「記録石システムの開発が終わると、統括責任者だの、主席研究員だの、役職に縛られて面倒なことが多くなってきたので、魔法研をやめました。
その後はこの百年の間に暇つぶしで二度ほど魔法研に就職して、出入りをしています。開発者の隠し特権でどこからでも地脈システムにはアクセスできるので、やめても全然支障はありませんし、アキト様を見つけることができた今わらわには必要がありません」
ルーミエがカラルに聞いた。
「カラルさんの求める男性の強さって一体どれくらいのものなの?」
「そうね、簡単に言えば一騎当千……。それだけの強さを人族に求めるのは無理難題なのかもしれないのだけど、人族に昔そのような方がいたと記録に残っていたので、なかなか諦めることができず、その結果二百年以上もかかってしまったわ」
寿命が長いとそういう感覚になるのか。
「記録石システムもいろんなデータの抽出方法があって、国別討伐部隊ランキング、個別討伐量ランキング、冒険者ランキング上位者の討伐情報といろいろとあるのだけれど、わらわ独自の分析で移動距離ランキングというのがあって、その中でここ最近突出した距離で叩きだしていたのがアキト様でした。
記録石の情報も確認しましたが目立った功績もなく不思議に思ったのですが、わくわくが収まらず中途半端な情報をついギルド情報部にリークしたのと上司に報告してしまいました」
そういうことだったのか……。
「情報を遡ると、記録石の初回登録されたエスタの襲撃の阻止、続いてのカムラドネの悪魔の塔の消滅の時期にその街にいたのがアキト様とルーミエさん、ユウキさん、ノイリさんの四名しかおらず、もしやと思いその後も追跡をしました」
エスタの時も初めての事ばかりで必死だったし、カムラドネではレイラを守ってやりたい一心で塔を破壊したっけ……。ほんの少し前の事なのにもう懐かしい気持ちになってしまう。
「あの双子の娘たちもダンジョンマスターとしてはかなりのやり手でしたね。わずか十五年で塔を二百層近くまで広げました。わらわのダンジョンと比べて、一フロアの面積は狭い部類に入るのですが、あの集客力は圧巻でした。冒険者たちへの宣伝方法がいいのと宝の出し方は大変参考になりました。……でも彼女たちは運が悪かったわ。アキト様の手にかかればあのダンジョンも一瞬でしたね」
「じゃあ、あの巫女の能力を奪うって話は嘘なのか?」
「はい。理由は何でもよかったのだと思いますが、軍隊まで動いたので”釣り方”としては大成功だと思います」
「すごい世界だね」と、レイラとノイリも自分たちのことだったのだが、改めて真実を知り、変なところで感心している。
そのおかげで俺たちは結ばれたのだから結果オーライなのだろう。
「ナリヤでの襲撃が起こる数日前にマークしていたアキト様、ルーミエさん、ユウキさんの記録がナリヤのギルドで発生した時に、間違いないこの人達はナリヤを救いに来たと確信しました」
カラルが止まらくなった……。
「どうやって移動したのか?これから起こる襲撃のために来ているのであれば、本当に襲撃を阻止することができるのだろうか?この人はなんのために戦っているのだろう?
討伐記録はほとんど残っていない。わざと報酬を受け取らないようにしている、なんて控えめなお方……。その強さは一体どのくらいなものなのかしら。想像は尽きませんでした」
ユウキがつられて語り始める。
「アキトは本当に強いよね……ナリヤの時に実感したよ。残党を討伐する時も、一瞬で相手に位置を把握して、お得意の火玉攻撃は、あたしがこれまで見てきた炎使いとは全然使い方が違うんだよ!なんていうのかな、ねぇ、ルーミエ?」
「そうね、構えない、無詠唱、消えない火玉。
そういうスタイルだから周りの者は誰がモンスターを攻撃をしているのか、さっぱり分かってなかったものね」
あんまり手の内をさらさないでほしいのだけれど……。
「大型ドラゴンも太陽のような火玉でじりじりと焼き尽くす。あれではいくら魔法が効きにくいドラゴンでも太刀打ちできないわ」
俺の強さ自慢がはじまり、目を輝かせて聞くカラル。
コース料理は終わり、店の上品な料理はおいしかったのだが、量が足りなかったので、店を出た後に追加で屋台街で買い出しをしてから宿に戻り、夜遅くまで宴会は続いた。




