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第三十九話 誤解

「ただいま戻りましたー」


 部屋のドアを開けて、皆に帰宅を告げる。


ルーミエが「アキトさんにお話があります」と、少しきつい言い方で俺のそばに来る。


 なになに、急に改まって、あ!分かった。前にもこういったことあったよな。


「お風呂でしょ?」


「違います」


 なんだか厳しい感じだな。レイラもユウキもノイリも不安げな表情なっているのは……まさかアレか?


「先ほどの宿の前までご一緒だったご婦人についてですが、ご説明いただけますか?」


 汗で気持ち悪くて風呂にも入りたいところだが、誤解を解いておく必要がある。


「話せば大変長くなるのですが……。知ってしまえばウソのような本当の話であり、また事実とは往々にして突拍子もない必然の重なりで成り立っているわけでして——」


「端的にお願いします!!」


 あ、説明に失敗した。まあ俺自身も途中から何言っているの分からなくなってきていたからな……。ん?レイラが完全に涙目だ。


「違うんだレイラ、これには色々と訳が——」と、言って肩に優しく両手を置く。


 すん……すんすん。匂いを嗅いでいるのか。


 あ、失敗とは重なることで致命傷となることに気が付いた。


「アキト、この甘い香りは?」


 カラルの香水が……。


「はい!初めから全て起こったことだけを伝えさせていただきます」


「「どうぞ」」と、ルーミエとレイラが同時に答える。


「昨日ダンジョンにいきました」


「知ってます」


「百二十層で仮眠をとりました」


「聞いています」


「最終百九十二層には何もなく、宝箱だけがあり、おかしいと思った俺は領域テリトリーで隠し通路を発見しました」


「それで?」


「隠し通路の先の部屋には北部にあるダンジョンを作った悪魔族が隠れていました。そのダンジョンは冒険者を呼び寄せ、精気を吸い取るための一種の工場のような働きを持っていることを教えてくれたのが、宿の前まで一緒だった、カラル、悪魔族、ダンジョンマスター、二百七十歳の女性であります。マム!」


 いや、悪ノリした……。寝不足気味でテンションがハイだからなのだろう。


「マム?……なんですかそれは?真面目にお願いします。あの方は一夜を共にしたご婦人という見解は間違いですか?」


 おいおい、えらくド直球な言い方だな。


「はい、間違いであります」


「それを証明するにはどのような手段をお持ちですか?」


「はい、カラル氏は王立魔法研究所の研究所員という仮の姿を持っています。色々な情報を手に入れることができ、また我々に有利にことが運ぶよう動いてくれる味方でもあります。後日、引合せいたします」


「やましいことは一切ないと誓えますか?」


「はい、誓えます!」


 それを聞いたレイラが正面から抱きついてきて、そして上目使いで「じゃあ、お風呂に一緒に入ろう……」と、顔を赤らめて言った。


 もう、いろんな展開に頭がついて行けないです。



 お風呂に少し熱めのお湯を張る。服を脱ぎ、かけ湯をしてお湯につかる。ふぅと一息ついたところで


「おじゃましまーす」


「やっほー!お兄ちゃん失礼するよー!」と、レイラと何故かユウキが一緒に入ってきた。


 タオルを巻いていて、少しほっとしたような、がっかりしたような気持ちだったが終始巻いてるわけでもなく。体を洗う時には取ってしまい、とてもとても良い目の保養となった。しかしこちらが収まりがつかず色々と大変だった。


 三人で湯船につかり、裸の付き合いという言葉の良さを実感できた時間だった。素晴らしきかなバスタイム。



 俺たちが出たあとにはルーミエとノイリが風呂に入っていた。昼過ぎだけれど、なんでみんな入ったんだろう?。


 ソファに深々と腰掛けて、領域テリトリーを発動する。偵察先はカラルが働いているという魔法研究所だ。高い塀に囲まれたその建物は、飾り気も何もない六階建てのほぼ立方体と呼べるような形をしている。塀の出入り口は正面と勝手口の裏門の二か所。門番がそれぞれ二名ずついる。やはり警護は厳重にしているようだ。建物には人が通れるような窓は無く、小さな光を取り込むための窓が無数にある。


 領域テリトリーを広げて、最上階からスキャンしていく。偶然にも最上階の六階の一室にカラルの研究室があった。彼女は今何をしているんだろうか?記録石よりも大きい石に表示されている文字をよんでいるようだ。


 集中しているようだが一人でいるため都合がいい。極私的絶対王国マイキングダムを発動させる。俺の声を部屋に届ける。


「カラル聞こえるか?」


「ええ?アキト様?何コレ?どうやっているの?」と、若干混乱気味だ。


「通信方法を決めておこうかと思って連絡しに来た。これは俺の能力の一つだ。紙と書くものあるか?」


「本当に覗きにきたのね、すごい!こんな魔法があるなんて……さすが私の夫になる方だわ。ああ、紙とペンね」と、言って机の引き出しからノートを用意してくれた。


 夫になることはあえて否定しない。


「できれば机の上に置いてもらえればありがたい。誰もこの部屋にいない時にこのノートに伝えたいことを書いておくよ。それと今日の夜か明日の昼か夜にカラルと一緒に食事がしたい」


 カラルは「?」といった表情で首をかしげる。


「うちの嫁と嫁候補たちが俺とカラルが宿の前まで一緒だったところを目撃して、浮気の容疑を掛けられてしまってね。怪しい者じゃないことを証明しないといけなくなったんだ」


「あらあら、とんだご迷惑を……。それでどういったお食事をお望みかしら?」


「せっかく王都まで来ているんだし、王都一うまい店に連れて行ってくれ、予算はいくらでも構わない。こちらの人数は五人だ」


「そうね。今日の夜の予約をするには時間が足りないわね、明日の昼にでも予約できるように今晩その店に行ってくるわ」


「うん、頼んだよ」


「お任せを……」


 細かい話は、皆がいる時でいいだろう。今のところの王が俺の情報を知っていて、これからカラルの情報工作でどれだけ興味をそらすことができるかがカギだ。王族に注目されながら生活をすると、自由が減ってしまうので、それが阻止できればいいなと考えている。


 意識を部屋に戻す。王との謁見は二日後だ。今日の午後、明日一日は余裕がある。


 ダンジョン攻略をライフワークに——なんて思っていたが、カラルの話からすると、悪魔族が運営するダンジョンもあるので、なんとなく魅力が半減してしまった感じがする。自然発生ダンジョンと悪魔族作成ダンジョンの見分け方も今度聞いてみよう。


 風呂上がりで喉が渇いていることに気づいた。冷えたジュースが欲しいな。とりあえず水生成でコップに注ぎ喉を潤す。アイテムボックス内にある用意していた食事はダンジョン内ですべて使ってしまった。


 晩御飯は宿で用意してくれるから食料補充も兼ねて、それまで王都を散策するか……。みんなに出かけることを伝えて、屋台街を軽く回ることにした。


 屋台街で冷えたフルーツジュースを数種類、屋台飯のおいしそうなものをこれも数種類を三食ずつ購入しておく。 俺の場合、他の冒険者と比べて移動距離が圧倒的に長い。また長時間、街を離れて戦うことも想定されるし、異世界転移で食料が手に入らない状況になることもありえるので、食料を一カ月分くらいため込んでおこうと思った。


 それにしても王都は本当に人が多く、明るくて、楽しい。犯罪も少ないのだろうか、みんなのびのび生きているように感じる。


 部屋に戻る前に宿の受付に立ち寄り、晩御飯の手配を美形エルフお姉さんにお願いする。しっとりとした落ち着いた声でちょっとしびれてしまった。


 楽しく部屋での夕食を食べて、みんなまったりしている。さてさてカラルの方はどうなってるかな?


 領域テリトリーで魔法研のカラルの研究室を覗くと、灯りは消えており、誰も残っていないようだった。灯りが消えているイコール文字が見れない。物体などは紙一枚の薄さも感じ取れるが、紙に書かれた文字までは読み取ることができない。


 まあ、これも経験して初めて分かったことだ。灯りをつけて警備に気づかれても面倒だし、明日でもいいだろう。


 テレビや漫画や雑誌が無いとやっぱり暇だな。皆との会話も一時間程すると話すことがなくなり、寝ることになった。


 男女が一緒に暮らしていて、暇な時間が多くなると当然することは限られてくる。その結果、人口は増えるってことだ。しかし、今の俺にとっては一緒に眠る女性は四人もいながらも、何もできない生殺し状態だ。早く眠ってしまおう……。


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