第三十七話 とあるダンジョンの終わりには
世の中は色々と試してみないと分からないこと、実際その場所に立ってみて初めて分かることも多くあるわけで、領域についても壁を透過できるのだから、当然床も透過できるということに百五十層にたどり着いてようやく気がついた。
領域を床に沈めていく……。一、二、三、四、五とカウントしていくと四十二までカウントしたところでその下の空間ではなくなった。
ギルドのおっさんが百層あるダンジョンを二十人パーティーで挑んだって言ってたな。百層攻略するのにどのくらいかかるのだろうか。ぞろぞろと歩いて進むとなると結構時間かかるよな……。
百五十九層の終わりで階段前に青いドラゴンが現れた。ここに来て初めてフロアボス的な存在の登場だ。極私的絶対王国で倒してもなんだか味気無いので、普通に倒すことにした。
一メートルの大きさの圧縮火炎球ので十個出す。
ドラゴンのブレス攻撃をされると逃げ場がないことに気が付く。しかしドラゴンはブレスを吐かずに突っ込んできた。全ての圧縮火炎球をドラゴンの体に当て、焼いていく。
着弾した時点で勝負はあった。その巨体はあっさりと倒れ、じたばたと足掻いていたが、動きが止まり、数秒後には消えてなくなった。フロアボスとはいえども実にあっけないものだがこれが俺の求める強さだ。
転生後、初めてこの世界での戦闘した時に比べると強さや自信もついた。
実戦を経験しアイディアが生まれ、魔法の使い方のバリエーションが増えるということも今回のダンジョンで実感し、何事もまずはやってみるということが大切だと学んだ。
ダンジョンを攻略することをライフワークにしてもいいのかもしれないな。
たいしたピンチもなく最終百九十二層に到達した。しかし大きなホールには敵の姿はない。 領域で周囲を探索すると奥に宝箱が一つあった、極私的絶対王国を発動し、トラップに備える。
古く大きな宝箱を念じて開ける。中には金貨や金塊、宝石などの貴金属がぎっしりと詰まっていて、とくに罠などは仕掛けられていなかった。宝箱ごと持ち上げて全てアイテムボックスに収納する。
これで終わりなのか?最終ボスはいないのか?
……何かおかしい。
宝箱を用意しました、どうぞお持ち帰り下さい。と、言っているようなものだ。百五十層から以降も百五十九層のブルードラゴン以外は大したモンスターが配置されていなかった。
領域を大ホールの縦と横の長さより大きく展開して、壁の向こう側も調べてみると、壁の向こう側に空間があることが判明した。
詳しく探ると偽装の壁があり、上や横など動くように念じてみると、手前に向かって扉が開いた。中は畳一畳分の空間しかなく、上へ続く竪穴になっている。
……どこかに通じているようだ。トラップかもしれないので領域で上の方を探っていくと途中に小部屋があることが分かった。
行ってみないと始まらないよな……。念のため硬化箱魔法で防御して竪穴をエレベーターのように昇っていく。
問題の小部屋の前に到着する。意外にも普通のドアがあって、取っ手を回すと鍵はかかっていなかった。中に入るとどこの貴族の娘が住んでいるんだというような豪奢で女の子らしい小物が多いファンシーな二十畳ほどの部屋がそこにはあった……。
むぅ……なぜダンジョンの最深部にこんな部屋が?理解を超えた空間が広がり、思考が一瞬停止する。
部屋の中に進んでいくと、ほのかに甘い香りがする。さっきまでこの部屋に誰かいたのだろうか……。そんな気がしてならない。
極私的絶対王国発動。部屋を隅々まで確認するとそこには透明人間がいる。体格からして、女性の様だが……。
マジか……ゾンビ系ならまだ免疫あるが、霊体的なものはダメかもしれない。
カマをかけてみるか……。
「おい、そこにいる奴、出て来い!手荒なことはしない」と、適当に声を掛けてみる。
「……本当に?」
返事があった……。
「ああ、嘘じゃない」
部屋の隅から、影が出てきて徐々に実態が見えてくる。金髪で褐色の肌の超グラマラスな女性だ。
凝視して分析能力を発動……。
◇ ◇ ◇
カラル:レベル495 悪魔族
180cm B93cm W63cm H99cm
270歳 ダンジョンマスター
◇ ◇ ◇
大抵の事では驚かなくなった俺だが、悪魔が目の前に居るとなると、それなりの緊張感をもって接しなくてはならないような気がしたが、見た目は小悪魔的ギャルファッションなので拍子抜けする。
「本当に戦う意思はないんだな?」
「はい、アキト様……」
俺よりも確実に強いであろう高レベルの悪魔族。しかも俺の名前を知っていて、状況は良いように思えない。今ならまだ引き返すことができるかな……。
「帰り道は、この竪穴の上の方にあるのか?」
「いやいやいやいや、なんで帰り道のこときいてるの?……わらわの話を聞いてよ」
「話が長くなると嫌なんだけど……」
「ん、だいじょぶ!」と、親指をグッと立てる小悪魔女子。なんだかノリが軽くて心配になってくる。
「俺にとって何かいいことある?」
「ある!」
「例えば?」
「わらわが嫁になる」
「嫁は一人と候補もいて、もう足りてるんだけど……」
「あ、あ、愛人でもOK!」
「いらない」
断りながらも良いかもしれないと一瞬考えてしまうほど美しく魅力的だ。
「うっ!じゃ……、じゃあ、アキト様のことを王都で隠すようにします!」
「?話が意味がわからないのだが……」
「アキト様はエスタとナリヤの英雄でカムラドネの悪魔の塔の攻略者で、遠夜見の巫女の近くにいる方なのでしょう?」
「どうしてそれを知っているんだ?」
「ちょっと話を聞いてくれる」
「ああ、すっきりさせてもらうよ」
「ヤダ、そんな急に……心の準備ができてなくもないよ。わらわがスッキリさせてあげる」
手で輪っかを作って縦に振る動きをやめろ。
「面倒くさいな。”もやもやしたまま帰れない、話を聞いて”って部分が言葉足らずだっただけじゃないか。疲れてるんだから帰るぞ!」
「待って待って。溜まっているのかと思っちゃって……。嘘、うそ、ちゃんと話しますぅ。いかないでぇ」
演技なのだろうか……泣いている素振りで足元に絡んでくる。
「わかったから、話をしてくれ」
側にあるソファに腰掛ける。
「わらわは名はカラル、王立魔法研究所の研究者として働いているの。主に記録石のログの管理や地脈の有効活用について研究しているわ。それで、先日のエスタ、カムラドネ、ナリヤのそれぞれの記録石情報からアキト様のことを割り出したの」
ギルドでもらった討伐情報を思い出す。
「じゃあ、王都ギルド情報部に情報提供した関係者ってのは、お前か?」
「うぐっ!そうです。ごめんなさい。そんなことまで読んでいるとは……」
「好きなんだよ討伐情報!……で、バレるとどうなるんだ?」
「遠夜見の巫女の謁見で王都へ来ることはわらわから上司を通じて魔法研上層部へ、そして王に伝わっているので、並外れた移動能力と討伐のことでアキト様に対して身辺調査があると思います」
「調査って具体的には?」
「監禁と拷問でしょうか……」
「沸点低いな!やるならこっちも応戦しちゃうよ」
俺のことはともかく、みんなに迷惑をかける訳にはいかない。それにしても面倒なことになってきてるな。
「それは置いといて、なんで俺の嫁になりたがるんだ?」
「ちょっと話長くなっちゃうので、お茶でもいかがですか?」
「毒とか盛るんじゃないのか?悪魔族なんだろ?」
「どうして悪魔族ってことがバレてるのかしら?うーん、わらわのことを信じてもらうには——。じゃあこの人形をアキト様に捧げます」と、いって二十センチくらいの女の子の人形を俺に見せる。
「それは一体?」
「それでは少し失礼して」と、言って椅子に座りブーツを脱ぐ、脚を抱えて足の指をこちらに向けるが、スカートの奥が見えているぞ。と言おうと思ったその時——
「少し傷物になっちゃうけど、しょうがないかな……」
独り言をつぶやき、小さな人形の精巧にできている足の小指をハサミで切った。
「ぐぅっ……」と、漏れる声と同時にカラルの足の指が切れて落ち、血が流れだす。
「この人形はわらわの分身。ご覧のとおり、傷を入れることでわらわの体にも傷がはいるようになっているの。つまり私の小指はすぐに治癒魔法を施さない限り元に戻ることはないわ」
突然のことであっけにとられている俺に対して、苦痛に歪む顔で説明している。そこまでして信頼を得たいのか。
差し出す人形を受け取る。
「少しは信頼するよ、話を聞こう。……その前に治療だな」
「ありがとう」
彼女の前に跪き、切れている部分に手をかざし、治癒魔法を施すと欠損していた足の小指がもりもりと生えてくる。
俺なら跪いて治療せずともその場で念じるだけで治せるのだから下心はないといえば嘘になる。色々と近くでその……太ももとか見たかったのだ……。
カラルが言うとおり溜まってるのかもしれない。若いんだからしょうがないでしょー。
だが丁寧な動作が逆に好感を持たせたようだ。
「え?止血くらいだと思っていたのだけれど、復元できるのアキト様?」
「どうだ具合は?」
カラルはクニクニと足の指を動かす。
「すごい、元通りになっているよ」
「それじゃあ、話を聞かせてくれ」
なんだか表情がうっとりしてるんですが……。




