第三十三話 慰労会
ずらりと並んだ豪勢な夕食は帰ってくることを伝えたらレイラが用意してくれたそうだ。食事の前にレイラが労をねぎらってくれる。
「アキト、今回もお疲れ様でした。それじゃあ一言お願いします」
「おおぅ!!何その振り。…一言いる?」
「うん」
満面の笑みのレイラには逆らえない。レイラ、ルーミエ、ユウキ、ノイリの他にも執事さんやメイドさんもこちらを注目していて緊張してしまう。
俺の活躍が広まって、面倒ごとが増えて困るので「外部の人には絶対に漏らさないようにお願いしたいのですが……」と、前置きを入れる。
「巫女の力は本当に素晴らしい力だと思ってる。今回のナリヤ襲撃は街には多大な被害がでたけど、先に分かっていたからこそ、食い止めることができたと思っています。詳細の報告は後ほどしますが、これからもこの世界のために力になりたいと思うので、よろしくおねがいします」と、感想とこれからの俺のやりたいことを素直に伝えた。
パチパチパチと拍手をもらい夕食が始まった。
□
おいしい食事もほとんど平らげて、お酒もずいぶん飲んだ。給仕をしていたメイドさんたちは引き上げてレイラ、ルーミエ、ユウキ、ノイリと俺の5人だけになっている。
酔っているユウキがナリヤでの俺の武勇伝を語り始めた。
「あたしもルーミエもあの時は逃げたい気持ちで一杯だった。でもアキトが『この街を放ってはおけない、俺は戦う。キリッ!』って言ったんだよ」
ノイリをユウキに見立てて、ユウキ自身は俺を演じ、開戦直後の魔法陣に飛び込む前のやり取りを再現している。
「引き留めるあたしたちにアキトはさらにこう言ったの『ごめんな、どうしても行かなくちゃならないんだ。でも、戻ってこれたら……結婚しよう!』」
待て待て、それ死亡フラグだから!どんだけ改変してんだよ。
「俺、そんなこと言ったっけ?」
そんな突っ込みはスルーしてユウキはさらに続ける。
「その時にあたしとルーミエに婚約の証として渡してくれた剣がこちら!」
そう言って誇らしげに業物ロングソードを取り出した。
「えっ!?え~…アキト結婚を申し込んだの?」
レイラがちょっと怒っている。ルーミエやユウキには手を出しても大丈夫って言っていたけど……焼き餅をやいているのかな?
酒が入って楽しいからいいけど、ユウキは話を捻じ曲げすぎだ。
「まあまあ、色々と突っ込みどころが多い再現劇だったけど、事実はちゃんと話すよレイラ」
「もう、あとでちゃんと教えてよね」
ユウキがふくれっ面になっているレイラ俺との間に割って入る。
「お二人さん、このあと二人きりの時間なんてあると思っているのかな?ふふふふ……」
不敵な笑みを浮かべるユウキさんであった。
それからは俺が魔法陣の向こう側の異世界で体験したことを話した。
地を埋め尽くすモンスター軍団対俺とアズアフィア、ゴールジュ、シルヴィの三体の霊格の炎による殲滅作戦を伝える。俺は上空からの攻撃だったし、十万という数の割には苦労しなかった。
「いつの間に、青い炎”さん”以外を仲間にしたんですか?悪魔の塔の時にはいなかったですよね?」
炎に”さん”づけってノイリらしいな。そういえばルーミエ、ユウキ、ノイリには説明していなかったか……。
「そうなんだ、ここを出発する前に色々と試していたらアズアフィアが紹介してくれたんだ」
「私もそんな強力な炎さんたちとお友達になりたいな~」
「どんな条件が必要なんだろうな、わかったら教えてあげるよ」
「ノイリ、多分ね、底知れない基礎魔力と潜在能力が必要だと思うよ。魔術関係の書籍や経典なんかにたまに出てくるんだけど、扱える人物はその時代に数人しかいないの。だから難しいかもしれないよ」
「そうでしたか、ちょっと残念ですぅ~」
そして今の俺よりも格段に強い魔人という存在がいて、一歩間違えば死んでいたかもしれないということをみんなに話した。
「そんなに強いの?……悪魔族や竜人族以上の強さがある敵が出てくるといえばあのお話よね?」
「「「「ラッテの冒険」」」」と、四人の声を揃った。
小さい子供から大人まで楽しめる絵本だったり、書籍になっている有名な話なんだそうだ。そのあまたある冒険話を聞いてみんな子供の頃は冒険者に憧れたそうだ。面白そうなので、今度本屋で探してみよう。
戦いの中での霊格の炎の負傷、腕を飛ばされるなどのぎりぎりの攻防があったことを伝える。
「え!アキトは腕を切断されても大丈夫なの?」
レイラを始め、ユウキやルーミエも驚いている。
「ああ」
「どうして!?」
「そういう回復魔法をかけておいたから?」
「自分の能力に疑問形ってどういうこと?まさかアキトはヴァンパイア系なの?」
素直に答えてみたものの、全然伝わっていない。
「いや、そういうのじゃないんだけど——」
答えに困っていると
「じゃあ、どういうことか体に聞いてみましょう」と、言ってルーミエは俺の胡坐で座っているところにまたがってきた。
怖いよルーミエさん……。
「冗談でしょ?」
「ええ、冗談ですわ。それとこれは感謝の気持ちです」と、対面でそのままぎゅって、抱きつかれてすりすりされた。柔らかくて大きいものがたぷんと俺の胸に当たる。気持ち良い……。
あ、いや、ちょっとやばい。レイラが涙目になって顔が真っ赤になってる……。どうしよう。とりあえず頭を撫でてレイラをフォローしておく。
みんな酔っているので、話がなかなか前に進まない。
「あと、転移魔法も使えるようになった」
「「「「ええ~~~!!!」」」」
ここはダイレクトに伝わって、やっぱりそういう反応になった。レイラが次々に質問をしてくる。
「この世界にはない魔法だよ。どうやったら習得できるの?」
「それは俺にもよくわかっていないんだ」
願ったら備わったってのもまだ言えない。
「それで転移魔法でどこでもいけるの?」
「正確には異世界転移魔法だ。異世界に行くための魔法だから、この世界の中だけの移動はできない」
「でも異世界に行っても怖い思いするだけだよね?」
「使用時にはリスクもあるけど得られるメリットも大きい。例えばカムラドネから異世界へ転移する。そうすると異世界からこちらの世界の行ったことのある街、ナリヤやカムラドネを指定して転移すると転移魔法と同じことができる。リスクはさっき言った魔人に遭遇するかもしれないということがあるけどね……」
「「「「………」」」」」
もはや四人とも絶句している。
「それじゃあ、最後に面白いものを見せてあげるよ」
指を鳴らし、極私的絶対王国発動。
「はい、これでこの部屋は俺の王国になりました」
レイラが「じゃあ私は女王様?」と、楽し気に聞いてくる。
「まあそういう事にはなるのだけれど、ちょっと違うんだ例えば——」
皿の上にある、ケーキを一口大にカットしてノイリの口に運ぶことをイメージする。
するとケーキが勝手に一口大に分かれて、空中をふよふよと漂いノイリの口の前で止まっている。
「はい、あ~ん」と、言うとノイリは口を開いたので中に入れる。ちょっと大きかったようでノイリはモゴモゴしている。
「どう、すごいでしょ?」と、自慢してみたものの、他の三人も同じく”あ~ん”のポーズで待っているのでそれぞれの口にケーキを放りこむ。燕の親にでもなった気分だ。
ようやく口の中が空っぽになったノイリがすごい勢いで問い詰める。
「何ですかこの魔法は?」
ノイリの口の端についている生クリームをすくって舐める。かなりの恋人的行為だが誰も何も言わない。
「箱魔法の進化形だよ、この空間は俺の王国、絶対的支配者は俺でみんなは俺の言うことに絶対従わなければならないって魔法だよ」
「ちょっと、アキト。言っていることがなんだか、とってもいやらしいのだけれど……」と、ルーミエに突っ込まれた。
「それは使う人の気持ちしだいさ。この魔法は用途の幅が広い。ナリヤでは五つある教会で状況確認と負傷者の治療を宿にいながら実行できたし……」
「あ~、あの時の嬉しそうな顔はそういう事だったのね。それにしてもアキトの能力は神がかってるわね」
そのあとは極私的絶対王国の使い方について、みんなで案を出してもらったりして、さらに宴会は夜更けまでぐだぐだと続いた。
□
翌朝、同じベッドの中ではレイラが気持ちよさそうに寝息を立てて眠っているのを眺めていると帰ってきたな~という実感がわいてくる。
急にパチッと目があいたので、びくっとなるくらい驚いてしまった。レイラはそのまま俺の手を握って起きるように無言で促してくる。ルーミエ、ユウキ、ノイリも近くに寝ているので手をつないだまま静かに部屋を出て、レイラの部屋に移動する。
レイラの使っていた部屋は現在の巫女であるノイリが使用している。レイラは客室の一室を使っていて、書物などもほとんどなくシンプルだった。
「やっとアキトと二人きりになれた」と、部屋に入るなり、長い口づけを交す。
レイラも寂しかったんだな。
「ごめん、色々心配かけたね」
「ううん、こうして帰ってきてくれたから帳消しにしてあげる」
さらに唇を重ね、それから小一時間ほど二人でいちゃいちゃしました。




