第三十一話 守ることはできたけど……
風呂から上がり、さっぱりした気分でリビングのソファに腰を掛けて、冷えたフルーツジュースを一気に喉に流し込む。さてこれからどうしようか……。
風呂場で開発した極私的絶対王国の練習もしたい。ちょっとした小競り合いからボス討伐まで用途は広いので、使い慣れておきたいところだ。
そうださっきは簡単な報告だけで終わってしまっていたので、もう一度レイラの声を聞きたい。
通信指輪に向かって、話しかける。
「レイラ……。聞こえる?」
「……聞こえるよ。昨晩は大変だったね。お疲れ様でした」
「本当にいろいろあったよ。でも来てよかった。街には甚大な被害は出たけど制圧されずに済んだ」
「うん」
「いっぱい死人が出たと思う」
「でも、それは……」
「俺が背負うべきことじゃないな」
「うん……」
「……」
黙り込んでしまった俺に気をきかせて話題を変えてくれた。
「えーとね、これからのこっちの予定はね。国王への巫女の世襲のご挨拶をしに首都まで行かないといけないんだよ。前回お会いしたのはもう十五年前のことだったから、どんな挨拶したのかなんて忘れちゃったわ。でもまあ、国と爺やが調整してくれているから、心配ないんだけどね」
「へぇー、そんな儀式があるんだ。いつ向かうの?」
「ナリヤの神託があって、軍隊がらみでバタバタしていると思うの。まだ日程は決まっていないけれど、近々使者の人が来て決まるみたいよ」
「そうか」
「アキト、元気出してね!」
「ありがとう」
あとは他愛のない会話をして通信を切った。なんか気を使わせてしまったな。そうならないためにも俺はもっともっと強くならないとな。
ルーミエとユウキはまだ眠っているようだ。
ギルドにでもいってみるか……。
最近この世界の唯一の情報誌的な存在であるギルドで記録石に配信される情報が最近は楽しみになってきた。主に討伐関連と冒険者向けの情報だけしか掲載されていないけど、イベントや生活情報などの新聞と折り込みチラシ的なものも出してくれたらいいのにと思ってしまう。
それでも今日は襲撃があったばかりで、報酬受け取りでカウンターは混んでいるかな?そうだ、領域発動。
ギルドに届くまで魔法を広げたあと、ギルドホール内に限定して縮小させる。予想通りギルド内は冒険者たちでごった返している。
目をつむり意識を集中することで冒険者たちの表情が見え、会話も聞こえてくる。報酬受け取りを急かす奴、報酬を受け取ってお気に入りの娘がいる店に向かう話。魔法陣が消えた理由を仲間と推測する声。魔法陣がすべて消えた後に街に残ったモンスターを倒した謎の火魔法の話。
まるでギルド内にある椅子に腰かけているような感覚だ。……あ!これって、完全な覗き魔法じゃないか!!!パネエな箱魔法……。
さらにさっき風呂で考えた極私的絶対王国に切り替えることで、その場のすべてを自由にできる。体感する者にとっては、まさに超常現象、奇跡体験。神でも悪魔でも演じることができてしまう……。
使い道が多岐にわたりすぎて、ちょっと興奮してしまった。
再びギルドへ意識を戻す。今回の襲撃で怪我を負った者を憂いている話、教会で治療を待っている者を心配する話も聞こえてきた。
教会で治療しているんだ。
えっと、教会はどこにあるのかな……。街全体に領域を広げる。
五か所あるな……。一つの教会に意識を向ける。外まで治療を待つ者で溢れかえっている。どうやらベッドも全て埋まり、治療薬と魔力の枯渇でその対応に困っているようだ。
改めて大惨事だったということを感じる。ともかくじっとはしてられない。
極私的絶対王国発動。傷を負ったものに癒しを……回復魔法、発動。
MPを700くらい消費したのと同時に頭痛が俺を襲う。いたたた……。
”魔法威力”を超える魔力消費を一回で発動すると頭痛が出ることをついつい忘れて発動してしまった。
現在のステータスは
◇ ◇ ◇
Lv256 HP2560/MP2560
強さ:1190 守り:100 器用さ:1200 賢さ:270 魔法耐性:300 魔法威力:500
ボーナス:0
◇ ◇ ◇
器用さを500にして余剰分を魔法威力に振り、1200にする。
俺自身に回復魔法をかけ、頭痛を取り除く。
◇ ◇ ◇
Lv256 HP2560/MP2560
強さ:1190 守り:100 器用さ:500 賢さ:270 魔法耐性:300 魔法威力:1200
ボーナス:0
◇ ◇ ◇
さて、教会内の様子はどうなったかな?
治療待ちの三分の一は回復しているようだ。一分でMPは満タンになるのでMPを抑えながら治療を継続する。
教会内は突然の負傷者の回復に騒然としていて、神のご慈悲だ、奇跡だと騒いでいる。
これで声を響かせたら完全に神になってしまう。別に神とか英雄とか救世主とかになりたいわけじゃないが、人が喜ぶ姿を見るのは好きだ。
残りの教会でも同じことを繰り返した。
いい仕事したな……。ちょっと疲れたが心地よい余韻に浸っていると、ルーミエが寝室から出てきた。
「どうしたの、嬉しそうな顔をして。レイラと話でもしてたの?」
「それもあるけど、なんか人の役に立つっていいことだよな……」
「話の展開が見えないけれど、アキトの嬉しそうな顔を見るのは好きよ」と、言って俺の隣に隙間なく座る。
距離が近いんだけど……。そして綺麗な顔が近づいてくる。
ドキドキ……。
「……ねえ」
こ、これは、告白か!?
「お風呂入れてくださる?」
ですよね~。
「いいよ、さっきまで俺が入っていたから、ちょっと待ってね」
「ほんとだ。良い香りがする~」と、抱きつかれてしまうと風呂場にいけなくなった。無理やり引き離すのも、もったいないし——。そうだ、極私的絶対王国発動。
目をつむり、風呂場へ意識を集中する。
湯船の栓を抜き、軽くお湯をかけて汚れを取る。スポンジでこすれたらいいが、今はそこまでできないので栓をして再びお湯を張る。温度も適温なのを確認した。
作業が終わり、視点を自分のいる部屋に切り替えて、今の状況を俯瞰視点で見る。目をつむり魔法に集中している俺と抱きついているルーミエの姿がそこにあった。
目を閉じている俺に対してルーミエが顔を赤らめて、キスをしようかどうしようか本当に迷っているようだ。かわいいな。
風呂のお湯の入れ替え作業も終わったし、そのお駄賃として、ルーミエをきゅっと抱きしめた。
「きゃっ」と、小さな悲鳴を上げる。
「お風呂の準備が整いましたよ、お嬢様」
「え?どうやって?」
「魔法で」
ルーミエは首をかしげる。
見て確かめるの一番ということで「じゃあ、お風呂場に行こうか——」と、言って起き上がる。ルーミエの顔がさらに赤くなり、もじもじしている。
「……え?一緒に入るの?」
「あ、いや、それは——」
訂正しようとしたところに「一緒にお風呂入るならあたしも入るー!」と、ユウキが部屋から飛び出てきた。
もう本当に三人でお風呂に入ってもいいかな?




