第三十話 襲撃 その三
「ルーミエ、ユウキ帰ってきたぞ」
通信指輪で呼びかける。
「「アキト!!」」
ルーミエとレイラの声がシンクロした。
「大丈夫か?」
「こっちは無事よ。アキトの方こそ大丈夫なの?」
「ああ、色々あったがなんとか帰ってこれた。これから合流する。今どの辺にいる?」
「中央塔よ」
「わかったすぐ行く」
レイラもおそらく聞いているのだろうが、こちらでのやり取りを優先して最初の一言以外、口を挟んでこない。よくできた良い子だな。
箱魔法で街の中心部を目指しながら、辺りを見回す。戦況はどうなっているのだろうか……。魔法陣を減らしながら戦っていたが、それでも三時間近く開いたところもあるので結構なモンスターがこの街に降下してきたに違いない。あちらこちらで炎と煙が上がっている。
俺の殲滅作戦は成功して、上空の展開されていた魔法陣は残っていない。あっちの世界で倒したのがすべてだったのだろう。
中央塔付近に行くとワイバーンとドラゴン、サイクロプスなど大型種の十数体がで暴れているのが見えた。
路地裏に着地して走って向かう。
確かに防衛軍の魔法攻撃や弓矢攻撃は当っているのだが、倒すにはまだまだかかりそうだ。
それでもさっきの魔人に比べれば威圧感は感じられない。さっさと倒してしまおう。圧縮火炎球を十個展開する。
爆発はさせずに着弾状態で圧縮火炎球の高温を維持し、接触部分を焼いていく。モンスターは倒れ、ぴくぴくと動いていたが、動きが止まるまできっちり焼いておいた。
例によって誰が倒しているのか詮索しているようだが、俺も一般冒険者を装い、知らない振りしながらもその場にいるモンスターをすべて倒す。
領域を二百メートルほどの大きさで展開すると2人が見つかった。
「おーい」と、手を振る。
「おかえりアキト!」
二人は駆け寄ってきて、ルーミエが抱きついてきた。
「心配かけたな」
「本当よ、転移魔方陣逆走するなんて……。通信もできなっちゃうし、生きた心地しなかったわ」
「悪かった、早速だが戦況を教えてくれ」
「お兄ちゃんには全く反省の色が見えないな~」
ユウキが後ろからおぶさってきた。
「ごめんごめん」
「無事で本当に良かった。”なんでも言うこと聞くから”の約束をこれで守ってもらえるね。えへへへ……」
そんな約束もしましたっけね。
群衆から離れ、ルーミエが戦況を教えてくれた。
「アキトが魔法陣に飛び込んだあと、近くにある魔法陣が次々に消えていくことでアキトがあっちの世界で頑張っていることは分かったわ。それでも離れた魔法陣からは降下してきてるようだったけど……」
おそらくすべての魔法陣を維持できないと判断して、早くこちらの世界に送り込むことを優先させたのだろう。
「まだ他の地区ではまだ多くモンスターが残っているよ」
「よし、それじゃあ残党狩りに行こうか!」
領域を街全体に広げ、モンスターが暴れている方へ走って向かう。
移動しながら、食料と水分を流し込む。いくつかの現場に行ったが、どの現場も大型のモンスターに手こずっているようだ。
圧縮火炎球を出して、敵を焼いてまた次の現場へ向かう。
何度か繰り返して、街全体をテリトリーで覆い敵がすべていなくなったことを確認できたのは、夜が明ける頃だった。けだるい感じは残ったがやり遂げた感が大きい。
街中の建物の半分は倒壊しているが、防衛軍や街の人たちは喜びあっている中を重い足取りで宿に向かう。
俺たちの宿泊している宿屋はなんとか無事だったようで、店の主人は生き残ったことを祝福してくれて、街のために戦ってくれたことを大変感謝された。
復興にはかなりの時間がかかるんだろうな……。
部屋に戻り、レイラに完了報告をした後ベッドに入り爆睡した。
目が覚めたのは昼過ぎだった。まだ寝たりない感じがするが、目が覚めてしまったので起きることにした。
ルーミエとユウキはまだ眠っているので、起こさずにベッドから抜け出した。
部屋についている水浴び場に向かい、風呂の準備をする。
カムラドネで購入した湯船を出し、水生成魔法と火魔法でお湯を注ぐ。いい湯加減だ。
のそのそと服を脱ぎ、お湯につかって足を延ばし、ぼーーーーーっとする。
至福のひと時だ。
しかしぼーーーーーーっとするのも束の間、やはり昨晩のことを振り返ってしまう……。
魔人という存在。今思い出しても、全く歯が立たない敵だった。あれだけ強い奴らがごろごろいる世界からの侵略であれば、負けてしまうな。それでもこちらには魔人の一体も来ていなかったようにおもうのだが、どうしてだろう。
あんなに強いのがこちらの世界に出て来たら、どこの国もひとたまりもない。ひょっとしてもうこの世界には魔人は存在しているのか。それとも魔人の強さと渡り合うような存在がこの世界にはいるのだろうか。俺ももっと強くならなければと感じた戦いだった。
そして異世界転移魔法。文字通り異世界を転移する魔法で、魔人のいる世界とこちらの世界を結ぶ魔法だ。
異世界転移魔法を念じてみる。
枠で囲われたAR表記で行先が表示される。
◇ ◇ ◇
異世界転移魔法
行き先
ネデバ
◇ ◇ ◇
ナリヤ
◇ ◇ ◇
おそらく魔人のいる世界のどこかの街なんだろう。その下には選択できない状態でナリヤが表示されている。どうして使えるようになったのか推測してみる。
異世界転移魔法がほしいと願ったのが、ナリヤに来てからだったから、ナリヤしか表示されていないのだろう。
魔人との戦闘中に急に使えるようになった理由は?
……これまでは一晩寝れば、願った能力が朝には付与されていた。今回は願った翌日には能力は付与されていなかった。
異世界の魔人との戦闘中に付与されたということは……
◇ ◇ ◇
①異世界の転移先の地に行かなければ得られない能力。
②たまたま魔人との戦闘中に1日の内の能力付与時間に達したので付与された。
◇ ◇ ◇
以上、の二つの条件がそろったことで付与されたのだろう。まあ、そんなところだろう。
偶然とはいえ、本当に奇跡的なタイミングだった……。
ほぼ俺の思い通りになるこの世界だが、俺の強さより、かなり上を行く強さを持った奴らに勝つにはどうしたらいいのか?
目をつむり瞑想するように自分に問いかける。
箱魔法の使い方についてもまだまだ改良の余地はありそうだな。もっとでたらめな設定をイメージすればいいのだろうか……。
ゆっくりリラックスしながらイメージを膨らませる。
絶対的な力がほしい。
限られた空間でも構わない。
自分の領域?領地……。国……。王国……。
自分の王国……。絶対的支配者。身動き一つも俺の意思一つで決まる。そう、その一呼吸でさえも——。
この箱の中は俺の王国だ。俺の意思は絶対だ。……極私的絶対王国——発動。
領域と変わらない。五メートル四方の無色透明の箱ができた。
アイテムボックスから金貨を1枚取り出し投げると空中を金貨が移動する感覚が伝わってくる。
箱の中にとどめるイメージをする。
落下する重力に反して金貨は箱の中でピタッと止まった。マジックみたい。飲み屋でやったら女の子に受けそうだな。あとで、ユウキとルーミエに見せてやろう。
物理的法則を無視できるので、相手の動きを止めることはもちろん、その呼吸さえも止めることも可能だろう。
そして魔法を使えないようにすることも、生物的にも死をイメージすることで中にいるものは死ぬだろう。おそらくそういう魔法にできたはずだ。
これから実験は必要だが、強力な力になることは間違いない。これならあの魔人にも対抗できるかな……。
まさか風呂の中で魔法開発するとは思わなかったな。




