第二十一話 宴会とその後に
悪魔の塔をぶっ潰したその日の晩は、レイラの屋敷で豪華な食事が用意され宴会となった。宴会場は絨毯の上に低いテーブルをおいてのお座敷スタイルだ。こんな部屋まであるなんて、本当に豪華な屋敷だと感心してしまう。
準備が整い、レイラが立ち上がり、乾杯の挨拶を始める。
「それでは、アキトによる悪魔の塔の攻略成功と私の延命を祝っていただきまして……かんぱーい!!」
面白い挨拶だな。
今回の悪魔の塔攻略は思い付きでやってみたものの、うまくいって、レイラを救うことができて本当によかった。
ルーミエが葡萄酒をグラスに注ぎつつ「今回もお疲れ様、アキト」と、労をねぎらってくれた。
「あんなふうに魔法使う人初めて見たわ。あの青い炎はどうやって会得したの?」
「えーと……エスタの時に魔導士がいたんだけど、そいつの出す炎が俺の炎よりも火力が強くてね。もっともっと強い炎がほしいって思いながら、強い炎をイメージしたら、その思いにこたえてくれて、青い炎が出てきたって感じかな」
「聞いていると簡単にやってのけたように聞こえるのだけれど、怖くないの?」
「恐怖ははいつも感じているよ、でも倒したいって気持ちの方が強いからそれでなんとか戦えているのかもしれないな。もっと修行が必要と思っているよ」
ルーミエと会話をしていたら、突然後ろからユウキ抱きつかれる。
「まあまあ、そんな堅苦しい戦いの話なんかしてないで、ユウキとお話ししようよ~」
「ちょっとユウキ、もうそんなに酔っぱらって……ゴクゴクゴク……」
対抗しているのかルーミエもグラスを一気に飲み干した。
「ルーミエ!そんなに一気に飲まなくても……」
「いいえ、ユウキにもレイラにも負けてられないわ!」
あれ、レイラに対して”様”をつけてないよな?
ユウキは俺にくっついたまま話を続ける。
「お疲れのアキトにね、何ができるかな~って考えたんだけど、肩もみ?全身マッサージ?お風呂でのお背中流し?あたしができるのってそれくらいしかなくてぇ~。だからね、今度全部してあげるけど、今日は何をしてほしい?」
酔っ払っているとはいえ、一緒に風呂に入ってお背中流しだなんて……。若い男女二人が風呂に入って、背中流しだけで済むはずなんてないだろう……。今度全部してくる!?っていつだ?
妄想が止まらない。ってなんだこの唐突な質問は!……ん?他の三人がこちらを見ている。……何か言わなければならないのか?
「……じゃあ、肩もみで」と、紳士的な回答をしたチキンな俺だった。もっと攻め込むべきか、いや、みんなの視線が怖い。
「はい、肩もみ!いただきました~」
それでも、ユウキは嬉しそうに肩もみを始める。もみもみもみもみもみもみもみ……。
「あ、ありがとうユウキ。気持ちいいよ」
「えへへ、褒められた~~」と、喜び俺の首におぶさり、離れないので、背中に押し付けられる柔らかい感触を堪能する。
そこにレイラが料理を持ってきて俺の目の前に座る。さっきまで服を着ていたのにいつの間にか脱いでる。屋敷の中限定のビキニ姿になっている。これはいい目の保養だ。
そして料理をスプーンにすくって、俺の口元まで運んでくれる。
「ふぁい、アキト。あーん、ちてください……」
なぜその口調!?
「あーんでちゅよ、アキトたん」
ちょっと困り顔になったので、慌てて大きく口を開ける。
「あーん……もぐもぐもぐ、ん!?うまい!」
「やった!」
満面の笑みで、別の料理を口に運んでくれる。
「あーん。これもとてもおいしいよ」
「ふふふ、これ私が作ったんだよ。いいお嫁さんになれるかな?」
「な、なれるんじゃないかな。こんなにおいしい料理作ってもらえるなら、結婚相手も嬉しいだろうな~」
「うふふふふ、嬉しい。ありがとう。アキト」
顔を赤らめて喜んでいる。
ルーミエが葡萄酒の瓶をドンと床に置く。
「アキトはどんな女の子が好きなの?例えばこの4人でいえばだれが好みのタイプに近いのかしら?」
ルーミエさん目が座ってますよ。……おこなの?
「えーと、ノイリは素直でいい子だし、ユウキは人懐こくて、妹みたいな感じだな。ルーミエはしっかりしていて頼りがいがあって、レイラは料理上手だよな……」
みんな見た目も性格もかわいくて、スタイルもいい。みんな好みだと言いたいがグッと堪える。
「それはつまり誰が好みなの?」
「言わなきゃダメか?」
「言ってください」
うーん、どうしたらいいのかな?
「はいはい、そこまれれふよ…」
ノイリが横に来てぺたんと座り込んだ。
「アキトしゃんはね。みんなのアキトしゃんなんだから……むにゃむにゃ………」
眠いのかノイリは俺の足を枕に眠ってしまった。
こうやって女の子たちがすり寄ってきて、ちやほやされる宴会は楽しいし嬉しい。
行ったことないけど、ひょっとしてキャバクラってこんな感じなのかな?元の世界の男性たちがハマるのもうなずける。
こうしてボディタッチ多めで俺を取り合うような宴会が夜遅くまで続いた。
□
飲みすぎでいつの間にか誰かの部屋のベッドで寝てしまうのは毎回のこと……。誰かが俺の肩をゆすって起こしている。
レイラだった。
「しぃ~、静かに」
そう言って人差し指を口に当てる。
「アキト、連れて行ってほしいところがあるの」
屋敷の外に出て、まだ日の昇らない真っ暗な闇の中、箱魔法を展開するようにお願いされる。
「わっ、寒いなー」
宴会のときのビキニの格好で出てきてしまったようで、寒いのは当然だ。
「その格好じゃ寒いだろ。ほらこのマント使って」
「わあ、やさしいなアキト。ありがとう……。それじゃあカムラドネ山頂までお願いね」
「いいね、日の出を見に行くんだな、少し飛ばすぞ」
箱魔法に乗り込み飛び立った
「いい能力だね」
「……この箱魔法のことか?」
「うん。箱魔法はとても便利だね、それに炎魔法はすべてを焼き払う力を持っている。アキトは勇者様みたいだね」
「そう言われればそうかもしれない。それで、この世界には勇者は存在するの?」
「いないよ。おとぎ話の中のだけだよ。人々を悪の手から守る、よくある話だよ」
「どこの国でも同じなんだな」
「でも私にとっては勇者様だよ……」と、レイラは呟いた。
空が白んでくる中、頂上に降り立つ。
山頂からカムラドネの街が一望できる。外敵から守るため壁で囲まれた街は発展していてかなり大きい。
冒険者たちが多く滞在していて街は裕福な方なのだろうか、来たばかりだが活気があることは感じられた。しかし悪魔の塔が無くなったら冒険者がいなくなってしまうかな……。
二人で並んで、日が昇る方角を見ている。雲ひとつない空、地平線から大きな太陽が昇ってくる。
とても美しい。そう言えば前世を含めて、今まで日の出を見るために山に登ったことなんてなかったな。
じんわりと日の光の暖かさを感じ始める。
「アキト、本当にありがとう」
日の出の美しさに見とれていたので、その言葉を聞いてレイラが近くにいることを感じ、横を向いた瞬間、唇と唇が重なった。
「……私からのお礼の気持ち」
「……」
レイラと正面に向き合う……。
「悪魔の塔が無くなったことで私は生き延びることができたわ。この命はアキトに救ってもらった命だから、私のすべてはアキトのものだよ……。ずっとずっとアキトと一緒にいたいの。……だからアキト、私と結婚してほしい」
お付き合いする段階をすっ飛ばして結婚というゴールに辿り着いてしまう、思いがけない告白で言葉に詰まるが、素直に思ったことを伝える。
「……ありがとう。その気持ち嬉しいよ」
彼女の腕が俺の首に回されて、もう一度唇を交す。今度は長く……舌を絡める……気持ち良く、夢中になってしまう。
「これからまた旅をつづけるんでしょ?」
しばらくしたあと、これからのことを聞かれる。
「ルーミエとユウキの国に行くことを約束はしたけれど、いつになるかわからないんだ」
レイラとたった一日の間だが、接してみて彼女の性格や見た目は俺のストライクゾーンのど真ん中で、これ以上ない女性だと思っている。
そんな女性から結婚を申し込まれているのに待たせてしまうことに意味はあるのだろうか……。
こっちの世界に来てからまだ二週間ほどしかたってないのに展開が急だ。これまで結婚なんて意識したことないしな。
日本は安全な国で、命の危険にさらされることもあまり無い。しかしこの世界はいつ死んでしまうかわからない危険が一杯だ。
そんな世界だと婚期は早まるのだろうか……。ルーミエとユウキの国の件もいつ解決できるかわからない。そうなるとレイラのことが俺はいつも気になってしまう。それにレイラもいつも俺のことを心配してくれるに違いない。
——考えて答えがはっきりしてきた。お互い心配しあうのであれば結婚という約束で結びつけておいたほうがいいかもな。それに俺はレイラが本当に好きだ。
結婚してもいい。
俺が思案している間「……約束だもんね。ルーちゃんとユウちゃんのことがひと段落したら……ん!」と、ずっとしゃべり続けていたレイラにキスをする。
そして落ち着いて告白する。
「レイラ。結婚しよう。俺は君が好きだ!」
「ぇえええええ~~~。どうして、どうして?」ってすごく驚かれた。
「会って一日しかたってないけど、結婚してもいいくらい好きだから?」
「疑問形?ふふふ。でも嬉しいよ。ぃいやったぁああああ~~~!よろしくね、アキト」
そう言いながら、キスしたり強く抱きしめたりを何度も繰り返すレイラ。
「こちらこそ、よろしく」
「ハイ、これは誓いの証」
そう言ってお揃いの指輪を出してきた。俺がレイラの左薬指につけて、もう片方をレイラにつけてもらった。
少し大きいなと思い、大きさを調整しようと魔力を通す。それと同時に指輪から大声で呼びかけがあった。
「師匠ー!!!どこにいるんですかー!!アキトさんもご一緒ですかー?」
「ええ!?何これ?」
「ふふふ……、遠くにいてもお話ができる指輪だよ。はぐれた時も安心でしょ。地脈を個人的に流用しているから、一般には販売されてない、とても高価な指輪なんだよ」
指輪に聞こえないように、俺は耳元でささやく。
「婚約指輪かと思ったよ」
「もちろん!その意味も込めているよ。ふふふ」
「ノイリ、アキトも一緒だよ。もう少ししたら帰るから朝食の用意をお願いしておいてね」
「はーい、わかりました」
「さあ、任務完了したし帰ろうか、アキト!」
「師匠?任務ってまさか……?」
「ああ~!!何でもないよ、ノイリ!!」と、言って慌てて指輪を外していた。




