第二話 どうやって戦うか
ギルドのフロアから訓練場に出る。
訓練場は思ったよりも広くサッカー場一個分の広さはあった。手前の方ではあるパーティがフォーメーションの確認をしていたり、ある剣士は素振りをし、人型の俵に試し切りをしている。奥の方では魔法の講習も行っているようで、五人が講習を受けている。俺はその講習の様子を遠目から観察する。
石柱に向けて火属性の魔法を打ち込んでいる。手順は手を前にかざして炎の球を形成。ある程度の大きさになったら、火の玉を前に飛ばして石柱にあてる。距離が遠く、かつ斜め後ろから見ているので、詠唱を行っているかは分からない。
詠唱はどうしようか……。そんなことを思いながらもとりあえず真似してみて、石柱に向かい手を前にかざす。
ファイアヤーボールをイメージする。テニスボール大の炎の球はゆっくり完成し、前にのろのろと進み始めた。
こんなんじゃ、当たらないよな。と、あきらめた瞬間にファイヤーボールは消えてしまった。
なるほどこんな感じか。視界の左上にあるMPは三減っている。
そういえば今のステータス設定は、”魔法威力”は3にしただけで、他のステータスは全部0だったな。きっと火の玉の大きさは”魔法威力”が関係しているのだろう。
魔法生成と進む速度が遅いのはどの項目に関係するのかな……。魔法といえばやはり”賢さ”と、いうことで”賢さ”に10振ってみる。
先ほどとは比較にならないくらいに早さで同じ大きさの火の玉が完成するが、進む速度は先程と同じだ。あとは”器用さ”かな?「器用さ」に10振ってみる。
いい速度で石柱に衝突し、ボムっという音とともにはじけた。
なんとなくステータスと魔法生成の関係性を理解したところで全部100にする。
◇ ◇ ◇
強さ:100 守り:100 器用さ:100 賢さ:100 魔法耐性:100 魔法威力:100 ボーナス:400
◇ ◇ ◇
何も考えずにもう一度火の玉を出してみる。
ん!わっ!目の前に直径三メートルほどの炎の球体が、ポンと出現したので、慌てて小さくなるように念じた。
圧縮された火の玉は見るからに高温で、少し離れていても、じりじりとした熱気を感じる小さな太陽のようだ。
いったん火の玉を消す。
ステータスを上げすぎたのと、大きさのイメージをしないまま、魔法を発動させてしまったのでMPを50消費し、体が急に気怠くなった。
それにしても大きさが桁違いだったな。大きさを意識しておかないとMPを一気に消費してしまう。
MPは残り50か……。
もう一度サッカーボールくらいの大きさをイメージして火の玉を出すとMP消費は五だった。テニスボールくらいになるように念じると圧縮され高温の熱の塊となった。地面にゆっくりと落としていく。
ジュっという音と共に地面に丸い穴があいて、火の玉も威力が弱まった。火の玉というよりは、溶岩の玉のような感じで、圧縮火炎球とでも命名するか。
大きさをコントロールできるのであれば、炎の形状を棒の形にできるのではないかと思いついたので、さっそく試してみることにした。
まず炎の玉を形成、圧縮してマグマボールに変形、それをさらに棒状に変形させるという手順だ。
試しに作ってみると思い通り形を変えることができた。直径二センチ、長さ五十センチほどの円柱を作る。回転させたり、上へ下へと動かしたり、形を変えたり、動かすたびにMPを少しずつ消費される。
面白いな。そしてコントロールも簡単だ。これがあれば剣はいらないんじゃないか?火魔法で試したいことはこんなところかな。
あれ?MPがいつの間にか満タンになっている。これもステータス変更の恩恵かな?
MP回復には”器用さ”、”賢さ”、”守り”、”魔法耐性”は関係なさそうだな。となると”強さ”か”魔法威力”か…。
試しに”強さ”を10にして炎を出しては消しを繰り返して、MPを30ほど消費してみる。
そして一、二、とカウントしながらじっと待っているとMPが10増えた。カウントは60、およそ一分間でMPが10回復した。
”強さ”を100にしたら100回復なのか?回復しすぎじゃないか。
再びステータスを全て百にして実験を進める。
次は箱魔法を試してみよう。小さい箱をイメージすると、目の前に透明のガラスの箱が生成され浮いている。ナイフをアイテムボックスからだして先端でつついてみると、堅い感触でナイフは通さない。
地面に置いて踏みつけてみても、びくともしない。指で触ってみると、見た目通りのガラスのようにつるつるとした感触で攻撃的なものではないな。
箱魔法はそのままで火の玉を出してゆっくりとぶつけてみるとパリッと音を立てて割れた。
いろいろ試してみてわかったことは、箱の形の変えることは可能で、球体にはできない。MPをさらに使い壁を厚くすることで強度を上げることができる。箱魔法に火魔法をぶつけてみると、MP消費をより多く使った方が強い。そして異なる魔法の同時使用は可能ということだ。
最後に治癒だな。ナイフを取り出し、人差し指の腹に傷を入れる……。あれ?切れない。
切れ味悪いナイフだな。と、思い足元の草を切ってみると、すっぱり切れた。
これもステータス項目”守り”の恩恵だな。”守り”1に変更してから、指を切ると今度は痛みとともに切れ、血が滲み、HPは3減った。
『治癒』 と、念じるとHPが最大に戻り、傷口がふさがり、痛みもなくなった。痛みが消えるのはありがたい。
次は欠損した部位を再生できるかどうかだが、自分自身には怖くて試せないので、後でモンスターにでも試してみよう。
もう一度指を切る。カウントしながら待つ前にジワーと傷が塞がり、痛みが引いていく。MPと回復の仕方は違うが、HPも自動で回復するため、ひょっとして治癒いらずの体なのかな……?
試したいこと一通り試したところで、ふと周りを見渡す。
訓練場では魔法の講習訓練が続いていて、フォーメーションの確認をしていたパーティは休憩に入り、車座になって話し合っている。戦士が四人、魔法使いが二人のパーティで戦力のバランスも良さそうだ。
ふいに家族や友人の顔が思い浮かぶ。
どうしても元の世界には戻れないのか。
俺はこの世界でうまく生きていけるのか……。親は悲しんではないかな……。
俺にもいつかは仲間ができるのだろうか……。不安がどんどん溢れてくる。
はぁ~~。と、大きくため息をつく。
うじうじしてても何も始まらない。できることをしながら前に進もう。俺は訓練所を後にして街へ出た。