第十一話 すべてを飲み込むもの その二
広場にいる敵は殲滅した。ここに来て随分と時間が経過しているが、他にこの広場にたどり着く冒険者たちはいない。それだけ街のいたるところに敵がおくりこまれているのだろう。
ルーミエたちのことが心配だが、携帯電話のような便利なツールはこの世界にない。ラスボスのガルジアを倒さなければ、この戦いは終わらない。
奴らの宣戦布告で、死んだ者たちの魂が城の礎となると聞いたが、その魂が取り込まれて作られた建造物が見当たらず、どこか別の場所に建造されているのだろうか……。
辺りを注意深く見回してみると、空間密度が濃い部分があり、蜃気楼のように揺らめいている。近づくと広場には不似合いな地下へと続く階段が現れた。
階段を下ると、天井は高く、広さも五十メートルプールくらいの空間にたどり着いた。しかし魂を集め、建造物の礎に変換するなんておぞましい術だよな。
奥まで進むと一人吠えている奴がいた。
「……足りぬ、こんなものでは足りぬぞ!もっと魂をよこせ!!」
◇ ◇ ◇
Lv157 亜種魔族 ガルジア 205cm 150kg 魔界八将軍 第三席
◇ ◇ ◇
肩書を見てもレベル差がかなりあるが、今の俺にはアズアフィアという青い炎の切り札があるので気持ちに余裕はある。
「おい、お前。どれだけでかいもの作る気なんだよ。もう終わりだ。広場にいたお前の手下は俺が倒した」
ガルジアはゆっくりと振り返る。その姿は剣士ではなく魔法を使う者に近い。
「だからどうした」
詠唱なし、モーションなしで雷がこちらに向かって飛んでくる。
反射的に箱魔法を展開したのが間に合い相殺して壊れて消えた。
「貴様を倒した代わりの奴を召喚するまでよ」
無駄に話し合うこともないな。五つの圧縮火炎球を展開。超高速でガルジア目指して飛ばす。
「ふん、ぬるい、……貴様ごときが我が目的を止めるというのか?」
腕の振りだけで全て弾きやがったが、その隙に青い炎を作り出す。
『アズアフィア、いくぞ』
圧縮火炎球に一気にMPを注ぐ。イメージができている分、青い炎はたやすく呼び出すことができた。
ガルジアの問いに答えてやる。
「ああ、そうだ、俺がお前を倒す。……じゃあなガルジア」
ガルジアは雷撃を連発する。
雷撃の向かう俺の目の前にゆっくりと揺らめく青い炎。
『吸引』
その一言で青い炎はすべての雷撃を飲み込み、ガルジアへ向かい始める。MPには余裕がある、たっぷりと魔力を充填させる。
ガルジアは青い炎を初めて見て、驚いているが何も手を打てない。
「何だこれは!…………や、止めろ!!……あぁーーーーー」
背を向けて走り出すガルジアをアズアフィアはパクっとのみ込んだ。それにしても二人とも負けそうになったら逃げるなんて似ているな。ドウザに引き続きガルジアもあっけない最後を迎える。
そして青い炎が消えるのと同時に勝利を知らせる討伐ログとアイテムドロップログがずらずらと流れ込んでくる。
同時にホールに充満していた魔力が解放されていくのを感じるが、建造物はそのままのだ。
もちろんこれで全てが終わった訳ではなく、街のあちこちで戦いは続いている。
まだ体は動けるので戦闘が行われているとこを探して走った。圧縮火炎球を使うと目立ってしまうようなので、通常のファイヤーボールで軍隊やパーティを手助けしていく。
「お兄さん、今度一杯おごるよ、どこに住んでるの?」や「ありがとう。助かったよ」と、幾度となくお礼を言われる。
敵の数も随分と減っているように思えたので、最終仕上げとして街の端から端まで、往復で走ってみると敵はほとんどいない。この様子ならもう少しで殲滅完了だな。他の奴らにあとは任せて、ルーミエたちに会いにギルドに戻ろう。
夕焼け空の中、騒然としている街をギルドに向って俺は走り出した。




