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Re*Birth  作者: 星乃泪
第2章 救出編
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第2章 第2話 夢と現と闇の境目。

 ーーまたか。


 僕へと浴びせられる声は、祝福から次第に嫉妬や嘲罵へと変わっていった。僕はただ真剣に、純粋に、試合に臨み、勝負を楽しみ、勝利を目指していただけなのに。


 僕は市内にある極々普通の高校に入学した。勉学も運動もいたって普通の、どこにでもいる生徒Aだ。そんな僕に異変が起きたのはその年の夏のことだった。部活は中学から続けていたテニス部。インターハイの予選では毎年一回戦で敗退するような弱小校。当然そんな部に入部したい生徒など少なく、一年である僕も半ば強制的に出場することとなった。

 そして、そう。

 事件は起きたのだ。

 一回戦。

 相手は優勝候補の3年生。

 誰もが敗北を予測していた。

 正直僕も諦めていた。

 相手のサーブに反応するのが精一杯で、あっという間に点を取られていく。

 しかし、自分のサーブに変わった瞬間、流れは変わった。

 初めはただのまぐれだと思っていた。狙いが良かっただけ。相手が少し油断していただけ。しかしその予想は全て間違っていた。僕が打つサーブは相手の外側をいとも簡単にすり抜けていく。打ち返せてもネットに当たってこちらにボールが返ってこない。まるで初心者とプロが対決しているかのような試合だ。

 結局、その後僕は優勝候補相手に一点も与えず、最短記録で勝利を収めた。当然、顧問や先輩は暖かく迎えてくれた。初の全国も夢ではないと誰もが思った。そしてその夢はすぐに現実となった。

 正直、驚きや戸惑いよりも嬉しさの方が強かった。沸き上がる祝福の声は、まるで英雄にでもなったかのようだった。そして迎える全国大会。夢のような舞台に心が踊っていたが、そんな僕とは裏腹に激励の声はそう長くは続かなかった。それもそうだ。側から見たら一方的な試合。観客の声援も次第に消え去り、選手は皆やる気を失っていく。気付けば自分は表彰台の上で、全国一位の座を獲得していた。最後まで僕を暖かく迎えてくれたのは、評判しか頭にない無能な教師と、大切な家族だけだった。勿論この話はニュースにもなったが、一方で変な噂やデマが飛び交っていた。教室でも部活でも浮いた存在。誰も僕と関わろうとするはずもない。僕はただ、スポーツを純粋に楽しみたかっただけなのに。

 こうして一度目の短い夏が終わり、二度目の春がやってきた。昨年とは打って変わって、テニス部の評判を引き寄せられるように新入生が続々と体験入部にやってくる。先輩達などに目もくれず、僕の孤独な練習風景に皆一喜一憂していた。正直、新入生の視線よりも先輩達の嫉妬に包まれた視線の方が嫌だった。早く、一刻も早くこの場から消え去りたい。その気持ちで胸が張り裂けそうだった。


「ソウマ先輩……ですよね?」


 そんな中、唯一僕に話しかけてきたのは、去年の僕と同じ、純粋な瞳をしたひとりの少女だったーー



 朝。

 初夏を思わせる心地よい風が、空いた窓から流れ込みカーテンに触れて囁き出す。外から聴こえてくる小鳥達の合唱と相まって、夏の情景を彷彿とさせる。

 未だに夢と現の境を認識できずにいるソラは、その中でこんなことを思っていた。

 そうだ。昨日あったことはすべて夢だったのだ。無機質な部屋に閉じ込められたことも、魔法のような能力を使う人達と出会ったことも、世界が崩壊していたことも、すべてすべて。そう、すべては夢。今目を開ければ、いつもの自分の部屋がそこにある。きっとそうだ。

 彼の考えを絶つように、何か重いもの、しかし弾力性がある何かが、ソラの上に覆い被さった。あぁ、きっと愛犬のジョンだ。まったく、甘えん坊な奴め。起きたら散歩でもしてやろう。……って、あれ?俺ん家、犬なんて飼ってたっけ……。

 彼は恐る恐る目を開くと、予想とは裏腹に、ひとりの少女と目が合った。少女は彼の胸元あたりで肘をついて、柔らかな笑みを浮かべる。


「あれ?こんな可愛い幼馴染なんていたっ……いたたたたたたた!!!」


 率直な疑問を口にしている途中で、少女がソラの頬を抓ってきた。


「もーソラっちまだ寝ぼけてるの?私はあなたの幼馴染ではありません!……可愛いってのは……その、ちょっぴり嬉しかったけど」


 頬を抓る手を止めぬまま、少女は顔を赤らめる。ふと、痛みに悶えるソラを見て我に帰るや否や、勢いよく彼の元から離れた。ソラは痛む頬を押さえながら、ゆっくりと起き上がる。


「夢オチだと思いたかったけど……。おはようユイ」


 現実へと引き戻されたソラは、若干の絶望感を抱きつつ、辺りを見渡してこれが夢ではないことを再認識する。ふと、部屋が綺麗に片付けてられていて、更にこの部屋にいるのはソラとユイの二人であることを理解する。


「あれ?ユイ、他の奴らは?」


 彼の問いに、ユイは不機嫌そうな顔で窓の外に指を向ける。ソラは立ち上がり、窓の外へ目線を向けると、外にはソウマ達の他にも、この施設にいるであろう能力者達が整列していた。そういえば、昨晩花坂が明日から救出がどうたらと言っていた。

 右端には、管理者である花坂を先頭に、カグラ、ハヅキ、そしてソウマの姿が見えた。一見すると昨日と変わらないのだが、何故か彼には只ならぬ違和感を感じていた。その左隣には、うっすら見覚えのある男と、相対する見知らぬ男が、お互いに上半身裸で己が肉体を魅せ合っている。その二人の間に割って、管理者と思わしき男もまた、上半身裸で肉体美を表現していた。世の女性達は所謂マッチョに魅力を感じるらしいが、あの光景を見る限り到底共感できるものではなかった。

  ソラは少し頭を抱えながらすぐ左に目をやると、二人の女性に挟まれ、なにやら怯えている少年の姿があった。女性のうち、片方は少年と同年代、もう一人は背格好からして管理者なのだろう。やや可哀想ではあるがしかし、なぜ少年はあそこまで怯えているのだろうか。さては……いや、模索するのはやめよう。彼も年頃の男性だ。過ちの一つや二つあるだろう。そして最も左端、そこにはさっき見たどれとも違う、異様なオーラを放つ者達の姿があった。先頭には黒いスーツにサングラスの男。その後ろにはヤンキー座りで携帯を弄っている金髪の少年。そのさらに奥には、ヘッドホンを付けながら華麗なブレイクダンスを踊る少年。三者三様、と言えば可愛いものだが、これは明らかにおかしい。瞬時にコイツらとは関わってはいけないと、ソラの本能がそう告げていた。


「もーそらっち!いつまで眺めてるの!」

「お、おぅ。……悪りぃ」


 前方に意識を集中し過ぎていたせいか、ソラはユイの言葉に動揺する。ふと周りを見渡すと、先程まで寝ていた布団は綺麗に畳まれていることに気付く。


「布団、片付けてくれたのか。ありがとな」

「今回だけだからねっ!あと、ここに着替え置いといたから、さっさと着替えて外に来てよ!あ、忘れてた。はいこれ」


 そう言って渡されたのは見慣れた黄色い箱。表面には特徴的なフォントで文字が書かれてある。それは小さな栄養士。バランス栄養食、カロリーメイトだ。


「ま、まさか。これは朝ご飯でしょうか」

「寝坊した者に食わせるメシはないわ」


 ユイはカグラの口調を真似て答えてみせる。「じゃあね!」とだけ付け加えると、ユイはニカッと笑みをこぼし、部屋を後にした。


「ま、俺の好きなチョコレート味なだけ、まだマシか」


 誰もいなくなった部屋で独り、ソラはカロリーメイトを見つめながら呟く。とりあえずユイに用意してもらった服に着替えると、カロリーメイトを加えながら足早に部屋から出る。玄関を出て集合場所に到着すると、彼に気付いた者達が一斉に視線を向けた。注目されるのは憧れだが、こんな形で注目されるのは少々心が痛む。


「おはようソラ君。随分と良く眠れたようだな」

「えっと、あの……すいません」


 嫌味が込められた花坂の言葉に、ソラは小さく謝罪を口にする。花坂は彼の返事を聞く間もなく、列の中央に足を運ぶ。


「さて、ウチの班が遅れたせいで予定を過ぎてしまったが、これより捜索を実行する。カグラ、ゲートを頼む」


 花坂の言葉に、ギリギリ口に入る大きさのペロペロキャンディを頬張りながら彼女はコクリと頷く。それぞれの列へ進み、その直線上に手を翳すと、次第に空間が捻れ、歪み、謎の空間が姿を現す。カグラがゲートを開いている間に、先程感じた違和感の正体をソウマにぶつける。


「なぁソウマ、どうした?なんか元気なさそうだけど、体調でも悪いのか?」

「え?あ、あぁ。別に、いつもと変わらないぜ?」


 平静を装っているつもりだが、確かにその口調には違和感を感じる。単純にテンションが低いというより、何か思い詰めているような、そんな気がした。彼は何事もなく正面へ身体を戻し、ソラもこれ以上言及することはなかった。

 カグラが合計四つのゲートを開いたところで、花坂の隣で筋肉自慢をしていた管理者が眼鏡を掛け、全員に向かって口を開く。


「さて、昨夜の作戦通り、何かあれば逐一このトランシーバーで連絡を取ること。この先に何が待ち受けているかは計り知れない。決して死者は出すな。それでは、健闘を祈る」


 男の言葉を合図に、各班がゲートは向かって歩を進める。ひとり、またひとりと、ゲートの闇の中へ吸い込まれていく。そんな中、花坂はひとりガサゴソと巨大なリュックに手を入れて何かを取り出している。渡されたのはこの季節に最も合わない、というか絶対誰も着ることはないもの。厚手のダウンジャケットだ。渡されるがまま、ソラ以外はなんの躊躇もなくそのダウンを羽織る。


「な、なぁ……。なんでまたこんな暑苦しいもん着る必要があるんだ?」

「遅刻してきたあなたに教える義務はないわ。いいから黙って着てなさい。どうせ言わなくてもじきにその意味を理解するから」


 カグラの鋭い眼光に、ソラは言い返す言葉もなく、大人しくそれを羽織る。そしていよいよ、花坂の班もゲートの中へ足を踏み入れるのであった。この先が何処へ繋がっているのかは、恐らく管理者とゲートを開いたカグラしか知らない。筋肉眼鏡も言っていたが、この先に何が待ち受けているのかは誰にもわからないのだ。不安と緊張が、体中を駆け巡る。それでも一歩ずつ、彼らは前進を続けるのであった。

 この時、ソラはまだ知らなかった。彼は一体何処に保護されていたのかを。それは日本の象徴。政治を司る中核。国会議事堂であることを。

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