始まりの日(2)side茂
前回の「所変わって」までの部分を茂目線でお送りします。
(あっぶね~~~)
成績開示の部屋で渡された紙を見て思った。かろうじて声には出さなかったが。
英語76点、国語62点、数学59点、理科62点、社会79点。計338点。
去年の合格者最低点が342点だったから相当ギリギリだ。もちろん、今年の問題が難しかったということは受験後すぐに噂で広まったからわかっていたことだけど。
(それにしても)
落ちなくてよかった。本当にそう思う。もしこれで落ちていたら、試験前に自分の勉強時間を削ってまで勉強を教えてくれた二人にどんな顔をすればいいのかわからなかった。
(あれ?)
校門まで戻る途中、気になる子を見つけた。
成績開示の列にいる以上合格したのには違いないんだけど、まるで不合格だったかのような面持ち。いや、むしろ落ちたほうがよかったとでも言わんばかりだ。
(……まあいいか)
気にしてもしょうがないし。それよりも早く待ち合わせ場所に向かわないと。たぶん、あいつらは先に待ってるだろうから。
「おーい」
校門まで行くとチカと美咲が手を振っていた
「早いな」
「何人いると思って」
こっちは並んでいた人だけで60人を軽く超えていたのに対し、疑大科は定員が40人(しかも合格者は大抵それより少ない)。自分より後に点数開示に行ったはずのチカたちが自分より早くここにいる道理だ。
「それじゃあ行くか」
「おう」
予定ではこれからチカの家で合格記念パーティだ。
落ちていたら? 残念会になっただけだが? チカと美咲は自己採点で合格点に達していたから前祝いしてたんだとよ。チクショウ。
「「ただいま」」 「こんにちは」
……決して小さくはない違和感はスルーしようとしたができなかった。
「なんで美咲までただいまなんだよ」
「あれ、言ってなかったっけ。結構前から、学校から帰ったら家に帰る前にいーちゃん家に来てたからこっちのほうが自然なんだよ」
「そういうこと。ほら、あがれよ」
「あ、ああ」
ここでチカの家について軽く(?)触れておこう。
チカの家、柳家はここら一帯で一番大きな家だ。地上二階、地下一階。豪邸というよりもお屋敷といったほうがしっくりくる設え。
父の雪光さんは寿司屋のオーナー兼店長。
母の千崎さんは作家で、児童文学からライトノベルまで幅広く手掛けている。
それで、だ。家が広いんだ、これが。チカの部屋は二階なんだが階段までが微妙に遠い。いやまあ気になるほどじゃないんだけど。
「あら、帰ってたの」
千崎さんが仕事部屋のある地下から上がってきた。
「うん、ついさっき。今から記念パーティするから」
「そう。あまり羽目を外さないようにね。晩ごはんは豪華なのにするから」
わかってるよ、と言ってチカがキッチンに向かう。
「そうだ、茂くんも晩ごはん食べていけば?」
「あ、いえ、俺は……」
「食べていくわよね?分量もそのつもりで伝えてあるから」
「……はい」
なんでだろう、千崎さんの声には有無を言わせぬ何かがあった。
母に夕食をチカの家で食べる旨を電話で伝える。
「そういえば美咲はどうするんだ、夕食」
「いーちゃんたちと一緒に食べるよ。当然」
「そっか」
……当然?
その言葉にどこか引っかかりつつも、今度はスルーした。
次回、柳家のみなさん全員集合します。(予定)