始まりの前に(1)
「そこまで。 筆記用具を置き、問題冊子を閉じなさい」
第一受験場の生徒40人が皆筆記用具を置いたのを確認し、答案を回収する。
「3時限目、英語の試験は13時50分着席となっています。遅刻なく着席しているように。それでは解散してください」
そう言って自分も答案用紙を束ね教室を出る。
「今年も多いですな、笹本先生」
第2試験場を監督していた高田先生が声をかけてきた。
「時代が変わったということでしょう。それに我々の頃はこの学校の様な分かり易い目標がなかった」
「それにしても難関突破は容易い事じゃぁありませんて」
「そうですね」
私立如月高校擬似大学科。
日本に置ける普通教育過程で唯一飛び級(の様なもの)を採用している学校だ。
高校入試だが、使う問題は大学入試センター試験と同レベル同形式。受験者数は120人前後、定員は40人だが最低基準点である720点を越えられるのは毎年30人に満たない。
「校長の方針が難関に拍車をかけていることは否めませんね」
「これはこれは南川先生。どうです、皆さんで昼食でも」
「ご相伴にあずかります」
「誰も奢るとは言っとらんのじゃが……」
校長の方針……擬似大学科の受験生を公立中学出身者に限るという考えには訳がある。求める人材は中高一貫で育ったエリートではなく、己を律し独学にはげむことのできる天才なのだから。
「それで、笹本先生。だれか有望な子はおりましたかね」
「そうですね……ぱっと見で三人ほど、これは間違いないだろうという生徒はいました」
「ほう」
「1人は男子で、その子は手が止まるということが少なかったように思います。1問ずつ自信を持ってマークできているのかと。2人目も男子で、一人目と同様です」
「ふむ、して、3人目は」
「女子でした。だれよりも早く解き終えて見直しをしていましたが、自信に満ちた目でしたね」
「ふむ、なるほど。まあなんにせよ今日は文系教科じゃ。明日の試験でつまずかんとも限らんからの」
「そうですね」
とは言ったものの、この3人に関しては大丈夫だろう。根拠などあったものじゃないが。
初めまして。youkiです。初投稿作品になります。
尻切れトンボみたいな形ですみません。試験2日目の様子は近いうちに。本編はもう少し先になるかな?