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その選択は、天国か地獄か

作者: 葵 花

目の前にグラスが二つ。


目の前の男は優雅な仕草で、女に手に取るように促す。


グラスの液体は光を受けて煌めいていた。




二人の出逢いは、ある意味運命的で。


何の取り得のない女は平穏な日常を送っていた。


しかし、男に出逢ってしまった。


一目で恋に落ちた男と、ただの通りすがりだと思った女。


男は数多の方法で思いを伝えようとする。


しかし、そのあまりにも激しく熱い恋情を受け入れることが女には出来なかった。



理解できないのだ。



平々凡々を絵に描いたような女にとって、男はあまりにも違いすぎた。



成功者であり、精悍な容姿、立ち振る舞いは流れるように優雅で。


世間でいうところの一流の極上の男だった。



どうして、そんな男が自分を求めるのだ。


恋物語であるなら、二人は恋に落ち、結ばれ、メデタシメデタシ…となるのだろうが、

現実ではそうはいかない。


恐ろしいの一言だ。


女の伝える断りの言葉も、拒絶する素振りも男は受け入れてくれない。


愛してるから、愛されるべきだと。


捕まれた手の熱さや、焼け付くような瞳。


追いつめられてゆく。



誰かに相談しても、只のノロケだと一笑される。


女の内にある震えるほどの恐怖を理解してもらえない。


振り切って逃げたい、でも全てを捨てて逃げる決意も女にはまだ出来なかった。

その曖昧さがかえって事態を女にとって最悪なものへとなっていくのだ。



社会の成功者である男にとって女の周囲を取り込むことなど容易いことで。



魅惑的な笑みで甘く囁く男の姿は、幸せな恋する男そのものなのだ。



このままでは、とてつもなく危険だ。


女の存在自体、思考も行動も息することすら、全てを支配されてしまう。


それほどまでに男の思慕は常軌を逸していた。



女は賭にでた。


己の命をもって。


解放してくれなければ永遠に男の手の届かないところにいくと。


卑怯だと思った。

でも、ここまで示さなければ、男は女の本気をわかってはくれない。


女は精一杯の勇気をかき集めて男に対峙したのだ。


男は息を詰めて女の真意を伺う。


やがて、答えを出すからと後日再会を約束した。



そして、呼び出されたこの時。


目の前に置かれたのは二つの液体の入ったグラス。


どちらか一つが、女が自由になれるものであると。



女が問いかけても男はグラスの中味を明かさない。


間違えなければ君は自由だ、残りのグラスは私が取るのだからだと。


男はソファーに深々と身を預け笑みを浮かべる。


そして再度、女を促した。


女は困惑する。


琥珀色の液体の入ったグラスは何なのだろう。


自由とはどういうことなのだ。


そして、その反対の意味も。


女が拒否しようとしても男は首を傾げる。


女が命を賭けて私に迫ったのだから、この選択にしたのだと。


女の視線が左右に動く。


右か左か。

自由か、否か。


グラスの中身はわからない。しかし手に取るしか道はない。


右か左か。

逃げられるのか、捕らえられるのか。


男は静かに女を見守る。



女は極限状態だったのかもしれない。



…あぁ、そうだ。昔から迷ったときはこのおまじないだ。


女は心の中で呟く。


そして、深く息を吐いてグラスに手を伸ばした。



その選択は、天国か地獄か。


その答えは、きっと一分もかからない。





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