私の家族、すなわちマイファミリー
先程の階段にしがみつくという不本意な筋トレと腰痛でぷるぷる震えながら自室に帰った私を出向かえたのはふっかふかの巨乳だった。ち、窒息する!浪漫の塊に殺されてしまう!
「ヒナコ様、無事で良かった!」
「ふぐー!」
頭上から私を出向かえた巨乳の持ち主の色っぽい声がする。熱烈ハグは嬉しいが本当に窒息しちゃうよ!
「カナリア、離れろ。ヒナコ様が困惑されている」
もがもがしていたら私を部屋に送り届けてから何処かに行っていたギルバートが戻って来て、私の顔を巨乳から引きはがした。酸素を、私に酸素をくれ。
生命の要である酸素を一生懸命体内に呼び寄せていたら、巨乳の美女が舌打ちしてギルバートを見た。こらこら、女の子がそんな舌打ちなんてしてはいけません。
「ギルバート。せっかくあたくしが教えてあげたのにもっと早く救出できなかったの?こんなに息をきれさせて、お可哀相に・・・」
「息をきらせているのはお前の脂肪の塊のせいだ。休息して頂くつもりでお部屋に連れて来たのに何の意味も無い」
美女の迫力ある睨みにもギルバートは表情を変えず落ち着いて対応している。が、女性の胸を脂肪の塊扱いするのはいけません。
「いや、大丈夫だよ。ありがとうカナリア、ギルバートに私が宙ぶらりんになってたこと知らせてくれたんだね」
さぞかし間抜けな姿だったろう私を心配そうに見てくるカナリアは魔術師だ。私がこの世界に来てすぐの頃拾った孤児で、私が名前をつけたんだ。とても綺麗な声だからカナリアって。金の巻き髪が豪奢な、天使みたいに愛らしい美少女でもしかしたら何処かの貴族の血を継いでるんじゃないかなとも思ったんだけど私が可愛い!お姫様みたい!ってデレデレになって育てたからか、気がついたら可憐なお姫様は妖艶な女王様に育っていた。お、おう・・・。彼女は魔術師だから長く生きるし見た目も変わらないから、傍目は二十代の美女だ。ぼんきゅっばばーんにうふんあはんな大人の女性の色気がむんむんで、私に無いもの全部を持っている。虚しくなんて・・・無い。嘘。凄く虚しい。
「ふんっ、お口だけは達者なボウヤだこと!」
そんな彼女は私が女手一つで育てたからか男には頗る冷たい。ごめん、ギルバート。私は貴方の事ボウヤだなんて思ってないからね。
ギルバートはカナリアの事なんてまるで無視して私に薬湯を煎れてくれる。カナリアの態度なんてもう馴れてるんだろうな。
「どうぞ、ヒナコ様」
「ありがとう」
私がソファーに座れば、すかさずギルバートを押し退けたカナリアが隣に座ってしな垂れかかってきた。うーん、妖艶な美女を侍らせた、見た目小娘の中身はお婆ちゃんか・・・絵にならなくて申し訳ない。あとギルバート、今思いっきりよろけたけど大丈夫?
ギルバートも私が拾った子だ。今から10年前、彼が15歳の時ぼろぼろになってうちの近くに倒れていたのを助けたんだけど、彼は過去を語ろうとしない。でも多分、他国の子なんだろう。凛とした美貌は時折冷たくも見えるけど、あまり感情が顔に出ないだけで本当は優しい。それに凄く強い。彼は大人になって私の護衛を申し出てくれたからいつも助けられているんだ。実はカナリアには魔術師になるならエディオス様の魔術師になって貰おうかと思っていたけど、二人からの強い反発に断念した。カナリアはエディオス様が嫌いみたいだし、そもそもエディオス様は魔術師を信頼していない。国王には一人魔術師が仕えるはずだけど、エディオス様にはいないままだ。でも確かに彼とカナリアの見た目だけ見れば、オスタシア国って凄く悪役めいた人達がトップなんだなと思われそうだ。あ、そうだ。二人にも明日のことを話さないと。
「そういえば、エディオス様がついに正妃探しを始めるんだよ!明日から私、その手伝いをするからね」
私が待ち望んだ未来の到来を告げたのに、二人は変な顔をした。どうした、もっとテンションあげていこうぜ!
「陛下がご結婚を?馬鹿な」
「あの腐れ野郎がそんな事を言い出すなんて、絶対裏がありますわよ、ヒナコ様」
信頼ないな、うちの国王!
結婚という祝い事にさえ変な顔をされるなんて、これはもう日頃の行いが悪いとしか言えないだろう。深く反省しろ。
「いや、でも一応国王としての責務を果たそうとしてるのかも」
でも敵が多いのも可哀相だから、私くらいは援護してやろうじゃないか。ギルバートが眉をひそめる。
「貴女に階段のことを伝える責務は自ら進んで忘れていたようですが」
やっぱり援護しなくても良いかな。深く深く反省しろ。
「・・・ヒナコ様、明日は俺もご一緒しても?」
ギルバートが私の顔を見て判断を仰いでくる。
「良いけど、どうしたの?」
「陛下と貴女を二人にするのは以前より賛成しかねていたのです。俺をお側に」
「そうですわヒナコ様。ギルバートはボウヤですけど、貴女様の盾くらいにはなりますわよ・・・ギルバート!あの腐れ野郎からヒナコ様をお守りなさい」
「だからお前に言われる間でもない」
私の娘と息子は世界で一番だ。もう親馬鹿で良い。