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我が家、すなわちマイホーム

「ぎゃああああああ!!!」

落ちる!落ちる!!

だ、誰かあ!助けてくれえ!!お母さーん!




オスタシアと言う国は、国王と巫女が住まう首都デガーナを中心に芸術が盛んな国だ。昔から音楽、文学、絵画、彫刻、建築など様々な芸術分野で多くの著名人を輩出していて、その分野の専門機関や留学生の数も多いまさに芸術国家である。私が住む聖城も独特な形をしていて、理科の実験で使うフラスコを逆さまにして地面に突き立てたような形をしているんだ。芸術の最先端を行く国の美的感覚は私のような凡人が語る資格は無いだろうから、あえてこの形について語りはしまい。いやでもこれが芸術なら、私が友人達に元の世界で「世紀末の画伯」と呼ばれたきっかけとなった作品だって立派な・・・いや、やめておこう、虚しさが増すだけだ。

とにかく独特な形をしている我が家は、フラスコの空洞部分に直結した細長い階段を登るのだ。この階段、あえて細長くすることで敵兵が一気に登ってこれないよう防衛も兼ねているのだが、手摺りが無い。おいおい、住環境整備に手摺りは基本だぞ!私を転落させたいのか!と言いたいが、まあ仕方ない、芸術だもので済ませたのは16歳の私。腰痛を抱えた66歳の私のことを何故考えてくれなかった、私!どうせ凄ーい!お洒落ー!とか言って外見を重視したんだろう、もっと頭を働かせろ!命あっての住家だ、命大事に!何度でも言う、命大事に命大事に命大事に!

更にこの階段にはもう一つ、防衛の秘密がある。一段魔術で出来たフェイクの階段がありそこを踏むと地上に真っ逆さまだ。何段目、と決めているからそこを越えたら良い話なのに、帰宅して来た今日の私は一段抜かして足を置いたそこで落ち・・・る瞬間に階段にしがみつき、今まさに宙ぶらりんの状態。

「だ、誰か助けてー!!」

くそっ、誰だ!勝手に消える階段の位置を変えたのは!変えるのは結構だが、まず私に許可を取るかもしくは報告をすべきじゃないか。例えば普段家の鍵を植木鉢の下に隠していたとしてある日誰かが場所を変えたまま黙っていたとしよう。次に帰って来た別の家人は閉め出し決定だ!なんて可哀相に!

というより、此処からもし落ちたら骨折ですむのかな。身体は16歳だが実際は66歳の私に骨密度の自信なんて無い。カルシウム足りてますか、私の骨。いや今は骨より筋力、違うそもそも手摺りをだな。

「ヒナコ様!!」

と、その時急に私を誰かが呼んだ。

その声は!

「ギルバート!!助けてえ!」

私の護衛官だ!

走るような音がするから彼は階段を駆け降りているんだろう。よくこんな場所で走れるな!

私が感心していると足音はあっという間に近づいて来て、強い力で軽々と引き上げられる。

た、助かった!

勢いあまりギルバートに飛びつくような格好になってしまったが、彼はびくともしなかった。流石騎士だな、鍛えてるんだね。

ギルバートは私を安全な場所まで連れて行くと、普段は静かな黒い瞳に険しさを浮かべ私を見た。うっ、ちょっと怖い。

「ヒナコ様、何故あのような事に」

「あー、ごめん。消える階段の場所が変わってたみたいで」

ギルバートは知ってたみたいだ。ということは私が何処かで聞き逃したのかな。だとしたらとんでもない大馬鹿者だな私は。自嘲する私を見ていたギルバートが訝しそうな顔で首を傾げた。

「陛下から何も聞いていらっしゃらないのですか」

「えっ?エディオス様?」

何でエディオス様の話?

「防犯の為階段の位置を時折変えるよう言ったのは陛下です。今回変えた場所は、陛下自ら伝えると」

「あの若造めえええ!!許せん!!」

あの男は27歳にもなってやって良い悪戯と悪い悪戯があることも解らないのか!お母さんが昔、男の人は幾つになっても子どもらしさが残っていると言ってたけどそんな可愛らしいものじゃないよ!よく正妃を決めたいなんか言えたな、まずは自分が大人になるべきだ!私が本当に落ちたらどうしてくれたというんだ!

王城に向かって親指を下に向ける私をギルバートがそっと建物の中へ促す。

あの顔だけ国王め!明日の朝を覚えてろよ!

「ヒナコ様、戻りましょう。休息を」

「あ、うん・・・待ってギルバート、少し屈んでくれる?」

私を助ける為に走ったからか、長い黒髪を結んでいる髪紐が解けかけていたのを直してやる。よしよし。

「助けてくれてありがとう、ギルバート」

ギルバートは少し驚いたように私を見た。それから、控えめだが優しい笑みを浮かべる。おっ、ギルバートの笑顔は貴重だぞ。

「いいえヒナコ様。貴女をお守り出来て良かった」

・・・何か照れるなあ。

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