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ラスボス、指導する【只今授業中】

「じゃあ今日は昨日お伝えしたように、オスタシアと近隣諸国についてお話しますね」

次の日、漸く教育らしい事が始められる環境が整ったディアローザで私は王女達の前に立つと彼女達を見渡しそう言った。何というか、皆座ってこっちを見てるのは良いけどマチルダ王女とアティ王女の間に出来た空間が異様に広い。昨日あれから見事に仲たがいしたことが一目で解った。

「ご存知の通りオスタシアは聖女の末裔を巫女として、その存在を通して聖女に対する信仰を強めてきました。オスタシアーーー正式な国名を、聖国オスタシアヌス。聖女を奉る教会と王家が一体となって信仰を各国へ広める先駆けになった国です」

私は王女達に見えるようにオスタシアを中心に置いた地図を机に広げた。

「オスタシアの隣に忠節なるハパルーがあります・・・アティ王女の祖国ですね。貴女方の誰が王妃になってもこの国との繋がりは深くなります」

マチルダ王女が嫌そうな顔をした。いや、アティ王女もそれ以上に嫌そうな顔をしている。

そして私はそれを見なかった事にした。

「剣聖国ハパルーの始祖王は聖女の騎士の一人とされています。彼は聖女に永久の忠誠を誓い、聖女はそれを受け入れました。以来、オスタシアはハパルーと永久なる盟約を結び現在に至るのです」

「あら・・・ならハパルーはオスタシアに自主的に・・・言い方が悪いかもしれないけれど、属国になったのかしら」

レベッカ王女が眼鏡を少し上げながら興味深そうに尋ねてくる。対して答えを返したのはアティ王女だ。

「ハパルーは永久なる盟約と同時に永久なる忠誠も誓った国ですの。オスタシアの為に戦い、オスタシアの為に奪うのです。属国のような関係ではなく、信頼で成り立つ関係ですのよ」

「何だか甘い関係ね・・・そもそも聖女を敬う国はオスタシアだけじゃなく沢山あるし、メリオロッドは実際聖女が救済した国であの国のアイーシャ王女は聖女の生まれかわりだと言われているわ」

「レベッカ王女が言ったメリオロッドの聖女とオスタシアの聖女は少し違うかもしれません。実は聖女の逸話や伝説はあちこちに散らばっていて色々な形で伝わっています。その中でもメリオロッド、オスタシア、ハパルーは特に関わりが深いとされ信仰の聖地として知られてるんです」

レベッカ王女が言ったのは派閥が違うようなものだった。仏教やキリスト教も宗派が分かれているような、ああいったものに似てるんじゃないかな。とは言え肝心の聖女の伝説が曖昧なものが多いから、宗派も大して厳しくない。オスタシア、ハパルーとメリオロッドは仲良くやっている方だ。

まあ、それは国の王が仲良くしてるだけで教会は色々あるらしいけど。

「何にせよハパルーはオスタシアの道具ってことじゃない」

マチルダ王女が嘲笑うような声音で言った。もう、何でこの王女はこうなのかな。

「聖女に裁かれた罪人の末裔が王家のアジェンダイに比べればずっと価値がある道具でしてよ」

アティ王女の嫌味反撃はマチルダ王女に痛烈に決まったようだ。顔を歪めてアティ王女を睨む彼女の隣でコディア王女が地図を覗き込む。

「私の国であるカースはここですわね。カースは聖女への信仰は厚いわけではありませんけれど、国民の中には熱狂的な信者もおります」

「それはセニアも同じだわ。ただうちは熱狂的な信者に対して反発する人間も多いけど」

コディア王女とそれからレベッカ王女の国は聖女に対して強いこだわりはない。歴史の中で聖女と関わりが薄かったり、或いは親交ある国が反聖女派の国だったりするのが彼女達の国だ。

「それは白の翼と黒の翼と呼ばれる集団の衝突だと思います。熱狂的な信者は過激派とされますけど、本来白の翼は聖女信仰の伝導士です。彼らは国や教会からの派遣で世界を回り各地で教えを広める役割を果たします。カースやセニアにはまだあまり派遣されてないみたいですが・・・お二人の国は黒の翼が多いので」

白の翼に対して黒の翼は反聖女派の集団だ。彼らの信仰は聖女ではなく、本来この世界を創った創造神にある。

「ただ、カースとセニアは王家が宗教に対して縛りつけていないので元々色々な宗教が混じっている分過激派が多いのかもしれません。黒の翼は反聖女派ですが、今の所大きな動きはありませんし、白の翼も彼らに対して動きを見せる様子はない。過激派同士のぶつかり合いは力の消耗にしかならないので本来どちらの翼も避けたいものですから」

ただ白の翼も黒の翼も、所属はそれぞれの国になる。例えばハパルーの国の教会から派遣された白の翼が他で問題を起こしても、オスタシアやメリオロッドが口を挟むと国際的な問題に発展する。そのため各国の教会が彼らを管理するのだが、そこで派閥の問題が絡んできたりでややこしい。過激派は何にせよ誰にとっても問題の種だ。そう言えばコディア王女もレベッカ王女も納得したように頷いた。彼女達は聖女に対して深い理解も反発もない。ある意味ではどちらにでも転ぶんだけど、オスタシアと婚姻を結べば彼女達の国も聖女信仰が深まるだろうな。

あとはエニシダ王女のディセルマだけど・・・。

エニシダ王女は相変わらず俯いたままで何も話さない。でも私が口を開けば少しこっちを見るから聞いてないわけではないみたいだけど、何だかなあ。

「ディセルマはオスタシアと同盟がありますから、聖女信仰が盛んな国ですね。白の翼も多く派遣されています」

実は白の翼の仕事は伝導だけではない。各国の情勢、土地の様子、発展具合などを同時に調べ、本国にもたらす諜報の役割も果たす。ディセルマは現在、特に問題無かったはず。

問題があるのはむしろマチルダ王女が来たアジェンダイだ。

「アジェンダイは創造神信仰の国で、オスタシアやハパルーとは今まで国交に亀裂がありました。ですが最近になり少しずつですが回復しつつある。何にせよ皆さんの誰が王妃になろうとも、信仰、それから各国の情勢は強く結びつくんです。それらを踏まえた上でこのディアローザで過ごして下さいね」

このディアローザで暮らす中、王女達個人が友好的になれば後々その繋がりが国際的な繋がりに発展する可能性もある。この集まりの中でリーダー的な存在になるなら、それは他者を纏める力を示す。

ディアローザはただの滞在場所じゃないんだ。







「あー!疲れた!久しぶりに沢山真面目な事話した!」

少し休憩を挟もう、と奥の部屋に引っ込んだ私について来たギルバートが、何処からか紅茶を運んで来た。あれ、侍女は?

「お疲れ様でございます・・・どうぞ」

「ありがとう。ギルバートが用意してくれたんだ?」

「近くにいる侍女がアジェンダイの者でしたので。奴らは信用出来ない」

はっきり言うギルバートに私は苦笑したけど、感謝してしまう。何入れられるか解ったものじゃないしね。

「薬湯があればそちらをご用意したかったのですが、申し訳ありません」

「良いよ良いよ。若い女の子が滞在する場所なんだから甘いお茶しか無くてもおかしくないし。私も昔は薬湯なんて苦くて飲めない!って叫んでたよ」

それが今では平気で飲める。むしろ渋くしたものの方が好みだ。

「ギルバートの煎れてくれる薬湯が一番好きなんだけどね」

「貴女の好みの味をカナリアに叩き込まれました。今では彼女より上手く煎れる自信があります」

私は笑った。

今日のギルバートはいつもの無表情であまり話さない、でも優しいギルバートだ。

やっぱり昨日の彼は空腹に堪えかねていたんだろう。解る、解るよ。私も薬湯がずっと飲め無かったら我慢出来なくて、きっとエディオス様に日頃の恨み辛みをぶちまけると思う。そうしたらきっとエディオス様は笑いながら私を城の屋根から吊そうとするだろう。

「・・・昨夜、『巫女の耳』と接触しました」

巫女の耳。私があちこちに派遣したり潜ませたりしている密偵みたいなもの。私だけじゃなくてエディオス様にもいるけど、別々で動かしている。

「アジェンダイ国王の悪政は国内での反発を高め続けていて、もはや王家だけでは対応しきれない所まで来ているとのこと」

「・・・オスタシアに王女を嫁がせて、支援を得るつもりなのかな」

「聖女信仰に反発する代表国のアジェンダイを取り込めば、アジェンダイも国民も否応なく聖女信仰の支配下に置かれます。オスタシアは信仰の名の下、黒の翼が多いアジェンダイを抑えつつ、またアジェンダイは煩わしい国民を抑える事ができる」

「抑えるったって一時的なものにしかならないよ。むしろ国民の不満はもっと高まると思うけど」

「そこまで王家が追い込まれているのか、或いは一時的の時間稼ぎの間に打つ手があるのか・・・あの王女の父親です。期待はできませんが」

「国の王は愚か過ぎても困るし、優秀過ぎても困るものだから」

「それからアジェンダイは最近、回復しかけていたハパルーとの亀裂がまた深まりつつあるようです。これはまだ表沙汰になっていないようですが、どうやらシリウス王の不興を買ったようだ。シリウス王は比較的穏やかな方ではありますが、一度敵だと判断すると容赦なく潰しにかかる苛烈な一面をお持ちだ。ハパルーと同盟を結ぶオスタシアを間に挟み一度距離を取りたいのかもしれません」

「ハパルーが絡む問題ならエディオス様は絶対知ってるね」

「はい。・・・貴女にはお伝えしていないようですが」

ギルバートの非難めいた呟きは聞かなかったことにする。というか、昨日散々聞いた。

「・・・私はエディオス様から何も言われない限り王女達への対応は変えない。でもギルバート、今度巫女の耳に会ったらエディオス様の周辺にいる他の耳と合流するよう伝えてくれる?」

「必ず」

ギルバートは強く頷いてみせた。

私は少し冷めてしまった紅茶を口にする。






やっぱり薬湯が飲みたいな。

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