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騎士の忠告

あれからアティ王女を落ち着かせるのに夕方までかかった。結局ギルバートは悪の黒づくめ組織の親玉で、私を誘拐しに来たものの巫女姫の聖なる気配とやらに改心した事になったらしい。へえ、それは凄い。

「ヒナコ様、そろそろ聖城にお戻りを」

「えっ、もう?」

改心したギルバートが私の側で一礼してから言う。そんな!今日はこのオスタシアと近隣諸国との関係を学んでもらうつもりだったのに、もうあのフラスコハウスに帰らなければならないのか。

何しに来たんだろう、私。

「皆さん、明日はこの国について詳しくお話しますから。扉は開く状態にして、アティ王女はむやみにディアローザから出ないようにして下さい。警備の外は何があるかわかりませんから」

仕方ない、王女達も慣れない労働をして疲れただろうし今日はこれでおしまいにしよう。私も疲れたなあ・・・。

と、それですんなり帰らせてくれたら良いのに。

私の中で空気を読まない定評があるマチルダ王女がまた、また余計なことを言った。

「そう。中身は老婆の化け物が何を教えてくれるか楽しみね!」

私としては、構わずさっさと退室してしまうつもりだったんだ。だけどそれは出来なかった。先程までいなかったギルバートが今は隣にいる。

「・・・化け物?」

ギルバートが何を言われたか解らないような顔をして呟いた。でもそれは一瞬で、直ぐに凄まじい形相でマチルダ王女を睨む。同じようにアティ王女が目を見開いた後、彼女もまたマチルダ王女を睨みつけた。

「我が巫女姫に対してよくもそのような口が利けたものだ!己が自国の立場を弁えよ!」

「ギルバート、やめて」

慌てて彼を止める為に声をあげたけど、騎士のギルバートに一喝されたことはマチルダ王女の無駄に高いプライドを傷つけたらしい。当然あの癇癪が起きた。だけど彼女が次に放った言葉がどうしても許せないのは私の番だったんだ。

「何ですって!たかが騎士が・・・巫女の犬がわたくしに何て口を!!」

「ギルバートは犬じゃない!!」

しまった。

私が思ったよりも大きく部屋に響いた声は、その場の人間を沈黙させる。ギルバートもアティ王女も、今は私を見ていた。まずい、微妙な空気に・・・。

でも意外なことにその気まずい空気を破ってくれたのはアティ王女だったのだ。

「何てことを!忠節なるハパルーの王女である私の前で巫女様とその臣下を冒涜するなど許される態度ではないわ!例え巫女様が許してもハパルーが許しません!」

目を吊り上げたアティ王女は、私達を振り向いて鼻息荒く口を開く。

「巫女様、ご安心あそばして。アジェンダイの王女には私からよくよくお話しておきます」

・・・大丈夫だろうか。王女同士の間で問題でも起きたらそれはそれで問題なのに。

けれど私が何か言う前に、ギルバートに連れ出されてしまう。ああ、ちょっと!






失敗した。

外に連れ出された私は夕闇に染まる空を見てため息をついた。

マチルダ王女みたいな人間には決してこっちが逆上してはいけないのに。相手も逆上するし、ああいうタイプはこちらが冷静になって対応しなきゃ駄目なのに!それもこれも昨日エディオス様がギルバートを犬とか紹介するからだ!

でも、昨日今日出会ったばかりのマチルダ王女にギルバートをそんな風に呼ばれるのは嫌だった。ギルバートもカナリアも、私の家族なのに。何も持たずにこの世界に来た一人ぼっちの私の大切な家族を悪く言われては黙ってはいられない。


反省はする。でも、後悔はしない!


気持ちを切り替えて、私はギルバートを振り向いた。彼にも不愉快な思いをさせちゃったから、謝らないと。

だけど私は彼の顔を見て驚く事になる。

ギルバートは私を凄く怖い顔で睨んでいたんだ。

「何故アジェンダイの王女を咎めないのです」

低く抑えられた声音は、ともすれば怒鳴りだしそうになるのを堪えているように思えた。

「あの王女は貴女を侮辱した。本来であれば直ぐにでもアジェンダイへ送り帰した後、然るべき罰を与えるべきだ。それを何故?裁くべきを裁かないのは温情ではない、怠慢です」

「何故って、それは」

「貴女が罰を与えないなら、何故俺を止めたのですか。主を侮辱されて黙っている騎士など必要ない」

ギルバートは私が思っているよりマチルダ王女の発言が許せなかったようだ。私はといえば普段寡黙なギルバートに矢継ぎ早に責められて何も言えずにいる。

「化け物だと?仮にも自分が嫁ぐかもしれぬ国の巫女に化け物と言ったのです。尋常ではない」

「確かにマチルダ王女の態度は問題だよ。でも私を化け物だと思うのは・・・アジェンダイの人からしたら仕方ないんじゃないかな」

アジェンダイは聖女を信仰していない。聖女の末裔と呼ばれるオスタシアの巫女なんてよく知らないし、むしろ知りたくもないだろう。宗教の力はとても大きく、時には国際問題にも関わるから。

それに私、気味悪く思われるのは慣れてる。

「・・・陛下は何故アジェンダイを、いえ、あのようにふざけた王女をお集めになられたのか」

「ふざけたって・・・」

「ハパルーの王女はまだ解る。ハパルーとオスタシアは永久なる盟約で結ばれているのですから。では他は?オスタシアにとって確かに有益な点は幾つかあるが、どれも微弱なものだ。国王の結婚とは相手の弱点も纏めて自国に取り入れるのと同義なのです。あの陛下がわざわざ少しの有益の為に動くとは思えません。・・・ヒナコ様、貴女は陛下に真実を伝えられていないのでは?あのお方の目的は妃を選ぶ事ではなく、別に何かあるのではないですか」

ギルバートの目はとても真剣に私を見つめてくる。別の、目的?

「貴女に知られては困るが、全く無関係でいられても困るような・・・貴女を王女達と接触させることにより誘発させたい事柄という可能性もあります。こういっては何ですが、陛下は身近な人間を平気で利用できるお方だ。貴女を利用することもきっと厭わない」

ギルバートが高い背を屈めて私の目を覗き込んできた。お互いがお互いの瞳に映るのを、私達は見つめあう。

「貴女はそれでも、陛下を信じるのか」

「・・・・・信じるよ」

頷いた私を彼は分からず屋な子どもを見るような目で見た。何か言おうと口を開きかけたギルバートより先に私が口を開く。

「私、エディオス様と昔約束したことがあるんだ。といってもエディオス様は幼かったから覚えてるか解らないけど、私は覚えてる。それを守る為にはあの人を信じないといけないんだ」

「約束。誓いではないのですね」

「うん。でも例え私だけでも、どちらかが守ろうとする限り約束は続くんだよ」

「貴女は事あるごとに陛下の話をしますね」

またいきなり話題が変わった。今日のギルバートはよく話すし、よく怒るし、どうしたんだろう。

「そうかなあ?でもほら、ある意味一番身近な存在というか、産まれた時から知ってるし、私は巫女だしね」

「陛下が大切ですか」

「勿論」

「ですが陛下は、貴女が彼を思う程貴女の事を考えていないかもしれない」

「・・・ギルバートは私に何て言って欲しいの?エディオス様を信じないって、酷い人だと言って欲しいの?」

二人は仲が悪いけど、ギルバートがエディオス様を悪く言う事ってあまり無かったと思う。多少の嫌味は言うが大抵先に言い出すのはエディオス様の方だ。ギルバートは私の言葉に少し目を見開いた。

「悪いけどそれは言わないよ。そんなことは言いたくないし、思いたくないの」

「陛下は貴女に迷惑なことばかり吹っかけています。今回はその程度では済まないかもしれない」

「今回は知らないけど、エディオス様が私にちょっかいを出してくるのは甘えてるんだと思う。小さい頃に家族を亡くして、私しかそういう人がいなかったから。それにね、信じてるから何も言わないとかそういうのじゃない。エディオス様が間違った方向に行くなら全力で止める」

「ヒナコ様」

「それに、私に何かあればギルバートが守ってくれる」

ギルバートは一瞬絶句して、私を苦々しい顔で見た。

「・・・卑怯なことを」

「ごめんね」

彼はまだ何か言いたげだったけど、一度視線を下げてからもう一度私を見た。

「俺とも約束をして頂けますか」

「約束?良いよ!何かしたいことがあるの?」

「はい。俺をこれからも貴女のお側に置いて欲しいのです」

それは別に約束しなくても全然構わないんだけど。むしろ私が喜ぶ。

「それを約束したいの?」

「それだけで良い」

「そうなんだ・・・勿論、約束する」

「ずっと?」

「うん」

「俺が誰であっても」

「うん」

「俺が何をしても」

「うん」

「・・・俺が貴女の思うような人間でなくても、側に置いて下さると」

あの、さっきから何の犯行予告をしてるんですか?何か知らないけど早まらないで欲しい。

「あのね、ギルバート。私は貴方の過去は何も知らない。言いたくないなら言わなくて良いよ。ただ我慢はしないで欲しいんだ。今日みたいに沢山話したくなるまで貴方の中に溜め込まないでさ、ちょこちょこ出していこうよ。ずっと一緒にいるんなら、話す時間も沢山あるよ」

私がそう言うと、ギルバートはふんわり笑った。いつもみたいに微かに笑うとかじゃなくて、安心したような。

誰か!ちょっと誰かカメラ!

「・・・夕闇が深くなっていきますね」

ギルバートは私から視線を外して空を見上げた。

「そうだね。あの世とこの世が繋がるとか、魔が出るとか聞いたことあるけど不思議な時間だよね」

「魔の時間か・・・俺には似合いかもしれんな」

その言葉は私に向けてというよりかは独白に近いものだった。

「私は好きだよ、この時間」

「・・・最近、思うのです」

ギルバートの溜まりに溜まった思い語りはまだ続くらしい。ずっとギルバートのターン。

「昔貴女に拾われた頃の俺は、貴女の側にいるだけで満たされていたのです。それは間違いない。ですが、最近は・・・俺は貴女に何を求めているのだろう」

それは私にも解らないな。逆に聞きたい。私は何が求められて、何が与えられるのかな。

この世界に来て今までずっと考えて来たのにまだ解らない。じゃあ、いつになったら解るんだろう。誰が教えてくれるのかな。



駄目だ、私まで思考の渦に呑まれそうになる。今はギルバートのターン!私のターンはまだ先だ!

少なくとも今の私にはやるべきことがあるんだから、悩む時間はない。

それにしても今日のギルバートはどうしたのかな。こんなギルバート初めて見たかもしれない。

・・・もしかしてお腹空いてるんじゃないのか。

カナリアも小さい頃お腹が空いたらぐずついてたし、彼は今日アティ王女にあらぬ嫌疑をかけられ無駄に走り回されたのだ。お腹が空いて今までのイライラがどん!と出ちゃったのかも。主にエディオス様方面のそれが。

「ギルバートはしっかりしてると思ってたけど、可愛いところもあるんだね」

「か、可愛い?」

「お腹空いてるんじゃないの?早く帰ってご飯にしよう、カナリアも待ってるよ」

ギルバートはぽかんとして私を見つめた後、長い髪をかきあげて苦笑したみたいだった。




どうしたんだろう、変なギルバート。



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