ラスボス、大変なことになる【誰かの想像で】
それから幾らか時間をかけて、ようやく扉の前に何も無くなった。へとへとになって息をついている王女達を尻目にさっきから私は気になっていることがある。
ギルバートとアティ王女が帰って来ないのだ。ギルバートは直ぐに戻ると言っていたし、男性の足でドレスを来た王女に追いつかないだなんて事はないはず。だからと言ってあのギルバートが私の許可もなく勝手な行動を取るとも思えないから、何かあったんじゃないかと心配になって来た。そしてそれは他の王女も同じだったらしく、息を落ち着かせたコディア王女が扉の外をきょろきょろと見渡した後、アティ王女が戻らないわ、と呟いたのだ。
「アティ王女とはさっき扉の前ですれ違ったんです。そのまま走って行ってしまったから、私の騎士に後を追わせました。・・・あの、一体何があってアティ王女は出て行ったんですか?」
私の言葉は王女達の視線を一カ所に集める力があったらしい。
マチルダ王女、また貴女なんですか。
「あの子が煩く喚きたてるから、それならお前の所に行けって言っただけよ」
「私の所に?」
何てことだ!
アティ王女は私を探しに部屋を飛び出したらしい。その時私は扉の後ろで鼻の心配をしていたのに。
「そうよ。こんなの悪戯じゃ済まされないとか、陛下に知られたら自国が滅ぼされるとか何とか大袈裟に騒ぐから追い出しただけ」
何てことだ!
正論を言った人物を追い出したなんて。
「・・・アティ王女の言ったことは正論だったと思うわ」
遠慮がちなコディア王女の呟きは、マチルダ王女の一睨みに伏せられてしまう。それを見ていたレベッカ王女が呆れたようにため息をついた。
そういえば、レベッカ王女とマチルダ王女は母親が姉妹だったはず。姉姫がアジェンダイに、妹姫がセニアに嫁いで行ったんだった。という事は二人は血縁者になるわけか。
「あの、マチルダ王女とレベッカ王女は」
血縁者なんですよね、と私が確認を取る前に、先程まで開かずの扉だったものが勢いよく開いた。その大きな音にそこに居た全員が驚いて音の出所に注目する。び、びっくりした!
そこに居たのはアティ王女を半ば担ぐように抱いたギルバートだった。二人とも体のあちこちに草や泥をつけている。えっ、何事・・・。扉を突き破らんばかりの勢いで飛び込んで来た彼らは、二人して私の事をまじまじと見つめてくる。美男美女にそんな熱い視線を向けられて平然といられる私ではなく、何だかこそばゆい感覚に姿勢を正してしまった。
私の顔に何かついてるのかな。だとしたら私はそんな間抜けな姿で偉そうな口を叩いていたんだろうか。憤死する。
私がそうして落ち着けないでいたら、今度は二人が同時にため息をついた。確かに私の顔は見ていて何の保養にもならないだろうけど、そんな、ため息なんて・・・。少し落ち込んでいたらギルバートが心底安堵したような声を出した。
「ヒナコ様、ご無事で良かった」
「酷いよギルバート!私の顔が保養にならないことの何が・・・え?ご無事って?」
何が無事だと言うのだろう。さっきぶつけた鼻のことなら相変わらず低いままなんだけどな。
「巫女様!!」
私がつい鼻を撫でていたらギルバートに担がれたままのアティ王女が声を張り上げた。
「ご無事ですか、巫女様!開かない扉の前で途方に暮れていたらいきなり黒づくめの男に捕まった挙げ句あんな事やそんな事をされたのでしょう!ああ、私がもっと早くにお伝えできていれば!!」
「してません」
貴女がいくら早く教えてくれてもそんな大変なことにはならなかったと思う。私がギルバートを見たら、彼はここ最近で一番疲れた顔をしていた。とりあえず私はアティ王女に真実を教えてあげよう。
「アティ王女、むしろ黒づくめの男に捕まったのは貴女の方ですよ。もっとも彼は私の騎士ですが」
「そうよ、貴方私を捕らえてどうするつもりなの!私に変な事をしたらお兄様が黙ってないんだから!」
「・・・・・先程からずっとこうなのです」
ギルバートがため息混じりに呟いた。どうやら彼らは変質者とその被害者ごっこをしていて時間がかかったらしい。アティ王女はさぞかし色々な場所を逃げ回って、ギルバートは変質者扱いを受けながら人の話を聞かない王女相手に誤解を解こうとしたものの結果的にそれは果たせず、強行手段で連れて来たんだろうな。
「アティ王女が貴女が危険だと言うので、何事かと思いました。俺は貴女の側を離れるべきではなかったのかと・・・」
「巫女様!この男の次の狙いは貴女ですわ!早くお逃げになって!!」
アティ王女の斜め上にぶっ飛んだ発想は私を心配してくれてるんだと思うんだけど、言葉を遮られたギルバートは凄く迷惑そうな顔をした。貴方はよくやってくれたよ、ギルバート。
呆然とする私にマチルダ王女が鼻を鳴らした。
「だから大袈裟だと言ったでしょう」
本当だ。




